3 グランツ・ファミリー

 俺こと、ウィル・グランツの生家であるグランツファミリーについて話そう。


 我がグランツ家は、キース・グラン連邦の西部にある都市、アンシェンに本拠を構えている。


 アンシェンは人口20万人ほどの地方都市だが、第4次大戦とその後に続く対シャドウウォーカー戦争によって、人口が毎年減少している。

 と言っても、この世界ではどこの国も街も、基本的に人口が毎年減少している。

 世界規模で続く戦争が、数十年に渡って続いているせいだ。



 それはともかく、我がグランツ家は街では名士と言っていい家柄に当たる。


 街の郊外で軍需工場を経営していて、主にキース・グラン連邦の空軍相手に取引を行っている。

 主要な取引は、武器弾薬に装備品。


 工場では約200人の従業員を雇っているが、全ての工程がオートメーション化されているため、生産性は驚くほど高い。


 そして、この街で最も納税額が多い。


 戦争が起きれば、人間の血を代価に軍需産業が儲かると言われるが、我が家はその典型でメチャクチャ稼いでいる。


 死の商人と言われても、文句を言えない。



 そんな街の稼ぎ頭の工場を経営している我が家には、地方議員の先生がやってきて、低姿勢で俺の爺さんや父さんに、挨拶に来ることが多い。


 流石に国家の重鎮クラスの議員は来たことがないが、この街ではグランツ家に逆らってはならないという、不文律めいた掟があるほどだ。



 自分の生まれた家の事だが、おっかないな。

 ヤクザのボスか何かか?

 そんな風に、勘繰りたくなってしまう。


 家の敷地内にも、工場で組み立て中の部品という名目で、航空機動戦艦に装備されるはずの機関砲が置かれているしな。



 そして俺は、グランツ家のお坊ちゃん扱いされている。

 家の使用人とか、工場で働いている人たちから、そう呼ばれるなら分かる。

 だけど街中の一般人でさえ、俺を見かけると、みんな坊ちゃんって呼んでくる。


 権力者の家って怖ぇー。




 なお、我が祖国キース・グラン連邦は、直接シャドウウォーカーの勢力圏と現在国境を接していないものの、カルナディア条約機構の加盟国として、シャドウウォーカー戦への派遣軍を国外に送り出している。


 条約機構の盟主である、青の超大国アルカディアからの要請があるためだ。


 そしてこの超大国さんだが、実はキース・グラン連邦のすぐ東に位置する。

 国境が接したお隣さんで、ただの中規模国家に過ぎないキース・グラン連邦が、間違っても逆らってはならない相手だ。


 両手を揉みつつ超大国様のご機嫌伺をし、言われたことを従順にこなしていく。

 うちの国ってのは、そうやって超大国の庇護下で、戦々恐々としながらも、今日までやってきた。



 ところで、そんな超大国様の軍隊にも、うちの工場の品が輸出されている。


 国家としては逆らってはならない相手だが、ビジネス相手としては有望なので、末永くお付き合いして行きたい。




 ところで、うちの工場の品が、なんで物騒な相手に納品されているのを、5歳のガキが知っているかだが……



「ウィル、お前は優秀だから、ワシが手ほどきしてやろう」


 ある日祖父爺さんに呼ばれてついて行けば、うちの工場の生産品の勉強をさせられる羽目になったからだ。


 5歳とは言え、前世のある俺。

 異世界でチートを……とはいかない。


 この世界の科学技術は、前世の日本より遥かに進んでいる。

 21世紀の科学技術程度じゃ、100年以上前の技術扱いされて全く役に立たない。



 生まれて早い段階でそのことが分かったので、中身が大人の俺は、幼児の頃から勉強していくことで、なんとか知識面で置いてきぼりを食らわないように、猛勉強した。


「知識とは力だ」

 それが分かっているから、前世では学生時代に勉強を頑張り、ホワイト企業に入社して、会社外の時間は好き放題に遊び呆けた。


 この世界でも、知識は力になる。


 将来がどう転ぶか分からないが、何も知らないより知っていることが多い方が、確実に人生の選択肢が増える。


 だから、俺は3歳くらいから勉強に励んだ。



 その姿を爺さんが気に入ったようで、齢5歳にして、なんと爺さんから直接教育を施されることになった。


 爺さん、実は超有能な研究者だよ。


 爺さんから直接教育されるようになって分かったことだが、昔は青の超大国アルカディアにある、特務機関ゼーレンという組織で研究員をしていたそうだ。


 ……その特務機関、人類液化計画とかやらかしたりしないよね?


 実は世界を裏から操るモノリスの支配者たちがいて、シャドウウォーカー殲滅の暁には、約束の時が来たと言って、人類液化計画を発動したりしないよね!?



「うちの家だけでも、ヤバいオーラが漂っているのに、爺さんがもっとヤバすぎる組織に所属していたとか、知りたくなかった」


 知ることは将来の選択肢を広げるけど、知ってはならないことを知ってしまった気がして、俺は5歳にして途方に暮れる羽目になった。



 あ、そうそう。

 うちの生産品の一部が超大国に輸出されているけど、その輸出先がゼーレンって名前のヤバヤバ組織だった。



「俺、泡拭いてぶっ倒れてもいい?」


 駄女神だけでなく、うちの爺さんもトンデモ人間だった。

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