第9話 聖女とはどんな娘か

聖女というのは歴代のものは欲が薄くて優しく、自己主張しない、大人しい女性らしい。

基本的に明るく優しく、誰にでも平等に接する。

という話をリオに聞いた。


「生まれた時に平民から貴族に引き取られた光魔法属性の子が正式に聖女って認められて大聖堂に住居を移動したらしいよ」


このところ、その話題で持ちきりらしい。

一作目のヒロインは確かに10歳で正式な聖女として大聖堂に暮らすことになった。

僕たちも11歳になったころだったので、物語開始前とはいえ順調に進んでいるようだ。


すっかり仲良くなった僕らはというと週末にこうして会ってはボードゲームをしながら色々話している。

ラケルタ伯爵夫人がお喋り好きな為、リオから結構色々な情報が入ってきた。


「リオお兄さま、こんにちは」


あれから2年経ってヴェラ7歳、拙い喋り方はずいぶんと抜けて貴族令嬢らしくなってきた。

いまも失礼しますと部屋に入ってきてからリオに挨拶をして淑女らしく礼をしている。


「こんにちはヴェラちゃん、今日も可愛い…ウワッ、リギルそんな殺人鬼みたいな顔でこっち見ないでよ……」


殺人鬼みたいな顔をしていたらしい。

ヴェラのことになると殺意が漏れてしまうのはご愛嬌だ。


「ヴェラに惚れたら殺す」


口にも出てしまった。いけね。


「口に出すなよ……、安心してよ。オレにとってもヴェラちゃんは妹みたいなものだしさ、ね」


リオがヴェラにぱちんとウインクするとヴェラははわわと慌てる。


「惚れさせても殺す」


「怖いよ…」


と言いつつヘラヘラするリオの初対面の初々しさはどこへやら…、今ではすっかりチャラ男の片鱗を見せてきている。


でも今のところ、リオにもユピテルにもヴェラとの恋愛フラグは立ってないように見える。

出会いが早かったのが逆に功を奏したのかもしれない。


ユピテルは予想外だったけど残り四人のうち気をつければいいのは学園に入ったら出会う可能性のある一人だけだ。

気にしなくて大丈夫そうな三人のうち、一人は獣人だがヴェラが幼少期兄に構ってもらえず、両親も忙しくて寂しくてこっそり公爵家の裏の森に抜け出した際に出会ったヴェラだけの幼なじみ…こいつは僕がヴェラを溺愛することでフラグをボッキリ折った。


もう一人はリオの婚約者になった際、リオに冷遇され、リオに健気に接することが出来なかった場合にヴェラを慰めてくれる専族執事。

ちょっと前に打診があったがヴェラには絶対メイドってごねてこっちもうまくフラグを折った。


最後の一人は獣人の親友のこれまた獣人で、獣人のフラグが折れたことで折れただろう。


リオとユピテルに注意しつつ、あとは入学してから考えよう。


そんなことを思ってるとヴェラが僕の鼻をつんとつついた。


「リギルお兄さま、そんなこと言ってはめっ、ですよ」


ぷくーと頬を膨らませて僕を叱って見せるヴェラはめちゃくちゃ可愛くて、つい、ごめんねぇと腑抜けた感じで返事をしていた。

リオがこっちをみている。

なんだそのなにこのヤバいシスコンみたいな死んだ目は。


ヤバいシスコンで何が悪い?(開き直り)


こんなかわいい妹がいたら狂うよな、やっぱ。


「お兄さまたちはなんのお話ししてたの?」


「聖女様の話だよ」


「せいじょさま」


そういえば聖女ってのは100年に一度生まれるかどうかで、今回は200年ぶりらしい。

そう考えるとこうやって噂話を聞いても現実感がないだろうな。


「聖女様は…まあ教会のお姫様みたいなものかなあ…、重要度においては王族と変わらないしね」


リオがお茶を口に運びながらヴェラに説明した。

ヴェラはまだいまいちピンと来ないらしく、きょおかいのおひめさま…と呟いている。


聖女がお姫様ならヴェラもお姫様だけどな。


「きょおかいのお姫さまと…リギルお兄さまかリオお兄さまが結婚するのです…?」


リオがブーッとお茶を吹いた。汚ねえ。

気配を消していたユピテルがどこから出したのかタオルでリオを拭いてから机も綺麗にしてくれた。


「ゔ、ヴェラちゃん、別にそういう話ではないんだよ」


「僕はヴェラと結婚するよ」


胸に手を当て堂々と宣言する。

リオがゴミを見るような目で見てくるけど知らん。


ちなみにヴェラには結婚は好きな人とずっと一緒にいることって話してある。

政略結婚?そんなん絶対許さないからな。


「わあ、ヴェラもお兄さまと結婚したいの」


僕の言葉に嬉しそうにふにゃーと笑うヴェラ。

守りたいこの笑顔。


「いや、兄妹で結婚は…」


余計なことを言おうとする緑頭をギロリと睨む。

リオはうぐと口を噤むとクッキーを咥えて誤魔化した。


「でも、好きだからお姫さまのお話してたんじゃないの?」


「聖女様は珍しいから話題に上がっただけだよ」


リオの言葉にヴェラは首を傾げる。

フッ…まだまだだなコイツは。

まだ小さいヴェラに難しい事がわかるわけない。


「まあ大した話ではないってこと。庭師が実家で飼ってる犬が子供を産んだって話をしてただろう?あれと一緒」


「わんちゃんと一緒…」


「聖女様が犬と一緒かよ」


リオは呆れ顔だけどヴェラは何となく納得したみたいだ。


「そのうちヴェラも会える機会があるんじゃないかな」


僕はそう言いながらヴェラを抱き上げて膝に乗せた。

ああ、ヴェラは軽いなあ、羽が生えてるからか。


「きょおかいのお姫さま、会いたいです」


ちなみにヴェラはまだ丁寧語の練習中でまだまだ言葉は拙い。

つまりとても可愛い。


「中央教会って申請がないと入れないんだよな、会える機会って言ってもまだまだ先かもしれないな」


「見るだけなら、近々聖女の歓迎パレード?みたいなのやるみたいだ。まあお披露目だな」


と、いう話を使用人たちが嬉々として話していたのを聞いたので、僕はその話を二人に横流しする。

それにしてもお披露目パレードなんて10歳の主人公には荷が重そうだ。

庶民向けのパレードだけどお忍びで行ったら顔くらいは見れるかもしれないな。


「二人で見に行こうか」


「オレは仲間外れ?」


リオがムッとして見せる。

それを見てヴェラがお兄さま…と悲しそうにするので仕方ないな…と返事をした。

嬉しそうなリオにヴェラは満足したみたいだ。


「じゃあ、三人で、だな」


まあ実際は護衛は必要だから四人なんだけどな。


ユピテルの方をチラ見すると、ユピテルはいつも通りの顔でにこっと微笑んだ。

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