2 ウィル・グランツとビリー教官

 ハロー、地球の諸君はいかがお過ごしだろうか。

 俺の名前はウィル・グランツ、5歳。

 黒い髪に翡翠を思わせる緑色の瞳をした、ショタ少年だ。

 たぶん将来は美青年確定(願望)だ。


 そんな俺の前世は地球人。

 駄女神のせいでエインヘリアル見習いとなって、この世界を侵略している神の眷属と戦えなんて使命を与えられた。


 大変、有難迷惑である。

 今からでも、こんなクソみたいな使命を放棄してしまいたい。



 放棄したいけど、今更別の世界に異世界転移なんてできるはずがない。

 転生の方もお断りだ。

 転生となると、今すぐ死ななきゃいけないからな。


 なので、この世界で生きていかなければならないが、世界情勢がきな臭すぎて、俺の元に戦火が及ぶのも時間の問題だろう。


 現にシャドウなんて名乗る、自称魔神がこの世界にはいる。


 おまけに家にあるタブレット端末で調べごとをしてみれば、この20余年の間に行われた、人類とシャドウ軍勢との戦いが酷すぎる。



 人類はこの20年の間に、シャドウの軍勢――これはシャドウウォーカーと呼ばれている――を、30億は殲滅してきた。

 だが対する人類側も、20億に及ぶ被害を出している。


 両陣営はとんでもない被害を出しつつも、人類の方がじりじりと生存圏を奪われて、後退している。

 中小の国は、黒の軍勢シャドウウォーカーに飲み込まれていき、そこにいた人々は問答無用で殺されてしまう。


 大国はシャドウウォーカー相手の戦力を各国に派遣し、勢力拡張を続けるシャドウウォーカーを止めようとしている。


 実際、数の上では人類側の方がシャドウウォーカーを倒している。


 だが、相手の総戦力数が未知のため、相手に与えた被害が大きいのか小さいのかは不明だ。

 仮に相手の総戦力が50億ならば、その内の30億を倒しているので、シャドウウォーカーには甚大な被害を与えたことになる。

 だが、もしも相手の総戦力数が1000億とか、5000億とか、もっと多いなんてことになると、30億の被害なんて微々たるもの……とまではいかないまでも、明らかに人類が被った被害より、相対的に小さなものとなってしまう。


 そしてじりじりとだが、人類側の戦線が押されている。


 俺のいる国にシャドウウォーカーがやってくるのも、時間の問題でしかない。





 そんな俺としては、これからの生き方を考えるわけだ。


 レーザーライフルや多脚戦車、果ては航空機動戦艦なんて代物まで存在する世界なのに、それでも押し返すことができないシャドウウォーカー相手にどうすればいいのか。


 とりあえず、この世界には魔法が存在しているので、赤ん坊ビイビィーだった頃に、魔力量を増やすための訓練を毎日した。

 ベビーベッドの上からまったく移動することができなかったので、魔力の訓練っぽいことをする以外に、出来ることがなかったからだ。


 毎日ヘソの下あたりにある、丹田に力を込めて瞑想し、魔力の力を感じ取った。

 そして日々気絶するまで魔力を使い続ける訓練を繰り返した結果、毎日”おかん”と”おとん”が泣き叫び、この子は虚弱体質で明日の命も知れない子なんだと、メチャクチャ心配させる羽目になった。


「すまない、おかん、おとん。

 でも、俺がこの世界で生きていくためには必要なことなんだ。

 本当は虚弱体質じゃないから、心配しないでくれ」


 毎日気絶するまで魔力を使い続ければ、魔力量が増加する。

 そんなラノベ知識頼りで、訓練をした。


 なお、3歳くらいになって、タブレット端末を使って調べた結果、魔力を使いまくったからと言って、魔力量が増えることは全くないという事実を知った。


「チクショウ、ラノベ知識なんて所詮妄想の産物でしかないのか!」


 魔法を繰り返し使うと、効率よく使えるようにはなると書いてあったので、完全に無駄な訓練ではなかった。

 でも、気絶するまでする意味はなかった。


 少し微妙な気分になってしまう。




 ただ、そんな訓練をしたおかげで、5歳になった俺は、魔力がないと使えないフォースセイバーという武器を扱えるようになった。


 赤色に光るライトなセイバーを振り回して戦える。


 てか、フォースって名前についてていいのかよ!

 どこかから文句言われたりしないよね。


 あと、手の先から雷を出したり、離れた場所にある物体を念力で動かせるようになった。


 俺は自称正義の味方、ジェーダイにはならない。


 黒ローブを被って、完璧な悪の銀河帝国皇帝……



「凄いです坊ちゃん。将来は手品師魔術師としてやっていけますな。ワッハッハッ」


 悪の銀河帝国皇帝でなく、ただの手品師呼ばわりされてしまった。

 この世界、魔法は存在しても、科学技術が発達しまくったせいで、廃れた過去の遺物扱いされている。


 実際、雷を手から出すより、レーザーライフル1発の方が遥かに致死性が高い。



 なお、俺を手品師呼ばわりしたのは、俺の家に仕えている使用人の1人。

 筋肉モリモリマッチョマンの、ビリーって名前の元軍人教官だ。


 5歳になってから、強くなりたいって両親に頼んだら、何故かビリーを付けられて、毎日マッスル体操をさせられるようになった。

 訓練中には、教官と呼ばないと、なぜか怒られてしまう。


 おかげで毎日筋肉痛を覚えるようになった。


 ビリーは白い歯を輝かせながら、

「素晴らしい!パーフェクト!」

 と、褒めるけど、禿のおっさんにおだてられても微妙な気分だ。


 いや、もちろん不愛想な顔されて、褒められることがないのに比べれば、この方がいい。

 いいんだけどさぁ……



「しかし、筋肉の付きが悪いですな。

 明日からはもっとハードな特訓にしましょう。ワッハッハッハッハッ」


 毎日体操して筋肉痛になるのに、俺の体にはちっとも筋肉が付かない。

 生っちょろいとは言わないが、ビリーに比べれば貧弱な体だ。


 何が楽しいのか知らないが、脳みそまで筋肉が詰まってそうなビリーによって、俺の特訓はさらに増すことになった。


 う、嘘だろう。

 今でも筋肉痛で毎日痛いのに、どれだけスパルタなの。


「……で、でも筋肉がなきゃダメだよな。

 仮に将来戦場に連れ出されることがあった時、疲れ果てて野垂れ死になんてなりたくない」


 筋肉馬鹿にはなりたくないけど、将来のことを考えて、ここはグッと我慢する。


 心の中で、こんな世界に放り込んだ駄女神に文句を言いつつも、仕方がないのだと無理やり心の中で納得することにした。

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