9話・レクリエーション部の休日。
週末、春道はレクリエーション部の一堂ととある渓谷に来ていた。
渓谷は春道の家から車で約、1時間ほど。
周りは程よく整備されていてキャンプやBBQなどの娯楽が楽しめる。
そう、今日の目的はその娯楽をレクリエーション部で楽しもうと言うことなのだが....。
「重っも・・・・!!何が入ってんだこの荷物!」
「蓮、もう何も言うな、こっちが挫けそうだ....。」
「おいおい男子共、弱音吐いてないで働け働け〜」
と、荷物掛として重労働を負う始末となっている。春道としては別に嫌ではないのだが、筋力が許容できるギリギリの重量としつこい残暑のせいで体力が奪われていくのは否めない。
挙句、顧問の日向先生から煽られる始末だ。
「あの、私も手伝いましょうか?」
そんな蓮と春道に優しげに愛が声をかける。
「....いやいや、大丈夫だよ羽衣さん、遅くなりそうだから先生達と先に行ってて」
「待て春道、ここは優しい羽衣さんに有り難く手伝ってもらうってのはどうだ....。」
「そんなわけにはいかないだろ、もう少しだから頑張るぞ、蓮。」
言ったはいいものの、春道よりも軽い荷物を持っているはずの蓮は昇天しかけている。
「ほ、本当に手伝いますよ、春道さん」
「あぁ、本当に大丈夫だから、羽衣さん!」
止めたのだが、春道が持つ荷物の内から一つを愛は奪い去るようにして取る。
「....手伝いたいんです、ダメですか?」
いつもの上目遣いだ。愛にそれをされては春道は断ることなどできない。不本意ではあるのだが、手伝ってもらうことにした。
「その、ありがとう羽衣さん、重くない?」
「はいっ、大丈夫です!春道さんのためですから!!」
「そ、そっか、ならもう少し一緒に頑張ろう」
「はいっ!」
二人は笑顔で先に行ってしまった琴乃達を追うように歩いていく。
そんな二人を見て一人取り残されてしまった蓮は悲しげに呟いた。
「あの、俺もいるんですけど....。」
そして、暫く歩いた後、目的地であるBBQ場へ到着する。その場所は真横に川が面しており、日陰となる木々も生えていてロケーションとしては最高だ。
春道は重い荷物を下ろし、額に流れる汗を吹きながら一休みする。
「よーし、それじゃ次は火を起こすぞ椎名〜早く飲みたいから手っ取り早く頼むな」
「日向先生、少し休憩を....って、今日ここまで来たのは先生の車で、ですよね?!何で堂々と飲酒する気でいるんですか!!」
「ちっ、ノンアルだよノ・ン・ア・ル。それにお前が言った通り私が連れてきてやったんだから私の言うことは聞くべきだろう?」
「にしても、休憩ぐらい....。」
「いいから働け。」
絵に描いたような女王様である。こんな教師が居て良いものなのか....。
春道は嘆息しながらも、その指令を全うしようとBBQコンロに炭を落とし始める。
すると、琴乃が近くまでやってきて声をかけられる。
「わ、私もやるわよそれ。」
言われたのは予想していなかった言葉だった。
てっきり日向先生と同様に、「早くしろ」だの「のろい」だのと春道は言われると思っていたのだが。
しかし、この作業もせっかく今日の為にしてきたであろう琴乃の洒落た服装が汚れてしまうかもしれないと思った春道は断ることにした。
「大丈夫だよ、琴乃は涼しいところで休んでてくれ」
「なっ、手伝うって言ってるでしょ!良いから貸しなさいよそれ!!!」
「いや、だから良いって」
「二人とも騒ぐのはやめなさい、ここは私が春道君を手伝ってあげるわ」
と、琴乃と春道が押し問答をしているとそこへ響も参戦してくる。先程、荷物を運んでいた時はそんなことなかったはずなのにどうして。
と、春道は少々困惑した。
「ちょっと、何であんたまで出てくるのよ!あんたこそ部長なんだからゆっくりしてなさいよ!」
「部長だからこそやる意味があるのよ葛井さん?春道君もここは私に任せなさい?」
「ちょ、ちょっと二人とも落ち着いて!!」
言いながら三人で一つの炭が入った箱を奪い合う形になってしまうのだが、誰も譲ろうとはせず、徐々にその炭が入った箱はミシミシと音を立てる。
そして。
「「「あぁっ!!!」」」
同時に叫んだ瞬間、箱は見事に頭上へ飛ぶとびっくり返って、中に入った炭が三人へ飛び散る始末となった。
「・・・・もう、だから私がやるって言ったのに」
「初めから部長である私の言うことを聞いてればよかったのよ、疲れたから後は宜しく。」
「いや、日向先生に頼まれたのは俺なんですけど....」
と、服や髪に炭がかかり、琴乃と響のテンションは恐ろしいほどに下がっていた。
そして結局は最初に頼まれていた春道がこの作業をやることに。
「あの、春道さんこれも手伝いましょうか?」
「....ごめん羽衣さん、お願いしていいかな」
流石の春道も荷物の時のように断ることはなく、頭についた墨を払いながら申し訳なさそうに言った。
「はい、もちろんですっ!」
愛はやはり優しい、ここまで優しくされては泣けてくるというものだ。
と、春道が考えていると愛は春道へもう一度声を掛ける。
「春道さん、一度川で顔を洗ってきてはどうですか?」
「えっ、そんなに汚れてる?」
「はい、少しですけど、川の水は綺麗なので顔を洗っても問題は無いと思います。」
「そっか、それじゃあそうしようかな。ごめんね羽衣さん、少し行ってくるよ」
「はいっ」
言い残した春道は川の方へ向かい、腰を下げてバシャバシャと顔を洗う。
「もうはるってば、手伝うって言ってるんだから手伝わせてくれればいいじゃない。」
春道が目を瞑って顔を洗っていると、不意に耳元に甘い声色で囁かれる。
声色や話し方的に琴乃だろう。
春道は驚きながらも返事をする。
「何だ琴乃か、びっくりするだろ?」
「びっくりさせようとしたのよ」
「なんだそれ。そう言えばさっきなんで手伝おうとしてくれたんだ?琴乃らしくもない。」
「な、何よ、その言い方!」
琴乃は叫ぶと顔を濡らした春道の頬をムニッとつねくった。
「痛いッ、、、何すんだよ!」
「まったく、はるはいつもそう、私の気持ちなんか考えもしないんだから。べーっだ!」
「おい待てよ琴乃!なんだよ気持ちって!」
呼び止めようとしたが琴乃はそのまま不機嫌そうに元の場所へと戻ってしまった。
相変わらずよく分からない奴だと思いながら春道も腰をあげて、戻っていくのであった。
女神な君と僕との恋。 @asadarumadesu
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