第10話 ピンク色の瞳
父様の許可をしっかり得て、ヴェラとリオ、それからユピテルとパレードを見にやってきた。
街は活気づいていて、出店もたくさんある。
しかしヒロインとその兄の悪役令息と攻略対象二人ってすごい組み合わせだな。
どうしてこうなった?
「ふわ〜〜!!!」
ヴェラが露店を見て目を輝かせる。
「すごい!お店がいっぱい!」
「パレードまで時間があるから少し回ろうか」
はしゃぐヴェラの手をはぐれないように握った。
「はい!」
キラキラと輝く目で僕を見つめるヴェラはどこまでもかわいい。
「リギル、締まりのない顔してるなあ」
リオがぼそりと呆れたように言った。
後でシメる。
メインはお祭りみたいなものだから、街で露店を開き聖女に纏わる色んなものを売る。
たしかお昼を過ぎた頃に道を開けて聖女が神輿に乗せられて通るんだったか。
というかユピテルがめちゃくちゃ目立ってる。
子供三人連れた長身のイケメンって何だよ。
イケメン…どういう関係の組み合わせ…?と周りから聞こえるから離れてほしい。
今回はみんな庶民の服を着て帽子を被ってるけどユピテルがダントツで似合わないし…
美形すぎるんだな、さすが人外。
「あれなに、お兄さま」
ヴェラが指差したのは鶏肉の串焼きだった。
茶色のタレがかかっていてなんだか焼き鳥っぽい。
「鶏肉の串焼きかな…、食べる?」
「食べたい!!」
「オレも」
ヴェラもリオも好奇心たっぷりの視線を串焼きに向けている。
二人ともしっかりしてるけど、こうしてると子供らしい。
「ユピテルは?」
「毒味は致しますよ」
ユピテルの毒味って意味あるのかな…
ユピテルに一人一本ずつ買ってきて貰ってホカホカの串焼きを二人に渡した。
熱いから気をつけて、というとリオが首を傾げた。
ヴェラも串焼きをじっと見つめてる。
「これ、どうやって食べんのかな」
「そのまま齧るんだよ」
リオの質問に僕はぱくりと串焼きを一口食べた。
甘辛のタレが鶏肉に絡んでて美味しい。
流石に焼き鳥とは味が違うけれど。
串焼きを食べた僕を見て、ヴェラとリオも少し驚きつつ、真似して食べた。
「おいしい…!!!」
ぱあっと瞳を輝かせたヴェラは口の端にタレが付いていて可愛い。
リオも気に入ったのか黙々と串焼きを食べてる。
ヴェラが食べ終わるとハンカチで口を拭いてあげた。
それから他の露店も回った。
名前は違うけど、わたあめもあったし、リンゴ飴とかもあったりして、何となく日本のお祭りを彷彿とさせた。
ちなみにわたあめは風魔法を応用した魔法道具を使っていて、宙で出来ていくのは面白かった。
貴族しか魔法を使えないとはいえ庶民の為に魔法道具を作る良心的な貴族もいるから意外と魔法道具というのは出回ってるのだ。
あとは聖女様の〜と名前を冠したグッズみたいなのが売っていたりして、聖女様のペンダントっていうのが昔の聖女が付けてたペンダントのレプリカだったり、歴代聖女の姿絵だったり、ヒロインもグッズ化されるのかなあと思ったらなんか若干面白かった。
ふと、天然石でできた淡いピンク色のブレスレットが目に入った。
シンプルに丸い天然石のビーズが連なっていて、一つだけ蝶の細工があしらってある。
「ヴェラ、これ買ってあげようか」
「どれ…?わ、かわいい」
僕が指差したブレスレットを見て、ヴェラが感嘆の声を上げた。
ちょうちょが細かい作りで綺麗ですね、お兄さまと褒めるヴェラに店主が手作りなんだと嬉しそうにしている。
「ピンク色のアクセサリーが多いですね」
「ああ、それはなァ、聖女様の瞳がピンク色らしいから、みんなそれにあやかってるんだ」
僕の質問に店主は上機嫌で答えた。
そういえば聖女の瞳はピンク色だったな。
ヴェラも綺麗なピンク色だし、なんかその辺は製作陣のこだわりなのかもしれない。
たまたまな可能性もあるけど。
「お嬢ちゃんも綺麗なピンク色だな。聖女様と同じなんてきっといいことあるぞ。ブレスレット買うなら少しまけてやろう」
「ありがとうおじさま」
ヴェラが店主に天使の微笑みでお礼を言った。
僕は値段を聞くとお金を出して、ヴェラにブレスレットを買ってあげた。
安いものだけど、宝石とかばかりじゃくて、こういうものも良いものだろう。
これなら今日持ってきた僕のお小遣いで買えるしね。
「お兄さま、ありがとう」
ヴェラにブレスレットを付けてあげると嬉しそうにブレスレットの付いてる右手首を見つめた。
ヴェラが嬉しそうだと、こっちも嬉しい。
リオもなんだか微笑ましそうにしている。
「そろそろパレードの時間みたいですよ」
ユピテルがそう言いながら見つめる方向を見ると、騎士たちが道を開けて通行整備をしていた。
ご苦労さまだ。
僕たちはまだ子供で小さいし見えるように早めに行こう。
「前の方に行こうか、はぐれないように手を離さないでね」
そう言いながら僕はヴェラの手を取る。
人が多いから人の波に流されてしまったらいけないしね。
僕たちはなんとか前の方に来れた。
いつのまにかキラキラした紐のようなものが張ってあって、紐から下がシールドになってるようで道に入れないようにしてある。
よく見ると水を固めたようなもので一定間隔で置かれた小さな装置から上に細く水が出てそれが二股に別れてロープみたいになってる。
触っても濡れないというかギリギリで触れない。
これも魔法道具みたいだ。
しばらくするとパレードが始まった。
わあっという歓声と音楽、ダンサーがまず踊りながら進んで、マーチングバンドが後から来る。
しばらくパフォーマンスが続いて、その後に来た騎士たちも足並みを揃えて列になって見事な様子だった。
それから騎士に囲まれて神輿のようなものが見えてきた。
騎士たちが担ぐ神輿には豪華な椅子と天蓋が設置されていて、天蓋から下がった透明のキラキラした布越しに幼い聖女が見える。
こういうものって笑顔で手を振ったりしているイメージだったけれど、豪華な椅子に腰をかけている聖女はただ無表情だった。
「あれが聖女様?きれい」
「あ、うん…そうだね…」
熱心に聖女を見つめるヴェラの隣で僕はなんだか胸がチリチリした。
つまらなそうな聖女の表情がなんだか気にかかる。
見た目に関しては本当に一作目のヒロインだけあって可愛らしかった。
肩までのミディアムヘアで毛先はふわっとした柔らかそうな明るく淡い色合いのゴールデンブロンドの髪にブレスレットの露店の店主が言ってた通りのピンク色の瞳。
ヴェラよりは少し濃いピンク色をしている。
聖女はじっと前を見つめていて、周りの歓声にも興味がないようだった。
僕と同じ歳の小さな子供の割には落ち着いているようにも見える。
その聖女が通り過ぎていくとあっという間に静かになって、騎士が装置の片付けをしていく。
そして、人々の声だけが残った。
みんな聖女についての感想を口にしてるが無表情だったことに違和感を感じたのは僕だけだったようで気にしてる人は他にいない。
ヴェラとリオも聖女様可愛かったねえと話している。
何とも言えないモヤっとした感じを抱えつつ、昏き星の救世主のシナリオは僕には関係ないのだからと気にしないことにした。
僕が考えるべきはヴェラのことだけだ。
そう、この選択は間違いじゃない。
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