4 ウィルくん小学校に入学する
6歳になった。
「若、ご入学おめでとうございます」
「「「おめでとうございます」」」
うちの組の衆が……ゴホン、我が家で働いている使用人たちが、俺が小学校に入学したのを祝ってくれる。
しかしグランツ
ヤクザだ。
いや、ここは日本じゃないから、マフィアといった方がしっくりきそうだけど、彼らの挨拶がどう見てもヤクザなんだよ。
「ヒィッ」
「あそこには近づいちゃダメよ」
「あのお坊ちゃんは偉いお家の人だから、私たちから話しかけるのはダメよ」
学校の正門前でそんなことをしているから、近くにいる保護者さんたちが怯えてしまい、そそくさと逃げ出していく。
ちなみにうちの
悪く言うと、ヤクザより見た目がヤバい集団だったりする。
そんなのがズラリと並んで整列。
スーツの下には本物の拳銃がしまわれている。
この国は銃火器の規制に関して、前世の日本ほど厳しくないものの、所持するには特別な許可が必要になる。
間違っても、ホームセンターで銃器を売っているアメリカみたいに、簡単に銃が手に入りはしない。
だがグランツ家の場合、この街の名士なので、あっさりと許可が下りてしまう。
そもそも、拳銃は自家の工場で作っている製品の一つだ。
正門前でそんなことがあったが、この後行われた入学式では、街の市議会議員や、市長、さらにはその上にある州議会議員に州知事――キース・グラン連邦には県に相当する行政単位が存在しない。かわりに州がある――などが、訪れていた。
入学式の後、彼らは俺と父母の元にやってきて、ペコペコと頭を下げて、挨拶に来る。
皆それぞれに美辞麗句を並べ立て、子供である俺の事さえ褒めそやし、おだて上げる。
そこに大人としてのプライドも、議員としての威厳なんてものも、コレッポッチも存在しない。
ただただ我が家の関心を買おうと、必死にごますりしてくる醜い姿しかない。
グランツ家とは、この辺り一帯ではマジで力のある家なのだ。
政治家が媚びてくるのはグランツ家にとってはいつもの事だが、この光景を目の当たりにする周囲の子供や保護者さんたちは、一斉に俺の家族の傍から退いていった。
……とまあ、こんな感じで入学初日にして、鮮烈な学校デビューを果たした。
入学式初日、同級生は誰も俺の近くに寄ってこず、学校生活初日がボッチという悲惨な有様になってしまった。
独身主義の俺だが、ボッチ主義ではない。
こんな経験、前世の学校生活で一度としてしたことがないぞ。
学校デビューの方は、そんな感じだった。
一方自宅では、ビリー”教官”から軍隊式格闘術やナイフ、棒術、しゃべるの扱い方を学んでいる。
「うじ虫のクソッタレ野郎!
しゃべるの扱い方がなってねえ!
いいか、シャベルは歩兵にとってライフルに次ぐ相棒だ。
銃弾を防ぐための塹壕を掘れるばかりか、近接戦では最強の武器だ。
自分の身を守る、最後の砦だと思え!
分かったか、このションベン垂れてるガキが!」
「はい、教官!」
「声が小さい!何を言ってるのか聞こえんぞ!」
「はい、教官!」
理不尽に罵られるばかりか、頭を掴まれ、目の前で叫ぶビリー教官の唾を顔面にまともに浴びる。
だが、どれだけ罵詈雑言を浴びせかけられようが、瞬きをしてはならない。
教官から、目を逸らすなんてもってのほか。
そんな事をすれば地面に投げ飛ばされ、何度も足蹴りされる羽目になる。
これは訓練だ。
ただし、ビリーは元軍人教官だっただけあり、やっていることが完全に軍隊式だ。
どれだけ罵られようが、俺は反抗してはならず、教えられたことを実直にこなしていくだけ。
駄女神のせいで、俺は将来戦場送りにされる可能性が高い。
今はグランツ家の坊ちゃんということで、周囲からチヤホヤされているが、世界情勢は不穏だし、この先何が起きるかもわからない。
死にたくなければ少しでも強くならなければならないので、俺はビリー教官から、こうして手ほどきを受けている。
もう1ヶ月くらい続けているので、教官の罵詈雑言程度で、今更心が揺らぐことはない。
これも自分が死なないための投資だ。
知識は力になるから、勉強を怠っていない。
が、いざという時に我が身を守るのは、純粋な力しかない。
だから、俺は教官から施される訓練を、学校から帰った後に受けた。
今の俺は6歳児だが、ビリー教官は全く手を抜くことなく、俺に優しくしてくれる。
軍隊式だと、罵声を浴びせかけられるのは、親愛の表現みたいなものだ。
そして教官からの訓練の後は、爺さんの研究助手をすることになる。
グランツ家は、空軍相手に武器弾薬を納品しているが、地上にある工場はダミーのようなもの。
実は我が家には、地下に秘密の研究所がある。
特務機関ゼーレン。
例の超大国にある組織向けに、軍隊ですら配備されていない最新兵器の研究開発が、ここで秘密裏にされている。
「どう見ても、正義の味方でなく、悪の組織の秘密研究所だな」
この研究所では、
それもキース・グラン連邦でなく、お隣の超大国の国家機密に属する、危険な研究が。
そんな秘密研究所の所長は、我が祖父である。
俺は爺さんの助手というポジションになぜかされていて、危険な国家機密に日々触れている。
前世がある俺だけど、この世界ではまだ6歳だ。
軍隊式訓練の洗礼を浴びておいて今更だが、どう考えても6歳児が関わっていい内容じゃない。
そんな俺に、爺さんはこう言う。
「ウィルや。お前は早熟のようじゃから、今が一番伸びしろがある。
ワシの助手を務めておれば、将来はそれなりに使える研究者になれるかもしれんぞ」
悲報、俺の爺さんが、ヤバくてマッドな研究者だった。
しかも、後継者として俺を育てようとしてないか!?
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