第6話 私は「頭を下げてください」と言った後、頭を下げたクライヴにカードを渡し、見返りもなくカードを渡してしまった自分の甘さを悔やみ、異なる未来を夢想する

「頭を下げてください」と言った。


「頭を下げる?」


「使用人に頭を下げるのは、あなたの自尊心が許しませんか?」


「……っ」


「誠意を見せて頂けないのなら、失礼します」


私がクライヴに背を向けた直後、彼に引き止められる。


「待ってくれ……っ!!」


私が足を止め、振り返ると、クライヴは悔しそうな、泣き出しそうな顔をしている。


「……」


私は、クライヴが頭を下げるのを待った。


「……っ」


クライヴが私に、ゆっくりと頭を下げる。

会釈のような角度で動きが止まった。

私は『カードを渡そう』と思ったが『クライヴの態度が鼻につく』


カードを渡すべきか、渡さないでおくか……。

私は迷った末に、『カードを渡そう』と決めた。

私がカードを渡すとクライヴは輝くような笑顔を浮かべて口を開く。


「ありがとう!! この恩は一生忘れないよ!!」


そんなに恩に着てくれるのなら、何か良いことがあるだろうか。

ほんの少し期待した直後、クライヴはあっさり言った。


「もう用は無いから帰っていいよ。明日からまたよろしく。あ。このことは父上には黙っていてね」


「……失礼します」


この馬鹿息子に何かを期待した私が愚かだった。

……情にほだされて、見返りもなくカードを渡してしまった自分の甘さを悔やみながら、私は部屋を出た。

「お人よしが馬鹿を見る」という言葉が私の頭を過る……。


ああ。もし、もしも。

もしも、私があの時、異なる選択をしたら、未来はどう変わっていただろうか……?


私がクライヴに『クライヴへの少しの同情』を感じていたら、どうなっていただろう……。


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