第3話:ゴッドドラゴン襲来
聖歴1216年1月5日:エドゥアル視点
「キャアアアアア」
「ヒィイイイイイ」
「ドラゴンだ、ドラゴンが襲ってきたぞ!」
「逃げろ、逃げるんだ、喰い殺されるぞ」
「迎え討て、戦士の誇りにかけてドラゴンを討て」
「待て、このゴッドドラゴンは俺の従魔だ。
こちらに攻撃の意志はない。
こちらは亡命希望者だ、王と亡命条件について話し合いたい。
王以外の者を寄こしたら、交渉の意思なしと断じてこの国を攻め取る」
「俺さまだ、このグリムヴァルドがこの国の王だ。
俺さまはドラゴンごときに怖気づく憶病者ではないぞ、かかってこい」
「では、その強さ試させてもらおうか」
ギャアアアアア。
どれほど勇猛を誇った王なのか、俺は隣国の田舎育ちだから全く知らないが。
だが普通に考えて、人間がゴッドドラゴンと戦って勝てるはずがないだろう。
俺は人間としては規格外すぎるので、無視してもらうしかない。
もしこの世界にゴッドドラゴンと勝てるような人間がいるのなら、管理神が誓約をさせてまで勇者の従魔になどしない。
★★★★★★
「それで、俺たちの移住を認めるのだな、グリムヴァルド王」
「……はい、移住を認めさせていただきます」
顔も身体も元の3倍くらいに腫れあがった王がもごもごと答える。
少々かわいそうだが、この世界は弱肉強食だ。
グリムヴァルド王を武力でこの国を切り取ったと聞いた。
だったら逆に武力で国を奪われるのも当然の事だ。
「俺たちに割譲する土地は、王家直轄領の中で、誰も住んでいない場所ならどこでもいいのだな」
「……はい、森でも山でも平原でも、好きな場所にお住みください」
「で、俺は独立した公王としてグリムヴァルド王の指図を受けなくていいのだな」
「……はい、エドゥアル様とゴッドドラゴン様に指図をするなど考えもしません。
対等の同盟相手として遇させていただきます」
「妾の事はラファエル様と呼ぶがよい。
ゴッドドラゴンや神龍は我が一族の総称だから、ちゃんと名前で呼ぶのじゃ。
今回のお前の無礼を一族に話したら、この世界を滅ぼす大事になる。
妾だけの事で済ませてやる、感謝するのじゃ」
「……ありがたき幸せでございます、ラファエル様」
これだけラファエルが脅かしておけば、俺の留守にバカな事をしないだろう。
まあ、バカをやったらグリムヴァルド王が戦死するくらいの準備はしておくが。
「では、近くにダンジョンと海がある場所がいい。
まずはグリムヴァルド王がお勧めする場所があれば言ってみろ。
俺が好き勝手に選ぶよりはいいだろう。
何なら敵対する国との国境に住んでやってもいいのだぞ。
そうすればこの国が侵略される心配が少しは減るだろう」
多少は利も与えておいてやらないと、やけくそになられたら困る。
「ではエドゥアル様、この地に住んでいただけないでしょうか。
もしこの地に住んでいただけるのなら私の娘を幾人でも嫁がせさせて頂きます。
この付近一体全てをエドゥアル様の領地としていただいて構いません」
★★★★★★
ゴッドドラゴンのラファエルに乗って、グリムヴァルド王が割譲すると言った地に飛んできたが、あまりにも前世で知っている地形に似過ぎている。
1216年前にこの世界に召喚され、邪悪な神々と熾烈な戦いを繰り広げたという召喚勇者たちは、どう考えても前世の俺と同じ世界から来た人たちだな。
彼らが故郷の世界と同じようにこの世界を作り替えたというのだから間違いない。
そうでなければ、このような世界が創造されるわけがない。
上空から見た感じではイタリア半島北西部だと思うのだが、あっているかな。
千年以上前に、召喚勇者たちのおぼろげな記憶で創造されているから、大きく違っている場所があってもおかしくないからな。
「思っていた以上にいい場所ですね、エドゥアル様」
ラファエルも俺にだけは敬語を使うようになってきたな。
「そうだな、思っていた以上にいい場所だ」
「エドゥアル様はご家族と一緒にこの地に住まれるのですか」
「いや、この地の事はラファエルに任せて俺は旅に出るつもりだ」
「……申し訳ありませんが、できれば妾と一緒にいていただけないでしょうか」
「なぜだ」
「また管理神に誓約させられるのが怖いのです」
「確かに、俺の留守にラファエルが管理神に襲われて、俺の家族がラファエルに喰われるような事は絶対に避けなければいけないない。
分かった、家族と元奴隷たちを護る城を築いたら、一緒に旅に出よう」
「ありがとうございます、エドゥアル様」
「ただし、俺と旅に出る以上、普段は人間の姿になってもらう。
それでもいいのだな、ラファエル」
「それは大丈夫です、エドゥアル様
元々我ら神龍族は半龍半人の生活をしていました」
「ではあの大きく突き出た岬に降りてくれ。
あそこに城を築いたら、敵が襲ってくるのは北側からだけだ」
「そうですね、他の場所は全部海に突き出た断崖絶壁ですね。
それに押し寄せる波も船を砕くほど激しいですから、海獣も近寄れません」
俺は27人の家族と300人の奴隷を護るために、割譲された領地の中で一番護り易そうな岬を要塞化した。
あり余る魔力とこの歳になるまでに試し尽くした魔術を駆使して、難攻不落の大要塞を岬に築いた。
一族だからと言って無条件に信用できないから、祖父母と両親、弟妹たちに絶大な魔力を秘めた魔宝石と魔道具を与えた。
当然だが、本人以外は使えない厳しい制限を設けた上にだ。
それらを使えば、フルンバルド王国、隣国、管理神が襲ってきても撃退できる。
もし魔力の補充ができたら、この世界を制覇できるほどの魔道具だ。
「父さん、母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、何かあったらこれを使って容赦なく敵をぶち殺してください。
お前たち1人1人にこれを渡しておくから、何かあったら俺に知らせるのだぞ」
俺は両親と祖父母、弟妹に一族や奴隷たちを信じ過ぎるなとよく言い聞かせた。
そして何かあれば即座に戻れるように、全員に通信用の魔道具も与えた。
それも大量の魔力を蓄えた魔宝石が伝書使い魔に変化する魔道具と、携帯電話のように魔力線を俺に結び通話できる魔道具の2種を与えた。
「エドゥアル、お前が心配しているような事は起こらない。
我が一族は猟師だ、全員が弱肉強食の掟をわきまえている。
お前の叔父や叔母たちが一族の長の座を狙う事は絶対にない。
もしそんな事をしたら、お前が帰ってきた時に皆殺しにされるだけだからな」
「わかってはいますが、それでも心配なのです、父さん。
敵はゴッドドラゴンを支配できるほどの力を持った神なのです。
その力に恐れをなして、一族を裏切る者がでないとは言い切れないのです。
猜疑心が強すぎると言われてもかまいません。
憶病者だと馬鹿にされてもかまいません。
父さん、母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、こいつらが無事でいてくれるのなら、他の事などどうでもいいのです」
「それなのに、ここを離れて旅に出るのですね、エドゥアル」
「母さん、家族に軽蔑されるのは嫌ですから、仕方ありません。
父さんや母さん、おじいちゃんやおばあちゃん、こいつらが誇れるような人間に成りたいですから」
村長たちに睨まれ理不尽な掟に縛られる状況なのに、それでも恵まれない村人たちに手を差し伸べ続けたおじいちゃんとおばあちゃん。
その2人の教えを守り続ける父さんと母さん。
そんな両親を尊敬する弟妹たちに蔑まれる事だけは耐えられない。
やりたくはないが、この世界で苦しんでいる人たちを救わなければいけない。
「それで我が主よ、どこに行くのじゃ」
「そんな事は決まっている、腐れ勇者パーティーをぶちのめせる場所に行くのさ」
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