第4話
派出所に帰ってデスクワークを始めても、つぐみはあきらめきれなかった。行方不明の男性。前科があり、工場労働者で、社会的重要性は高くない人物。これが未成年であれば、一週間程度の失踪でももっと大がかりに捜索が行われるはずだ。家族が居て金銭的余裕があれば、探偵が雇われるかもしれない。しかし、吉田の言うように警察にもすべての失踪者の捜索をしている余裕がないことは事実だ。警察に回される国家予算は、年々減ることはあっても増えることはない。やはりこの社会はお金が総てなのか――。つぐみは午前中の吉田とのやり取りを思い出して憤っていた。
その日の午後になって、吉田に清水の捜索願の手続きが終了した旨を伝えられたもの、捜索願が出されたところで、山狩り等が行われるわけではない。高齢者が行方不明になった時のは広報でアナウンスされるが、吉田のケースではそれすらないのだ。
何とかならないものか。思案していたつぐみは、ふとひらめいてスマートフォンを取り出し、メッセージを送った。相手は彼女の弟、
ツグミ:ねえ、あんた、なんとかっていう自然科学部みたいなサークル
入ってたよね。
菊川優:昆虫愛好会「虫処」だよ。
ツグミ:昆虫愛好会か。虫以外に植物とかアウトドアに詳しい知り合い居ない?
菊川優:静大には生物系のサークルがウチしかないからいろんな方向性
の奴が集まってるよ。
ていうか何?
ツグミ:詳しくは言えないんだけど、今日捜査に行ったところから出て
きた手掛かりを、極秘で見てもらいたいの。
菊川優:はあ?なにそれw
ツグミ:人の命がかかってるかもしれないの!
でもまだ警察が組織的に動ける段階じゃないんだよ。
おねがい!昆虫ゼリー買ってあげるから!
菊川優:いらねぇよ。小学生か。
ツグミ:じゃぁ何ならいいの?
菊川優:別にやらないとは言ってないじゃん。ちょっと面白そう。
昆虫ゼリーは要らないから話は聞くよ。
ツグミ:ありがとーーー
なるべく早く人を集めてもらいたいんだけど、いつになる?
菊川優:今夏休みだけど。皆に聞いてみようか?
ツグミ:そっか、今夏休みか!じゃあ暇だね☆
一刻も早い方がいいから、今日集まれない?
私は日勤だから、最短で六時とか?もうちょっと遅くなるかも?
菊川優:いいけど、人集まるか分かんないよ?
ツグミ:大学生でしょ?どうせみんな暇だよ
菊川優:偏見だー
このやり取りの数分後、昆虫愛好会虫処のチャットには次のようなメッセージが流れた。
菊川優:静岡県警から捜査協力要請!植物に詳しい有志たち、今日夕方
集合!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます