第8話 世間がマジで狭すぎる

妹の死亡フラグ折るどころか一級建築士になりそう。


  終

制作・著作

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 リギル


嘘です。


母様とラケルタ伯爵夫人はどうやら学生時代に仲良かったらしく、久々の再会に会話に花が咲き、あの後一緒にカフェテリアに行くことになった。


リオはゲームの明るくチャラ男っぽい外面のイメージとは裏腹に終始大人しくしていた。


そしてどういう話の流れか、魔法学園も一緒で同い年だし、せっかくだから情操教育的にも二人は友達になったらいいんじゃないかしら、ということになり…、リオが公爵家に定期的に遊びに来ることになってしまったのだ。


観劇に行こうとしたばっかりに。


僕、余計なことしかしてなくね?


こうなったら当初考えていた通りリオを僕が上手く育ててやるしかない。

まともな真人間に…!


まあ、真人間になっても妹はやらないけどな。


ヴェラの婚約相手がゲームでリオだったのはお金がある伯爵家だからという以外に母親同士が仲良かったなんて裏設定があるとはな…。


というわけで今日がそのリオが来る日である。


「生きるのツレェ…」


窓の外を確認する為腕を組んで窓の脇に立っていた僕はため息を吐きながら天を仰いだ。

窓の外を見ると、ラケルタ家の家紋の入った馬車が見えた。

そろそろ来るだろう。


リギル・ユレイナス9歳、人生苦戦中。


「リギル様まだお若いのにそう仰らないでください…」


「お前が美少女メイドだったら生きる希望も湧いたかもな」


ケッと悪態をつくとユピテルは少し困ったような表情をした。

戦うメイドとかイメージしてた僕、まじでまだそれは根に持ってる。

長いスカートの中に暗器を仕込んでるの、いいよね。


ヴェラの為だと思って全部我慢するか……


「リギル様、ラケルタ伯爵様のご子息様がいらっしゃいました」


久々に部屋をノックして入ってきたのは侍女頭のカルラだった。

そう、侍女頭だったらしい。

つまりメイドさんで一番偉い人だ。


「ありがとうカルラ。通してくれ」


僕がそう言ってしばらくすると、カルラに導かれておずおずとリオが部屋まで来た。


「リギル公子様においては…ご機嫌麗しく…えっと本日は……」


リオはめちゃくちゃおろおろしている。

まあ急に公爵家に送り出されたらめちゃくちゃ緊張するよね。わかる。


「リギルでいいよ。リオ殿…いや、僕もリオで良いかな、良かったら折角だし、仲良くしよう」


リオに手を差し出してにっこりと優しく笑いかける。

昨日姿見を見ながら練習したから大丈夫なはず。


あっ、手汗やべえ。


「あ、は、はい、えっと、リギル様…よろしくお願いします」


リオは控えめに笑うと僕の手を取って握手をした。

大丈夫かな手汗…。


「そう、畏まらないで。様付けもいらない」


「で、でも…」


少し困ったような表情を浮かべたが、リオはこくりと頷いた。

友達なら遠慮とか敬語とかやだもんね。


「ありがとう…。よろしく、リギル」


にこっとさっきよりは緊張が解れた様子で笑うリオは正に攻略対象だった。

つまり顔が良い。


リオは深緑の髪を肩口まで伸ばしていて、後ろで一つに纏めている。

同じく深緑の瞳は少し吊り目だが猫目という感じでくりっとしていて可愛らしい。

眉尻が下がっているため吊り目でも優しい印象の顔立ちだ。


「良かったらチェスでもしないか。最近ハマってるんだ」


これは本当だ。

前世ではやったことないけれどこっちにきてユピテルに教えてもらってハマった。

ちなみに相手はユピテルしかいないし問答無用で叩きのめしてくるので他の人とやってみたかった。


こっちに座ってと机を挟んだソファの方にリオを誘導する。

そういうわけでリオと向かい合って座った。


「オレ、まだやったことないんだけど、難しい?」


「慣れればそんなことはないよ」


前世で散々将棋をやったけど、将棋に比べたらチェスのほうが少しルールも単純で覚えやすい。

まあ将棋のほうが駒も多いしね。


「教えてあげるから一緒にやろう」


「うん」


それからリオと色々な事を話しつつ、チェスのルールを教えて試しに対局してみたり、ヴェラを交えて一緒におやつを食べたり、意外と楽しい時間が過ぎて気がつけばだいぶ時間が経っていたように思う。

きっと気が合うのもあっただろう。


友達と遊ぶのって楽しい。

by、前世友達0だった僕(悲惨)。


リオは結構素直ないい子だった。

優しいし、大人しく控えめ、恥ずかしがり屋でしっかり者。

どんな失恋の仕方をしたら女好きを振る舞う人間不信のヤンデレ監禁男が出来上がるのか。


日が傾いたころ、リオの家から馬車が迎えに来たので玄関まで送ることにした。

リオは悪いからと言っていたけどもう友達だから気にするなと言いくるめた。


「じゃあまた今度遊ぼうね、リオ」


「うん、今日はありがとう…、リギル…」


少し名残惜しそうにリオは帰っていった。

絶対このまま育ってくれ。僕がんばる。


リオを見送る僕の背後にリギルお友達できて良かったわね…と生暖かい目でこっそり見守る母様がいる事には気付かないフリをした。

今日のこと根掘り葉掘り聞かれてもちょっと困るから、見なかったことにしよう。


「リオお兄ちゃま、行っちゃったの?」


後ろからてちてち歩いてきたヴェラが僕の服をぎゅっと掴んだ。


「ヴェラももっとおはなし、してみたかったなあ」


しょぼ…という効果音が出てそうなヴェラはバリバリに可愛い。

これが天使の権現。


「リオはまた来るから、ヴェラともまたお話してくれるよ」


「ほんと?」


ヴェラの表情がぱあっと輝く。

友達になったしね、と言葉を添えるけどアイツがヴェラに惚れたら絶交するけどな。


でもこんなかわいいヴェラに惚れない男などいるんだろうか。

不安になってきた。


ヴェラには悪いけど、やっぱりあまり会わないようにしよう。

攻略対象とヒロインという関係性はやっぱり恐ろしいものがある。


ヴェラを監禁なんてさせるわけにはいかないよ…。





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