第5話 天使の子守唄

歌声が聞こえる。


どこかで聞いたことのあるような懐かしい歌。

思わずぴくりと身体が反応していた。


「あ、お兄ちゃまおきた?」


「ヴェラ、今の歌…」


「お兄ちゃまが歌ってたおうたよ」


ヴェラがにこっと微笑む。


そうだ。僕がヴェラに歌ってあげた、生まれ変わり前の故郷の子守唄…。

え?あの一回で覚えたの?うちの子天才????


「お兄ちゃまがおひるねしてたから、いいゆめ見れるようにうたったの」


そんで天使か???????


「…、ありがとうヴェラ。上手に歌えていたね。よく覚えてたね…」


「ヴェラね、このおうた知ってる気がするの。お兄ちゃまが昔うたってくれたのかなぁ」


へへっと嬉しそうにヴェラが笑う。

それはない、だって思い出したのは最近だし、以前のリギルがヴェラに何かしてあげるなんてこと。

とはいえこの世界にはない歌だろうし…


僕は天蓋を見つめながらヴェラに語りかけた。


「ヴェラ、その、昨日の夜、りくお兄ちゃんって言った?」


「りくおにいちゃ…?」


ヴェラが首を傾げた。

どうやら記憶にないらしい。


アカリ、って名前に聞き覚えはある?」


星は僕の前世の妹の名前だ。


「ううん、ヴェラ知らない……、お兄ちゃまのお友達…?」


これ以上聞くのはヴェラを混乱させてしまうから、朝思った通り愚策だろう。


でも、なんとなく、ヴェラは妹の生まれ変わりだけど覚えてないか記憶が蘇る前なんじゃないかと確信した。

僕も9歳になって急に思い出したわけだし。


いや、ヴェラは妹の生まれ変わりだ。

きっとそうに違いない、そう思いたい。


そうじゃなかったとしても、守るべき妹なのは変わらないけど。


だから、だから僕はヴェラを守る。

たとえこの子が何者でも。


「ごめん、なんでもないよ」


身体を起こしてヴェラの頭を優しく撫でると、ヴェラは首を傾げた。


「…僕はヴェラのお兄さんだから、ヴェラの為に何でもしてあげる。ヴェラのことは守るから」


「……じゃあご本読んでくれる?」


ヴェラは少し控えめに持ってきていただろう本を胸元に掲げた。

ああ、本を読んでもらおうと思ってきたら僕が寝ちゃってたんだな。


「もちろん」


僕がそう言うと、ヴェラはふにゃりと笑った。





ヴェラを守るために僕に出来ること…。

昨日整理した情報をもう一度反芻していた。


本を読み疲れたヴェラは少し遅めのお昼寝をしている。

ある程度したら夜寝れなくなるから起こさないとな。


正直細かい情報がない。


僕はゲームを前作も今作も何周かしたけれど、ファンブックとか公式設定ブックとかは読んでなかった。

ゲームの中の情報には限りがあるからこんなことになるなら読んでおけば良かったなあ……。


まあそんな予知出来たはずもないけれど。


僕とヴェラが転生したら他に転生者いたりしないかな、ないか。


情報共有できる相手がいたら楽なのに、相談を誰かにしようにもゲームの世界とか前世とか頭がおかしくなったと思われて病院にでもぶち込まれそうだ。

だからとりあえずは多少動くのに相談とかできるような信頼できる友達でもなんでも作るしかないのかな…。


なんなら手足になりそうな優秀な使用人とか?

父様に専属の使用人のお願いでもしてみようかな。


戦うメイドとか欲しい…。


まだ子供だし、先のことになんの手足も出ないのは仕方ないことだけどもどかしい。

僕になんらかのチートがあれば妹の病気をぱっと治して、ささっと解決なんて出来たんだろうけど、キャラクターとしてもサブキャラだし。


魔法については属性魔法の本はたくさんあるけど属性以外の魔法ってないんだろうか。


例えば某猫型ロボットのポケットみたいな、物を収納できる能力とか、魔道具とか…。

魔道具があるなんて話ももちろん聞いたことなんてない。


でもそういえば一作目ではアイテムを使う場面が多々あって持ち物欄があったよな…。

ポケットやバッグじゃ持ちきれないアイテムもあったし、あれも一種の魔法じゃ???

空間魔法ってやつか?


僕はゲームの内容をまとめたノートをじっと見つめた。

今は鍵をかけた引き出しにしまっているけど、こっそり持ち歩きできたら助かる。

親や使用人に見つかったりしたらマズいし。


「しゅ、収納…」


ぼそりとつぶやいてみた。

しんと部屋が静まりかえる感じがする。


そうだよな〜無理だよな〜!!!!いや恥ず


顔を両手で覆って足をばたばたして身悶えた。


馬鹿すぎる……。


「へ?」


落ち着いてぱっとノートを見ると、


消えていた。


「えっ、消えた!?いつ?落とした!?」


下を見てもノートはない。


ええ、いや、まさか…。


もしかして、本当に収納できた???

なんか乙女ゲームの選択肢みたいなのを呟いただけで?


「ノートを取り出す……」


呟いてみると数秒してからぱっと元の場所にノートが戻ってきた。

どうやらタイムラグがあるみたいだ。


これ、収納魔法?


僕にもまさかチート能力が…。


いやいやチート能力って言うには地味で微妙だよなこれ。

なんかスキルとかそういうやつかもしれない。

たしか鑑定だのなんだのスキルがあったような覚えはあるし。


収納スキル?転生者特典なのかな…。


とりあえず便利なものは使わない手はないし、考えても分からないものは無駄だ。

時間もいい時間なのでノートをしまってヴェラを起こすことにした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る