第22話 調査開始!
首の無い馬、というだけでもありえないけれど。普通の馬と違うところは、全身がほのかに青く光っているという所だろうか。
「あの馬……生きてんのか? 死んでるのか?」
「分かんねぇ……専門家が真っ先にどっかに行っちまったもんな」
なにがあっても困るので篤臣を家の近くまで送って行くことにした。篤臣はどっちかといえば俺がお前を送るべきだろうがよ、と答えたけれど、ここは人外というカードを切らせてもらう。
専門家、と言えば八尋だがどこに行ったのだろうか。あのなぞテンションな男を追って走り去っていたことまでは分かるけれど、携帯を持っていないので連絡のしようがない。
携帯の使い方ぐらいは知っていると信じている。
「なぁ、鬼って言ってもおとぎ話の鬼じゃなくてあくまでも霊的な奴なら、あれ使えるんじゃね」
唐突に篤臣が口火を切った。戦の頭にクエスチョンマークが浮かんだ。
「は?」
あれ、とは?
「テレパシー」
「……あのなぁ、さすがにそれはないって。そもそもテレパシーなんてやったことないし」
テレパシーといえば、相手の気持ちを読み取ったり言葉を使わずに会話をしたりする一種の超能力の事だ。できるわけがない。出来るわけがない、はずなのだが。
先程八尋が超能力の一種である
八尋ならできるかもしれないが、自分は戦だ。
「魄の力を使えば何でもできるって八尋は言ってたけど、俺は何も知らない」
「何でもかぁ。なんか、ベースがおとぎ話なのにやってることが近未来SFっぽくていいな」
「また訳の分からんことを……」
こういうのに興味があるのだろうか。篤臣の語気が強くなっていく。
「だってよ、いいかえれば無限にあふれるエネルギーって事だろ。熱にもなるし光にもなるし、こいつみたいに硬質な武器にもなるって」
そういって何もないところから炎神御柱を取り出して篤臣が言う。篤臣が言うにはこの炎神御柱も以前と比べればだいぶ落ち着いてきた様子で、前のような大火事を引き起こそうとそそのかすことはないそうだ。
「これって、銃刀法違反になるよなぁ。槍だぜ槍。今じゃ果物ナイフ一本でも大騒ぎされるんだから、槍なんて即アウトだろ」
「まぁ、普段はしまえるんだからいいじゃんか。自分の意思で隠せるならまだましなんじゃ……」
「そりゃそうだけどよ……。いきなりバトル漫画のキャラに仕立てられる一般人ってこういう気分なんだろうなって」
この点が普通の武器じゃないことの証明なのだろう。炎神御柱は篤臣の魂を削って作られた、ある意味篤臣の分身。
(いつか篤臣自身に戻してやることはできるかな?)
「普段生きている分には問題はないけれど、いつか戻りたいな、とは思うんだよな」
「そりゃそうだろ」
「でもよ、あんだけ大騒ぎになったなら、お前の事もばれるんじゃないか?」
「……」
そうだ。自分は普通の「人間」じゃない。そもそも生物かどうかもあやふやなのだから。何がどうなっているのか、てんで想像はつかないけれど。
いつかばれるなら、自分はどこに行けばいいんだろうか。思い当たる場所といえば、八尋が来ていた場所になるのだろう。
(だとしても、俺はこの街が好きだ)
この場所を離れる日がいつか来るとしても、心の底で思う場所はここだ。
「見ろよセン! この間の配信のオバケ騒動発見者が増えてるんだ!」
ノリちゃんが見せてくれた携帯画面には、多くの目撃情報が寄せられていた。あの配信から一週間がたったというのに、どんどんと目撃情報が増えていく。
「多いな……」
「だよなー! 俺もいつかオバケ見てみて―」
「それはだめ!」
「は?」
きょとんとしてノリちゃんが戦を見る。ノリちゃんはオバケとして認識してないけれど、こちらからすれば大事故につながりかねない事態だ。
(ノリちゃんには危険な目には遭ってほしくない)
ずっと一緒だった友達だ。友達を守るためにも、一日も早く終わらせないと。校庭に繋がっている渡り廊下を歩いていると気配を感じた。
「八尋」
「なんでしょう、若君」
背後に立っている。でも、声は下から聞こえる。物陰に溶け込んでいるのか、はたまたそれも”魄”の力なのか。
「調査をしようと思うんだ」
「ええ。そうおっしゃると思い、私も教室を抜け出してまいりました」
自分達は人じゃない。人の輪から抜け出せば、たちまち認識されなくなる。世界から消えてしまう。
(とりあえず、この間の噴水の所に向かわないと!)
靴を履き替え、戦と八尋は昼下がりの町へと走り出した。
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