第六感~気配の正体は~
菅田山鳩
第1話 気配の正体は
休み時間の教室。
たわいもない会話が飛び交う。
「髪洗ってるときにさ、後ろに気配感じることない?」
「わかる。絶対なんかいるって思って、後ろ見てもなんもいないんだよねー。」
「そうそう。やっぱ、俺だけじゃなかったのか。よかったー。」
「それ、俺だわ。」
「は?」
「え?」
「だから、風呂のやつ、俺。」
「お前、それはだめだろ。」
「だめって言われても、本当のことだからな。」
「いや、百歩譲って俺はいいとして、美月はまずいだろ。いくら幼なじみだとしても、風呂を覗くのは。」
「痛っ。なんで、俺を叩くんだよ?」
「あんたが変なこと考えるから。」
「待て、待て。美月のは俺じゃないから。」
「まぁ、そういうことにしといてやるよ。」
「や、まじだって。」
「翔太、覗いたら、ぶん殴るから。」
「や、だから、違うって。」
「美月のは、マジもんの幽霊だったりしてな。」
「なわけないじゃん。幽霊なんていないんだから。
「とか言ってると、後ろにー」
「やめてよ、そんなわけないじゃん。」
「「あっ、」」
二人が私の後ろの方を見て、申し訳なさそうに下を向く。
「なに?え?本当になんかいるの?」
恐る恐る、後ろを振り返ろうとしたとき、
肩になにかが触れた。
「ひっ、」
とっさに声が出る。
「佐々木、席つけ。」
「え?先生?」
「先生?じゃないよ。とっくに休み時間終わってんだから。早く席つけ。」
「あ、え?もうそんな時間?」
まわりを見渡すと、他のみんなは席について、教科書を広げていた。
二人が下を向いたまま、笑っている。
「ほら、授業始めるから。教科書出せよー。」
「はーい。すみません。」
「中野、お前もだぞ。」
「え?俺っすか?」
「そうだ。それに、中野は先週の課題も出せよー。」
そう言いながら、先生は教卓へと戻っていった。
「じゃあ、始めるぞー。日直、挨拶。」
「起立。礼。」
「「「よろしくお願いします。」」」
「着席。」
「はい、お願いします。じゃあ、昨日の続きから…」
先生が黒板に文字を書き始める。
「やべー、課題忘れてた。わりぃ、美月、後で見せてくれ。」
「やだね。あんたのせいで、私まで怒られたんだから。」
「そう言うなって、頼むよー。」
「中野っ、うるさいぞ。」
*
課題を提出して、職員室を出ると、大きく伸びをした。
「はぁー、やっと終わったー。くそ疲れた。」
「私が手伝ってなかったら、もっと時間かかってたんだから、感謝してよね。」
「まじで、ありがとう。今度なんか奢るわ。」
「じゃあ、焼き肉。」
「うーん。食べ放題で勘弁。」
「うーん。よろしい。」
「かぁー、バイトいっぱい入れないとだー。」
「ところでさ、翔太の話、どう思う?」
「まぁ、俺的には、学校以外でもあいつと会えるのは嬉しいけど。」
「けど?」
「美月はいやなんだろ?」
「そりゃ、そうでしょ。だってお風呂だよ。」
「たしかにな。そもそも、学校でしか現れないってのもよくわからんし。」
「もう、あれから1年だもんね。」
「そうだ、土曜日に墓参りでも行くか?」
「そうだね。はっきりさせたいこともあるし。」
指をポキポキと鳴らす。
「怖っ。」
*
いざ、風呂に入ろうと思ったとき、学校でのことを思い出した。
「翔太ー、いるのかー?」
風呂に入るとともに、小声で呼びかける。
「って、いるわけねぇーか。」
ところが、髪を洗っていると、例の背中のゾクゾクを感じた。
「翔太、だよな?」
自分の心臓の音がどんどん大きくなる。
なぜだか、振り返ることができなかった。
「わぁっ」
急に耳元で声がして、飛び退いたことで、浴槽に足をぶつける。
「痛ってー。」
目に入った、シャンプーをぬぐいながら、なんとか目を開けると、翔太がいた。
「すげー、ビビってたな。」
「はぁ?ビビってるわけねぇだろ。ってか、まじでいんのかよ。」
「そう言ったろ?」
「なんで、風呂なんだよ?」
「なんか水回りは、出やすいらしい。」
「ふーん。そんなもんなのか。あ、そういえば、美月のとこも行ったんだろ?お前もやっぱ、男だな。」
「だから、違うって学校でも言っただろ。」
「ほんとかー?」
「本当だよ。覗きなんてしたら殺されるぞ。」
「だな。でもさ、美月も気配感じるって言ってたよな?」
「そんなん、気のせいだろ。」
*
「フーン♪フフン♪フンフン♪」
ゾクゾク、背中に気配を感じる。
「翔太?翔太だったら、早く出てって。」
気配は消えない。
「ほんと、殴るよ?」
気配はどんどん強くなる。
「まじで。いい加減に」
しびれを切らして、鏡で後ろを確認する。
そこには、天井からぶら下がる、知らない女の顔があった。
第六感~気配の正体は~ 菅田山鳩 @yamabato-suda
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