11 ウィルくん大学を卒業する

「変な感じー?」


 シンクにおねだりされた俺は、味覚センサーと咀嚼機能を取り付けた。


 だが、その結果は何とも微妙な答え。


「これがおいしいのかな?」

「よくわかんないやー」

「この電気信号を、美味しいとか楽しいって感じる人間って、変なのー」

「そうだね、変だねー」


 実際に食べ物を食べてみたが、機械であるシンクたちに、食べ物の味を理解するのは難しい様子。


「そもそもお前たちは戦闘用で、生活目的で作ったAIじゃないからな」


「「「そっかー」」」


 俺の言ったことをきちんと理解しているのかはなはだ怪しい。

 だがそんな感じで、シンクたちには食べるという行為が不評だった。


 取り付けたセンサーと咀嚼機能は撤去。

 小型多脚戦車のシンクたちに、あまり無駄な機能をゴテゴテと取り付けたくないので、俺的には無駄な機能を外せてよかったと思う。





 さて、そんな俺も今年で12歳になる。

 前世の日本だと小学校から中学校になる時期だが、俺の場合とっくに高卒の資格を得ている。


 それどころか、今年で大学を卒業だ。

 高校までは飛び級出来ても、大学からは飛び級が存在しない。


 と言っても、この4年間、論文を提出しに行った以外は、まったく通うことのなかった大学で、思い入れは何一つ存在しない。



「坊ちゃん、大学ご卒業おめでとうございます」

「「「おめでとうございます!」」」


 淡白な俺と違って、毎回のように学校の卒業とあって、使用人たちが喜んでくれる。


「ありがとう」

 と、使用人たちに応えておく。



「ヒエエエーッ、グランツ一家ファミリーだ!」

「目が合ったら殺される。今すぐ逃げなきゃ」

「死にたくない。ヒイッ、殺さないでくれーっ」


 学校を卒業するたびに思うのだが、外野の方々はちょっとオーバーすぎやしないか?


 うちの使用人たちが、ちょっと強面の顔をしているからって、そんなに怯える必要はないだろう。

 マフィアよりヤバイ元軍人集団で、今も拳銃をスーツの下に装備しているが、ライフルやパワードアーマーを装備していないから、そこまで害はない。


 なお、家に帰ればどちらの装備品もちゃんとある。


 航空機動戦艦に搭載する機関砲も、製作途中という名目で庭に置いてあるので、本物のマフィアが我が家に襲撃をかけてきても、ミンチ肉にして擦り潰せる。


 弾薬に関しても、俺たちの住んでいる街を吹き飛ばしても余る量が備蓄されているので、マフィアどころか、ちょっとした軍隊でも押し返せるレベルだ。



「……ウィル、この街の人たちって、グランツ家のことを怖がってない?」


「そうか?これがいつも通りの反応だぞ」


「ええっ!」


 俺の大学卒業ということでシェルドも来ているが、何故か死んだような目をして、俺を見てくる。



「それに逃げる人だけじゃないから安心しろ」


 そう、俺の学校卒業の度に繰り返される儀式がある。


 一般人が逃げ去った一方、我がグランツ家の家族に、両手を揉みながら近づいてくる人たちがいる。


 市議会議員に州議会議員、市長や州知事などだ。


「グランツ家のウィル様は神童ですな」

「いやはや、我が街にこのような天才がいることを、市長として誇りに思います」

「ウィル様、ぜひとも私の娘と懇意にしていただければ……」



 俺の事をおだてつつ、しっかりすり寄ってくる地方の政治家たち。

 国レベルの議員は流石にいないが、この辺りの地方では、グランツ家は他の追随を許さない名士。


 俺だけでなく、今回の卒業式を見に来た両親たちにも揉み手して、煽てまくる。


「ウィル、あの人たち絶対変だよ」


「ただのハイエナだから気にするな」


 政治家なんてのは、どいつもこいつも碌な人間がいない。

 我が家のおこぼれを欲しがる連中なので、気にしないのが一番だ。



「……この状況で涼しい顔しているウィルが、一番変」


「そうか?」


 そういえば、俺も昔はシェルドみたいなことを考えていた気がする。

 だが、この世界に転生してから12年になる。


 目の前の光景を見ても、どうせいつもの事としか思わなくなったが、昔の俺は何を考えていたんだろうな?


 俺も段々前世の常識がなくなって、この世界に馴染んできたのだろう。

 この世界に馴染むってことは、この世界に生きる人間として正しいことだな。





 なお、大学を卒業した俺は、この後大学院で修士課程に進むことになる。


 修士課程を卒業できれば、軍の上級士官教育を受けることもできるので、俺の将来の為にも、ぜひとも修士課程を卒業しなくては。


 まあ、相も変わらず爺さんによって、俺は大学院には論文を提出するだけでよく、通わなくていいんだけどな。



 俺の学園生活が、またしても無色透明すぎる。

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