7.「話は後で」
「あ……」
「警備モデルさんごめんなさい、私からよく言い聞かせておきますから」
「アア、コレは家カラ出さナイ方がヨイ。ワタシが送ってイク」
「……お願いします」
シラピは働キ者に頭を下げてから、僕のほうを睨んだ。
「ごめんもうすぐ自由時間終わりだから話は後で」
声色を変えて怒っている、のだろう。そんなシラピを僕は初めて見た。感情を露わにしないものだと思い込んでいたのかもしれない。一心に神格化していた。
警備モデルの働キ者は黙って道を引き返した。僕はすごすごと銀色の背中に続く。後ろを見ていられなかった。いつもの数段低く背筋を丸めて歩いた。
僕は何を待っているのか分からない。ちょっとストーカーみたいなバカなことをやってシラピを悲しませて、いつまでも受身のままだ。
ロボットの後に引かれて、処刑の執行を待っているのだろうか。どうか許ちてください、なんて赤子ですらやらないみっともなさで。
眼前に、デジカメのような機械が浮遊しながら迫ってきた。これもロボットか。
「繧「繝、繧キ繧、繧ウ縺ィ繝イ繧キ縺ヲ繧、繝ォ??繧ウ繝ャ縺ッ繧サ繧ォ繧、繝イ繧ェ縺ウ繝、繧ォ繧ケ繧ォ」至近距離から浴びせられた、脳まで響くような甲高い高音だった。
「なに、こいつ」
「あなたは呪われました。1週間以内にチャンネル登録しなければさもなくば死ぬ。死ね!」
やっとまともな日本語を話したかと思えば、小学生のような悪口だ。
働キ者はまた、熱気をぼうっと吐き出していた。
消えろ、存在価値ない、きもい、あとなんだっけ。液晶上でとっくに見飽きた言葉を僕のみ耳横に、スピーカーの合成音声でひととおり並べ立てて、それだけで満足したのか悠々と飛行していった。
「……気にスルナヨ」ギラギラと目に悪いデジカメがいなくなってからようやく発せられた、働キ者の声が心なしか優しく聞こえてしまう。
「ああ」
ああいうのには慣れているはずだ。まさか、この世界でもご対面するとは思わなかったが。
あれが言葉を発する間、僕たち2人は一言も発さなかった。それで正解だ。
「あれハ、あれをスルためダケのロボットダ」
低く、断言された。
「へえ」
どうでもいいと思った。
「ニンゲン、これ以上シラピと共に外に出るナヨ、絶対ダ」
「ああ」
これからのことなんて、考えたくもなかった。
「……ニンゲン」双眼レンズと目があった、気がした。「イヤ、東雲鈴……カ」
「は?」
またあれのことを思い出させられた、憂鬱だ。
「ナンダ、データベースに登録されていた名デ呼んでやっタというノニ」
「……僕は瑞素だ。その名前で呼ばないでくれ」
「ソウカ。なあ、スイソ」働キ者は、軋みを立てた。「今のオレにはできナイことヲ、スイソなら成シ遂ゲられるノかもシレヌ」
センサーを伏せながら、「デハ、さらばダ。マタ会おウ」低く、告げられた。
「セイゼイ、アトでたっぷりS-13から怒られろ」
幾重ものギアがざわめいて、働キ者は去って行く。
見送って、何かを考えようとして、考えることを考えようとして、結局全部放り捨てて、部屋のベッドに倒れこんだ。もうずっと部屋から出ていなかったから、膝と太ももが悲鳴をあげている。
一つ言えるのは、たとえぐっすり眠れたとしてももう後には戻れない。状況は好転しない。
今夜は、眠れそうになかった。
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