帰りのホームルームで、文化祭の出し物がお化け屋敷に決まったその日の放課後、文化祭前の大きな難所期末考査の壁に音無沙羅は打ち当たっていた。

「結局お化け屋敷だったねぇ」

「そうだね」

「反応薄くない?」

「文化祭とか苦手なんだ」

「何であんた達ってそう言う感じでカッコ付ける訳?」

「カッコつけてるんじゃない。賑やかなのが苦手なんだ」

「意味わかんな。賑やかな方が楽しいじゃん?」

「音無達みたいな人ばっかじゃないんだ、静かな所で穏やかに楽しみたい人だっているんだ」

「そっか、私には想像できないな」

「俺も、音無達が理解できないよ」

嫌な沈黙が流れた。お互い居心地の良い空間を求めて此処に至ったのにこれでは意味がない。私は空気を変えるためにも間近に控える期末考査の話題を投げてみた。

「まぁ、大体やばいかな」

「どれくらい?文系科目位ならそこそこ取れるでしょ?」

「文系科目マジやばいよ?理系科目はもっとやばい」

「赤点は幾つあるの?」

「四つ」

「中間考査?」

「うん」

「八科目で?」

「うん」

「半分じゃん!」

「え、やばいかな?」

「やばいでしょ、進級出来ないよ!」

「一年の時もどうにかなったし、まぁ何とかなるでしょ」

「それで良いの?」

「うん。勉強の為だけに学校行ってるわけじゃないし」

「そっか、」

「村上はどうなの?」

「何が?」

「成績、人の心配できる程良いの?」

「まぁ、二位かな」

「へー、すげえじゃん。クラスで?」

「いや、クラスもだけど学年でも」

「は?マジ?」

「うん」

「え、てかクラスと学年で同じ順位ってどう言うこと?」

「委員長が両方とも一位なんだ」

「はぁ、凄い人はいるんだな」

「天才はいるんだね」

そう言いながら僕は期末考査に向けて勉強道具を用意した。

「真面目だな」

「真面目とか不真面目じゃないでしょ。やらなきゃいけないからやるんだ」

「誰にやれって言われたの?」

「いや、誰にって言われると…誰だろう?」

「やりたく無いなら、やめれば良いのに」

彼女の言葉は僕の胸に突き刺さった、それは戸惑いでもあり怒りでもあった。まるで今までの自分を否定されたかの様に感じた、たった数回話したくらいで何が分かる。成績が悪いよりは良い方が正しいに決まってる。僕は少し煮立った怒りを溢れさせないために、じっと何もせず運動量を下げた。そうだ、大したことじゃ無い、だって

「他にやることもないし。試験前はいい暇潰しになるんだ」

「そう?」

「そうさ」

それを聞くと彼女は床にあぐらを描いていた姿勢からそのままだらりとベットに頭を乗せて仰向けになった。

「何か暇じゃな〜い?」

「僕が勉強してる間、映画でも漫画でも好きに観てていいよ」

「本当!」

「うん、暇つぶしくらいにはなるよ」

そう言って僕は自分の勉強に思考を誘導した。今日は物理の勉強にしよう、心でそう誓うと私は徐にテスト範囲を割り出し物理の勉強に取り掛かった。運動方程式の計算とそれに付随する用語が今回の範囲だ。

「ねえ、映画って何で見ればいいの?」

「そこにタブレットとヘッドホンあるでしょ、幾つかサブスク入ってるから好きなの観てていいよ」

数分間無言の時間が続いた。お互いに何も話さないし関与はしない、だが実態として感じ合っている。彼女の匂いも呼吸の音も感じることができる、だが干渉はしない。他の人達は家で友人と如何過ごすのだろう、僕と彼女は同じ空間にいるのに同じ作業をしていない人と人の絆を深めるには共通点を見つける、又は、共同作業をすることによって友情を深めることができると何かの本で読んだ。それに範をとるのであれば僕達の間に友情は生まれない、クラスメイトだからといって誰でも友人ではないということに近いような気がした。今のままでは、延々とクラスメイトのままだ。

「ねぇ・・・」

「・・・」

「おい!」

「はい!」

「エッチなアニメじゃねえか!」

「そんなの見てません!」

「この、落第騎士の・・・」

「キャバルリィ」

「キャバ・・・」

ああ、昨日まで見ていた作品がアニメだったなんて、こんなことなら洋画でも見ておけばよかった。

「普通の深夜アニメだよ」

「何が普通のアニメだ、初っぱなから全裸じゃねえか!」

「それは・・・そうだけど。基本はエッチじゃないよ」

女性の前でこんなにも“エッチ”という言葉を言ったのは初めてだ、なんて恥辱。

「じゃあ、この後はこういう場面は出ないんだな」

「それは、そうともいえない」

「はぁ、男って皆こういうのが好きだよな」

「ていうか、なんでアニメ見てるんだよ。自分の興味あるドラマとか見ればいいじゃん」

「なんか、おまえが普段どういうの見てるか気になって」

「なにそれ、普通だよ」

「普通じゃないよ、私が生きてきたなかじゃ、見ることはなかったし」

「そりゃあそうだよ、生きてる世界が違うんだから」

「なんで?同じ世界に生きてるでしょ。厨二?」

彼女は純朴な顔で此方に問いを投げてきた。

「厨二じゃないよ、ただ陰キャなだけ。君みたいにキラキラした世界に生きてないのさ」

「別に、世界なんてキラキラしてないよ」

彼女もそう思うのか、僕のように日陰で暮らしている物には彼女のような眩い世界に生きている人のことは、如何やら正しく見えてはいないのかもしれない。





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