第7話 魔法についてと新しい出会い
この世界には火、水、風、土、雷、木、氷、光、闇という九つの属性がある。
加えてジョブスキルと固有スキルというものもあるけどとりあえずゲームではあまり活躍しないので割愛する。
とりわけ光と闇は珍しく、一作目“昏き星の救世主”のヒロインであるアンカ(デフォ名)は光属性が強いため聖女として平民から貴族の養子になった。
ちなみに闇属性の悪役令嬢とかもいるが闇属性は忌避されるもので、悪役令嬢も悪役令嬢というよりは悪役扱いされた令嬢という感じだった。
この国の三大公爵家のひとつ、エリス公爵家の娘。
確か、シャウラ。
彼女は国外追放されたり、悪ければ魔力の暴走で死んでしまっていた。
公爵家の娘、不幸な目に遭いすぎでは?
一つ下なので学園に入ったらヒロインと悪役令嬢には会う機会がありそうだ。
「魔法って、僕でも普通に使えるよな?」
体調も回復してきたところで、勉強も再開した僕はペンを片手に後ろでお茶を淹れてるユピテルに話しかけた。
「ええ、もちろん。精霊の加護がなくとも多少は使えますとも」
ユピテルはニッコリ笑うとお茶を置いた。
ユピテルは優秀だ。
ユピテルが来てから数日経ったけれどお茶も美味いし、剣術や勉強を教えるのも上手い。
仕事も速くて正確で、お前本当に邪竜か?ってくらいには執事をしていた。
油断してると寝首を掻かれるかもしれないので、油断は禁物だけど。
「魔法の勉強もしたいんだけど、ユピテル魔法使える?」
使える。
なんだってコイツは邪竜だから。
「少しばかりなら…でも、第一安定期は15歳ですからまだお使いになられない方が良いかと」
「だいいちあんていき?」
僕が聞き返すとユピテルはわかりやすく丁寧に説明してくれた。
魔力には第一安定期と第二安定期がある。
魔法が使えるけど精霊の加護を受けてない大抵の貴族たちは第一安定期である15歳を目安に魔力が安定して危険なく操れるようになるらしい。
その為に貴族が学園に入るのは15歳と決まっている。
一方、第二安定期はというと、こちらは普通の貴族には関係なく、精霊の加護を受けた貴族が魔力を完全に安定させる時期なんだとか。
15歳である程度安定はするが完全ではなく、それまでは魔力が暴走して死ぬかもしれないし、魔力で高熱が出たり、逆に冷えたりするらしい。
年齢の目安は30歳でそれまで死の危険があるとかヴェラみたいなのが精霊に愛されし者にとってどれだけ欲しいものかが伺える。
「じゃあ、やっぱり学園に通うまで待つしかないのか…」
お茶を飲んでふうとため息をつく。
でもこれで何となく確信を持てたこともある。
あの収納する能力、魔法ならもしかしたら上手く使えてないかもしれないからやっぱりスキルだったみたいだ。
あれから練習して念じるだけで物の出し入れができるようになったけれど、スキルレベルが上がったってとこだろう。
「リギル様は魔法を使ってみたいのですか?」
「まあちょっとね」
俗っぽいけどオタクとしてはせっかくファンタジーに入ったんだから魔法を使ってみたい欲はある。
「ユピテルの魔法、ちょっと見せてよ」
子供らしく、おねだりしてみた。
ユピテルはふむ…と少し考えると、空になったティーカップをちらりと見る。
するとふわっとポットとカップが浮いて空中で紅茶を淹れた。
ティーカップは紅茶が入ると僕の目の前に戻ってきた。
「うわっ…」
「今のは風魔法の応用です。意外と難しいので普通に淹れたほうが早くて楽なんですけどね」
ユピテルは驚いた僕を見てくすりと笑った。
「目に見えたほうがわかりやすいでしょう?…まあうまく極めれば役に立つ魔法もあるでしょう」
確かにこうやって見せてもらうと現実感が出る。
てか、僕、本当にファンタジーの世界に転生しちゃったんだなあ。
「ですが貴方の師として、護衛の執事として、危ないことはさせられませんので15歳になるまで魔法は諦めてくださいね」
「…、分かった」
ユピテルが何故こうやって正しく物事を教えてくれるのは分からないけれど、危ないことを進んでやって僕が駄目になってしまったら良くないのは確かだし、剣術の腕をしっかり磨けばいい。
「その代わり剣術もっとしっかり教えろよ」
「ええ、仰せのままに」
彼をしっかり見据えた僕を見て、ユピテルは不敵に優雅ににっこり笑って礼をしてみせた。
学園は魔法を学ぶ場だ。
学園以外の勉強は幼い頃からやる必要がある。
さっきまでしていた当主教育とか。
マナーについても学園で学ぶ機会はあるけれど基本的に他の貴族に失礼がないよう学園に入るまでにある程度は身につける。
まあ王子とかいるしね。
ユピテルはどうやらそっち方面にも詳しいらしく、今ではすっかりユピテルに全て教わっている。
リギルの記憶が曖昧なのでリギルが学んだこともしっかり詰め込む必要があった僕はこのところ勉強漬けになっていた。
ユピテルが来てから勉強漬けの僕にあまり構ってもらえずヴェラがぷんぷんになっていることに気づいたのは1か月経ってからでヴェラが痺れを切らして
「ユピテル、お兄ちゃま独り占めするからきらい!」
と言い放ったのは肝が冷えた。
まあユピテルはおやおや嫌われてしまいました…しくしく、とかわざとらしくしてたけど。
そういうわけで、ヴェラのご機嫌を取るためと僕の休養の為、ユピテル護衛の元でヴェラと母様と一緒に観劇に行くことになったのだった。
「観劇なんて十年ぶりだわ、リギルが観てみたかったなんて知らなかったわ」
劇場に向かう馬車の中で一番ウキウキしてたのは母様だ。
「少しだけ興味があったんです」
少女のようにはしゃぐ母様に思わず笑みが溢れた。
母様は早くに父様と結婚して魔法学園も中退したらしく、18歳で僕を産んだ。
魔法学園は婚約相手を探す場でもあるので貴族令嬢になると珍しくもないらしい。
だから今現在は27歳であり、まだまだ若いのである。
これくらいはしゃいでも仕方ない感はある。
ヴェラとお出かけしてみたいので観劇を予約してもいいかと尋ねたら食い気味に母様も行くわと言われた。
まあ執事付きとはいえ、子供だけもどうかと思うので是非と答えたんだけど。
馬車から降りて劇場に入ろうとするころに僕は母様に質問した。
「母様、どんな劇を予約したのですか?」
僕はこっちの世界のことは分からないから予約する劇については母様に任せた。
「ドラゴンに攫われたお姫様と王子様の恋のお話よ」
ドラゴン(邪竜)そこにいるんですけど。
ユピテルは特に反応もせず、笑顔を崩さないままだ。
逆にこわい。
ファンタジーの世界でファンタジーな劇を観るっていうのもなかなか…。
楽しみねーと僕に笑いかけてくるヴェラは相変わらずの天使だ。
「まあ、ユレイナス公爵夫人様、お久しゅうございます」
予約していた席についたときに話しかけてきたのは深緑色の目と髪をした綺麗な女性だった。
ちなみに上にVIP席の個室もあるんだけど、母様曰く近くで観たかったらしい。
貴族専用の劇場というだけあって色々な貴族に母様は話しかけられていたけれどこの人は一際綺麗な人だ。
なんとなく違和感を感じていると、深緑色の婦人の後ろからひょこっと深緑色の婦人そっくりな美少年が覗いてきた。
「私も息子と観劇に来たのです。お隣だなんて嬉しゅうございますわ。公子様に公女様もごきげんよう」
息子…。
「まあまあ、ラケルタ伯爵夫人も来ていらしたのね。本当にお久しぶり…娘が産まれたときの生誕祝い以来かしら」
ラケルタ、伯爵…。
母様とラケルタ伯爵夫人が談笑する脇で、深緑色の美少年はにこと控えめに僕に笑いかけた。
どうやら僕と同い年くらいに見える。
あっ、この子、攻略対象のリオ・ラケルタだ…。
そう理解するまで少し時間がかかったような気がする。
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