第3話 私は沈黙し、甘えたことを言うクライヴに腹を立て、カードを利用することにする
私は『沈黙する』か『娼館に行ったことを話す(まだ未記載)』に行ったことをクライヴに話すか迷う。
私が出した結論は『沈黙』だった。
「……父上に忠実だな」
「雇用主に忠実なのは、当然のことです。私は、雇われの身ですから……」
「僕もそうだ。……家の繁栄のための、雇われの身のようなものだ」
寂しげにクライヴが言う。
私はクライヴに対して異なる二つの感情を抱いていた。
それは『甘えたことを言うクライヴへの腹立たしさ』と『クライヴへの少しの同情』だ。
私の中で、より大きな感情は『甘えたことを言うクライヴへの腹立たしさ』の方だった。
甘えたことを言うクライヴが腹立たしいと思った。
雇われの身の厳しさを、全くわかっていない。
……従属の身の厳しさを、教えてやりたいという意地の悪い気持ちが湧き上がる。
「……」
私は、リリィから貰ったカードのことを思い出した。
自由にリリィに会えるというカードをちらつかせれば、クライヴを痛めつけることができるかもしれない。
私は『カードを利用する』か『カードを利用しない』か迷う。
そして私は『カードを利用する』ことにした。
カードを利用することにした。
「……」
私はクライヴに歩み寄り、彼の顔を間近で見つめる。
そして、しまっていたカードを取り出し、彼の目の前にちらつかせた。
「そのカードは……っ」
目の色を変えたクライヴに、私は彼からカードを隠した。
「このカードがどのようなものか、ご存知のようですね」
「そのカードを、カナリヤと無料で会えるカードを、譲ってはくれないか。頼む……!!」
「このカードは、私が、カナリヤから頂いた物です。他の方に渡すわけにはまいりません」
「では、僕と一緒に娼館に行ってくれないか。そして、カードを使う権利だけを、彼女に会う権利だけを譲ってはくれないだろうか」
クライヴは勝手なことを言う。
だが、強くはねつけることは出来ない。
なぜなら、この男は私の雇い主の息子だからだ。
「では、私と一緒に娼館に行けば良いというわけですね。私は娼館の入り口で待ち、あなたはカナリヤに会う。無料でね」
「そうだ。そうしてほしい」
「でも、私には仕事があるので、外出することは難しいです。困りましたね」
「それなら、君の仕事を他の人間に回そう。僕が手伝っても良い!!」
「そうですか。ありがとうございます。今日は、もう帰宅しても宜しいですか? お父上から許可を頂いていますので……」
「できれば、時間があるのなら、娼館に行きたいのだが……」
クライヴが遠慮がちに、ずうずうしいことを言う。
私は、彼に聞こえるように舌打ちをした。
「……その、無理にとは言わないが」
このまま、クライヴを無視して今日は帰ろうか。
それとも、クライヴを焦らしていたぶってやろうか。
少し迷った末に、私はクライヴをいたぶることにした。
***
※『クライヴへの少しの同情』を選んだ場合は(六話へ)
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