不運を第六感で跳ね除けろ!
やしゃじん
不運
ーー犬も歩けば棒に当たる。
ならば家でじっとしていれば、余計な行動をしなければ何も起きないのではないか。
そう考えたのは小学四年生の夏休み初日。
この頃から運に見放されていた俺は小学生ながらも友達と遊びたい欲を断ち切り、ゲームの誘惑に抗い一人布団に包まっていた。
その日は平日ということもあって両親はおらず、一人っ子なため兄弟もいない。両親から友達との約束以外で鳴ったチャイムは無視していいと言われている。つまりこうして一日が過ぎれば、一日に絶対に訪れる不運を避けられる。そう思っていた昼頃のこと、野球ボールが窓ガラスを突き破って部屋に飛んできた。
窓とは反対にベッドがあったため怪我はしていないが、この日俺は運に負けない男になると誓った。
そして数年の月日が経ち、高校一年の春。
俺は不運が訪れてもそれを回避するだけのフィジカル。それから、長年の付き合いで培った不運に対する理解ーー第六感の様な感覚を身につけていた。
しかし、俺に負けじと不運も成長していて。昔は一日に一回ほどしか訪れなかった不運も今では多い時は十を超えてきている。不運が偶然か神の悪戯かは分からないが、流石としか言いようがない。
......ただ、最近の不運は少しパターン化してきた節がある。
そりゃあ毎日×一年×数年。加えて一日に二個も三個も十個も出していればネタが尽きるのも分かるが......。長年付き添ってきた
そんなことを考えながらふと傘を上に差すと、びちゃっと頭上から音が鳴った。
「すいません! 濡れていませんか!?」
「だいじょうぶですよー」
傘を《道路側に》下ろし笑顔で女性に手を振っていると、やはり道路側から水しぶきが俺を襲ってきた。さっきまでそこに水たまりなど無かったはずだが......不思議だ。
学校についても当然不運は終わらない。
廊下の角で人とぶつかりそうになったり、机から落ちた消しゴムが変な所に転がろうとしたり。友人の教室に行こうとしたら偶然その部屋が女子更衣中だったり。心づもりさえできていれば何とかなるものばかりだ。
「はぁ、悪戯の神様(仮称)。もっと本気出しちゃってくれても大丈夫なんだけどなあ」
友人が休みだったため屋上で一人愚痴を零しながら弁当に手をつける。
俺の不運は稀に他人にも迷惑がかかることがあるため、風が強い、汚い、別に景色も綺麗じゃない我が校の屋上は都合がいい。
弁当を食べ終えた俺はボーっとグラウンドを眺めていると、ふと屋上の扉が開く音がした。こんなところに来る奴がいるなんて珍しい。
そう思って振り返ると、見覚えのある顔の女子がいた。
ぼさぼさの髪といつも一人で過ごしているのが印象的なクラスメイトだ。
あいつもボッチ飯なのかな。
そんなことを考えていたためか、俺は気づけなかった。
「慎吾君」
「ん?」
名前を呼ばれ振り向いた俺は情けなく「ひぃっ」と悲鳴を漏らしてしまった。
なぜなら定塚が一方後ろまで迫ってきていたから。思わず、白いワンピースを着た髪の長い幽霊と姿が重なる。
「......おおっ、定塚どうかしたか?」
「......」
無言で俺を見ている(と思う)定塚を見て第六感はけたたましく逃げろと叫んでいる。だが、時すでに遅し。ガッと肩を捕まれた状態では逃げるに逃げられない。そのうえ定塚、意外と力が強い。
「ねぇ慎吾君、私と付き合ってくれないかしら」
「へ?」
何をされるんだ。
そう身構えていた俺は予想外の言葉を受けて気の抜けた声が漏れる。
「え、いや。でも俺ら話すの初めてじゃん?」
「いいえ。私は家で喋ってるから初めてじゃないわよ」
「???」
「そんな些事気にすることは無いわ。それで返事はどうなのかしら?」
へ、返事......。
正直告白なんてされたのは初めてだしこういう時、どうしたらいいのやら。
「よ、よかったら友達から始めませんか?」
「......友達?」
「そう、友達。俺、定塚さんのことあまり知らないし、良かったらッて思うんだけ、ど......」
定塚さんは少し考えこむ素振りを見せると、「ええ、分かったわ」と何とか了承してくれた。
「じゃあまず友達なら名前呼びから始めましょう? ほら、真央って呼んでちょうだい慎吾君」
「いきなり名前は恥ずかしいというか何というか」
「そんな恥ずかしいことなんて無いわよ。ほら呼んでみて」
「......ま、真央」
「ふふふ、嬉しいわ。慎吾」
「あはは、そうだね」
定塚さんは満足したのか屋上から去っていった。
一人残された俺は背筋が凍るような緊張感が一気に抜け、その場に崩れ落ちる。
ただの告白。そうだ人生初の告白だ。喜べよ慎吾。
だというのにどうしてだろうか。
俺は何となくだが今置かれている状況を理解した。
これは多分、フィジカルと第六感で切り抜けられない、と。
不運を第六感で跳ね除けろ! やしゃじん @syuumatudaidai92
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