8話・あの日の真実。
「うっし、それじゃ帰るか二人とも」
視聴覚室を出ると蓮が愛と春道にそう声を掛けた。
「わ、悪い蓮、今日は先に帰っててくれないか?」
「ん?どうしてだ?」
「ちょっと待ちなさいよ、私は鍵を返しに行かないといけないんだけど!!」
春道が蓮と話していると琴乃が口を挟む。
「い、いや、少し用があってさ、琴乃は蓮と一緒に帰れば問題ないだろ??」
「はぁ?!何で私がこいつと一緒に帰らないと行けないのよ!いつもは、はるが居るから許してやってるだけよ!!」
「そ、そんなに言わなくても.....」
琴乃に言われたれんが残念そうに話すと春道は苦笑いを浮かべた。
「ま、まぁ、今日のところはそういうことで!二人とも、それじゃ!!」
こうして春道は蓮と琴乃から逃げるようにして愛を連れ体育館の方へ向かったのであった。
「ここら辺かな?羽衣さん。」
「はい、ちょうどあの辺から気配がします」
琴乃達と別れた春道と愛は一度靴を履き替えて体育館裏に居た。
「なるほど、それじゃ行ってみるよ」
「き、気をつけて下さいね春道さん」
「うん....」
と、春道は愛が指した方へと進んでいくのだが、そうするにつれて景色の色が変わっていく。
一度目に妖魔と対峙した時と同じ灰色の世界がやってきたのだ。
「ウゥゥゥ.....」
景色の色が変わるのと同時に呻き声が聞こえて来る。
一度目の鬼の妖魔の時も同じような声を聞いていたが今日のは少し違う。
大型犬が威嚇しているようなそんな声だ。
「ウゥゥ....ワン!!!!」
呻き声が吠える声へと変わった瞬間、体育館裏の角から得体の知らない何かが飛び出してきた。
それはやはり犬ではあるのだが、凶暴な顔つきで、図体は通常の犬より格段に大きく、尖った爪が伸びている。
「おいおい、嘘だろ、今度は犬かよ....」
妖魔の姿を見た春道は少々狼狽えたが、すぐに戦闘態勢をとる。
そして。
「グルルル....ウォンッ!!!!」
春道に気がついた妖魔も威嚇の声を上げながら猛スピードで突進してくる。
「ど、どこの犬だか知らないけどごめんな!」
そう言うと春道は突っ込んできた妖魔のすぐ横に周り、頭に手刀を叩き込んだ。
すると妖魔はキャンッという鳴き声をあげてその場に突っ伏す。そして、一度目に戦った妖魔のようにその身体は灰となって散っていく。
今回の妖魔は凶暴そうに見えてそれほど力はなかったらしい。
「さすがです、春道さん!!」
「あっははは、良かったよただの犬で」
一仕事終えた春道に愛が声を掛けると彼は苦笑いを浮かべて応じた。
そして、兼ねてより気になっていたことを聞くために口を開く。
「あのさ、羽衣さん、この間の話、そういえばまだ途中だったよね?」
「そういえばそうですね?」
「良かったら話してくれないかな、続き。」
「はい、勿論です!!」
そう、聞きたいことと言うのはこのことだ。愛を部活に誘ったのもこのためであるし、祖父が言っていたこともあって、春道としては気になってしょうがなかったのだ。
「前に私が持つ力は三割程度しか無い、と言いましたよね?」
「あっ、うん、確かそこで話が終わったんだよね」
「はい、では、何故私の力は三割しかないのか、その理由を話したいと思います。」
そう言ったものの、言いづらいのか愛は少し黙り、間を空けてから再び口を開く。
「私が力を失ったのは十年前、春道さんに出会ったのがきっかけです。」
「えっ、俺が?」
少し驚きながら春道が言うと愛は首を縦に振る。
「あの夜、私は一族の人間と山を歩いていました。そしたら雪に埋もれている二人を見つけ、何とか助け出そうとしたんです。」
ここまで愛が話したところで、春道の額には脂汗が流れ始める。
「一人は意識もあり、助かる可能性がありました、しかしもう一人はもう長くないと、しかし、その意識がある方は私たちにこう言ったんです。この子だけは助けてくれって」
「・・・・そ、それって。」
「はい、春道さんのお父様です」
言われた途端、春道の脳裏に無くなっていたはずの記憶が走馬灯のように駆け巡る。
父が事故で亡くなっていたのは春道も知っていたのだが、自分もそこに居合わせたのだと。
「春道さんのお父様もかなり深刻な状況で、私達は見捨てる訳にもいかず....。一族の中で私だけが扱える力、それはお父様の生気を春道さんに移すことだったのです。」
「そ、そうか、だから今も。」
そう、愛が契りと読んでいる力もまたその類なのだ。自分の中にある力を他人に受け渡すと言う。
「それから力を失った私は幾度となくこう思いました、春道さんに会いたい。春道さんに会ってお父様の事を謝りたい、と。」
「ど、どうして?」
「お父様の願いであったとしても、人の命を思うがままに扱うのは良くないことです。それに、春道さんから父という存在を奪ってしまったのも。」
「・・・・。」
愛が悲しげに話を続けていると春道は黙ってしまった。
しかし、少しすると何か決心したような顔で口を開く。
「あ、あのさ、父さんのこと、羽衣さんは悪く無いよ。それにこんな俺の命を救ってくれてたなんて、感謝でしかないし。」
春道がぎこちなく行った瞬間、愛の目から大粒の涙が流れ出す。
「それに、話を一つ聞いて気づいたことがあるるんだ」
「....えっ?」
「俺は羽衣さんを守らなきゃいけないって、俺を助けたせいで妖魔達を追い払えなくなったんでしょ?なら俺が守らなきゃ。そういう理由もあって羽衣さんは俺に会いに来たんだよね?」
「ご、ごめんなさい....私、春道さんさらお父様を奪っておいて....。」
「い、いやいや!謝って欲しいわけでも無いし、悪いとも思ってないよ!ただ、そうしなきゃいけない気がするんだ。」
と、春道が答えると愛の顔は先程から流れている涙でぐしゃぐしゃになっていた。しかし、その美しさは錆びることなく、儚く見える。
「もうそんなに泣かないで羽衣さん」
「で、でも....」
「大丈夫、本当のことを聞けてよかったから」
春道が言うと愛は戸惑いながらも涙を拭いてこくりと頷く。
いつもの夕焼けに今日は虹がかかっていて、まるで2人が再会したのを改めて祝福しているかのようだった。
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