試験
今回も僕にとっていつもと変わらぬ定期考査となった。結果が発表され、いつも通り二位と言う変わらない数字だけが僕の元に残った。
「秀太又2位だったの?すげえな!」
「凄くないよ、僕帰宅部だし家でやることないだけだよ」
帰りのホームルームを終え、自分の机で成績表を眺めている僕に、高橋が自分の成績表をぶら下げながら感嘆の声で僕に話しかけてきた。
「それを言われるとおれたちに刺さるからやめてくれ」
「帰宅部だって忙しい」
そんな事を言いながら、早口で捲し立てる吉川と自分を納得させる様に星田が自分の成績表を持ってきた。
「星田はそこそこ良かったろ?」
僕がそう聞くと
「まあ、二桁番台には入ってるよ」
「お前だけは、俺の味方だと思ってたのに。許さん、許さんぞ」
そう宣いながら、吉川は星田の肩を掴み前後に揺さぶった。揺さぶられた、星田があっ、あっ、とリズムを刻んでいた
「俺さ、彼女、できてさ、一緒にさ、勉強したのにさ、順位が下がったyo」
高橋が将来はラッパーか?と言う勢いでラップを始めた。
「お前、彼女と二人でいかがわしいことしてたんじゃないの」
「そりゃ、一つ部屋の中恋人同士二人っきりだぜ、何もないわけがない」
「ヒュー、ヒュー」
チェリーが二人ぴょこぴょこ跳ね上がっている。
「そういや、クリーピーナッツが新曲出したね」
「そうそう!でも俺、合法的トビカタのススメが一番好きなんだけど最近ああいう尖ったやつ作んないよね」
僕が話を逸らすと、意外にも高橋はウキウキで話にのってきた。
「わかる僕阿婆擦れが一番好き」
僕が反射的に答えると
「村上趣味悪」
星田がポツリ
「村上さぁ、そう言う事教室で言うと俺たちも同じ様なやつらだとも割れるから、やめてくれますぅ」
吉川が早口で
「お前って意外とギャルとか痴女とか、自分とかけ離れてる人好きよな」
高橋が考え深げに、三者三様に僕をディスった。
「違うよ、僕は曲の話しをしたの!」
僕がそう言った時、何処かから視線を感じた。ふと、視線の方に顔を向けると音無沙羅が考え深げにこちらを見ていた。
「そういや、沙羅今回テスト結果良くない?」
「え、?」
三島夢に、急に話しかけられて音無が少し虚をつかれた。
「そう?いつもと変わんないよ」
そう言って、目を逸らした
「なに〜、最近平日付き合い悪いと思ったら勉強に目覚めちゃった?」
佐々木桃花が嘯く様に、音無の顔を覗き込んだ
「な、ちげーよ。最近金欠でバイト忙しいんだよ」
「じゃあ何で、点数上がったの?」
「点数上がったってか、赤点が減った」
「いくつ?5個から2個になった」
「へぇ、すごいじゃん!私は一個もないけど」
「桃花は、元々成績いいじゃん」
「まあねぇ〜。で、夢は?」
「4個!」
「あんた私勉強教えたよね?」
「だから、4個!」
女性三人でキャッキャしていると
「お?俺より赤点多いじゃん」
倉持昌がそう言いながら島田考輔、太田太子を携えて廊下から入ってきた。
6人は楽しそうに教室の中に喧騒を撒き散らした。
「あんなに赤点取って、卒業出来るんかねぇ?」
星田がそう呟くと
「俺だって1個しか取って無いのに」
吉川が自慢げに言った
「お前俺一個も取ってないよ?」
高橋が不思議そうに吉川の顔を見た
「マジ?俺バスケ部より成績悪いの?」
吉川が胸部に狙撃受けた様に崩れ去った。
「楽しそうだね、なに話してるの?」
我らが委員長が、いつも爽やかで暖かく我らが迷える子羊を導く様にこの地に舞い降りた。
「委員長!聞いてくださいこの二人が赤点取ったからって俺を人間扱いしてくれないんですよ」
「ふふ、そぉ」
「酷くないですか⁉︎」
「でも、部活してる俺でもとってないぞ」
「高橋君は、頑張り屋さんなんだね」
「オッフ」
高橋が照れているのを見て
「おい、彼女持ち」
「照れてんじゃね!浮気か?」
星田と吉川が茶化して言うと、高橋は急に青い顔をして
「やめろぉ!みゆはヤンデレ系何だ!少しでもあいつの耳に入ってみろ?俺は地獄まで追い回されて二度と日の目を見られなくなる」
「ふふ、甲斐田さんて情熱的だね」
そう言う委員長は心の底からそう言っている様だった。
甲斐田みゆ、高橋の彼女でヤンデレで名をはしている。
「委員長、それ本気で言ってる?」
「うん、変かなぁ?」
男達が少し神妙な面持ちをした
「うん、ちょっと重いかも」
星田がそう言うと
「そんなことないよぉ、だって彼女がいるのに他の女の子に目を取られちゃう人は怒られて当然だと思うな」
そう言いながら、委員長が僕の方に微笑みを向けた。見るの俺じゃ無くて高橋じゃね?
「え、う、うん」
不思議な圧力を感じた。
「そうだよね、良かった」
満足した様に委員長は、自分の席に戻り帰り支度を始めた。
「女子ってさ、可愛い子程重いという因果関係でも有るんじゃね?」
「吉川よくそんな難しい言葉知ってたね、えらい」
吉川の頭を撫でながら高橋はそういった。ふと僕は、机の中に入っている「サロメ」を思い出した。そういえば、古今東西重たい女の人って妙に需要有るんだよなそんなことを考えながら帰り支度を始めた。
「あんた、教室で私のこと見てたでしょ?」
音無は僕の部屋に着くとヘッドホンとタブレット端末を準備しながら聞いた
「いや、音無がこっち見てたから」
「は、みてねーし」
「いや視線感じたって」
「自意識過剰じゃね?」
うっ、また彼女は僕が傷つくことをピンポイントで刺してくる
「どう、かなぁ。あ、今回少し成績良かったんだって?」
「あー、はたらく細胞見てたら生物基礎の点数が良かった」
「そんなことで...」
「いやマジ、授業より見になるから」
「というか、なんではたらく細胞見てたの?物語シリーズは?」
「ああ、見終わったよ。なんかお前がテスト勉強してるからつい生物っぽいものを選んじゃった」
「早いね?意外とアニメハマってる?」
「まぁ、今んとこは?」
「それなら良かったよ」
僕はそう言うと、鞄からオスカー・ワイルドの「サロメ」を取り出した。
「その本、薄いじゃん。あたしでも読めそう」
「読んでみる?」
「どんな話なの?」
「うーん、一目惚れした人の生首が欲しくなっちゃう女の人の話?」
我ながら美味いせつ目ができなかった。が、
「何それ、ちょっと共感できそう」
「え?」
「あ、嘘だぞ。冗談だって!」
そう言って笑う彼女を見て、女性って案外物騒な夢を持ってるんだなと思った。少し前歌舞伎町でホストが刺されたよなぁ、なんてことを思い出した。
痛みに負けルナ
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