第4話 本来のリギルの記憶と

妹が嫌いだった。


小さくてか弱くて女の子というだけでなんの努力をしなくても両親の愛を独占する妹。


無邪気に近づいてきて、少し冷たく振る舞うとすぐ泣いて、弱くて、鬱陶しくて、煩わしかった。


俺はいくら努力しても妹のように可愛がられた記憶なんかない。


次期当主だから、男だから、兄だから。

それを言ってしまえばおしまいだ。


俺の努力なんて砂上の楼閣ですぐに崩れ去る。

要領が悪くてどれだけ頑張っても上手くできないし、どれだけ頑張ってもすぐに分からなくなってしまった。


俺の同年代には何人も精霊に愛されし者がいるのに、俺は精霊にすら選ばれなかった。


何もかもムカつく。


妹は嫌いだ。両親も、嫌い。精霊も。


大嫌いだ。






はっと目が覚めた。


誰かがヴェラを可愛がる両親を冷たい目で見つめていた。

希望も何もない真っ暗な目だった。


きっとこれはリギルの記憶だ。

どうやら忘れてしまったわけではないみたいだ。


きっと奥底にしまっただけだったんだ。


ヴェラのほうに両親がより心配して手をかけていたのは事実だろう。

でも僕ならわかる。

だからって決して両親はリギルを愛してないわけではないってこと。

より手のかかる下の子に両親がつきっきりになって長兄は少しほっとかれるなんて良く聞くことだけど、そりゃあ小さい子供は目が離せないしね。


精神年齢が大人じゃなけりゃ、やさぐれてたかもしれない。

って言っても今のところ心配されてる感じしかしないんだけど。


精霊に愛されし者がリギルの同年代にいるのは確実に前作の攻略対象の世代だからだ。

これはなんていうかドンマイとしか言えない。

自分だけど。


ふと、隣ですやすや眠るヴェラを見た。


小さな手が布団をぎゅっと掴んで小さな身体がさらに小さく丸くなっている。


どちゃくそかわいい。


ふと、昨日のことを思い出した。


ヴェラは僕の妹の生まれ変わりなんだろうか、記憶はあるんだろうか、聞いてみるべきだろうか…。


でも前世の話を急にしたら覚えてない場合や違った場合混乱させてしまうかもしれない、そう思い直して僕は首を横に振った。


「ヴェラ、朝だよ」


ヴェラの肩をぽんぽんすると、んんんと眉を顰めた。

めちゃくそかわいい。


ヴェラは目をこすると僕の方を見てぱっちりと瞳を開けた。


「お兄ちゃまおはよう……」


ふにゃりとした笑顔は天使としか形容できない。

僕昨日から何回天使って言った??????


「おはよう」


抱きしめてすりすりしたい気持ちを抑えて、笑顔でヴェラに返事をした。


「自分の部屋で着替えて、朝ごはん食べておいで」


「今日もご本読んでくれる…?」


「読むよ」


そんな会話していると丁度メイドが来たのでヴェラを託して送り出した。

僕の朝ごはんも一緒に運んできてくれたみたいだ。


今日もパンがゆ。消化にいいからね。


「精霊の加護がなくても魔法は使えるんだよな…」


パンがゆを一人で食べながらボソリと呟いた。


精霊の加護っていうのは所謂ブースターで、この世界は貴族のみ魔力を保有している。

そこらへんは魔法を使える一族が貴族になったとかそんなだろう。


貴族は大抵魔力があるのでマナーとかの社交勉強に加えて魔法の使用法を効率的に学ぶ為に15歳になると学園に通う義務が発生する。

貴族の要人(跡取り)が学園に集まってて大丈夫なのか?とは思うけど、まあ一般人は魔法が使えないし魔力のある貴族の力が絶大だから大丈夫なんだろう。


たぶん。


王子なんかもいるのはぶっちゃけいやさすがに家庭教師つけろよ…って思ったけど、将来の婚約者探しも兼ねてるらしく、まあ仕方ないというとこだろう。

王族は魔力が特に強いし、大丈夫なんだろう。


たぶん。


僕も学園に通うことになると思うけれどそうしたら前作である昏き星の救世主のストーリーを間近で見れることになるのか…


精霊の加護ってのは火の精霊に加護されたら火、水の精霊に加護されたら水しか使えなくなる代わりに強力な力を得るというそんな感じだった。

僕は加護を得てないけれど、逆に言えば得てないからこそ全ての魔法を使える可能性がある。

それこそ強くなくても完璧にこなせればオールマイティーってやつ。


決して全て私のお茶って意味ではない。


早くから魔法の勉強を始める方法が何かあったりしないかな…

魔法が使えればヴェラを守る手立てになるかも。

あ、いや、ヴェラが近くにいたら魔法も使えないから剣術も必要か???


考えてるいるうちにパンがゆを食べ終わってしまったので、食器をベッド脇のテーブルに避けて水を飲んだ。


お米のおかゆ食べたいな…。


とりあえずある程度体力が戻ったら、今後健康でいるためとかなんとか両親をいいくるめて剣術の先生でもつけてもらおう。


そう思った。






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