7話・二度目の契り。
それから、春道や響に入部を勧められた愛が心良く入部届を書いていると視聴覚室の扉が開く。
「う、うぃーっす」
開いた扉から妙にか細い声で入ってきたのは蓮だった。そしてその後ろには不満と怪訝さをある限り顔に出した琴乃だった。
「おっ、二人ともやっときたか」
「おっ、じゃないわよ....これは一体どう言うことなの!!」
入ってくるなり返事をした春道の下へ琴乃は声を荒げながら詰め寄る。
そして、入部届を書いている愛を見ると。
「ちょ、ちょっとなによ!ま、まさか、その子を入部させる気なの?!」
怒りに加えて驚愕した表情で叫ぶ。
そしてそんな琴乃の声に気が付いた愛は不思議そうな顔をして首を傾げている。
「まさかって、そんな驚くことか?別に羽衣さんじゃなくても入部は大歓迎なはずだろ?」
「そ、そうかもしれないけど、き、昨日転校してきたばかりじゃない!!」
「転校してきたばかりだと入部するのはダメなことなのか?」
「・・・・・。」
支離滅裂なことを勢いよく言い放ったと思えば、琴乃はすぐに春道から宥められ顔を赤くして黙ってしまう。
「あ、あの、同じクラスの葛井さんですよね?」
と、そんな琴乃に愛は少し戸惑いながら声をかけた。
「そ、そうだけど?」
「私なんか転校したばかりで前からこの部に居た皆さんの仲に入るのは少し図々しいかもしれませんが、その、良かったら仲良くしていただけませんか?」
先程、食い気味で琴乃は愛への不満を声に出したのだが、本人からこうまで丁寧に言われては何も言い返せない。
そして、焦ったように琴乃は口を開く。
「べ、別にそこまで言ってないわよ。入部したいのなら、か、勝手にすれば。」
「そうですか、それなら良かったですっ、これから宜しくお願いします、葛井さん!!」
拗ねたように返事をする琴乃にも愛はその美しい顔に笑みを浮かべて返事をする。
「よーし、それじゃ今日から羽衣もこの部の一員ってことで、仲良くしろよー」
と、愛が書き終えた入部届を取り上げた日向先生はそれをひらひらとさせながら気怠気に話す。
そして部長である響は日向先生に続いて今日の活動内容を提案する。
「まぁ、そういうことで今日は新入部員の羽衣さんのために簡単な遊びにしましょう」
「と、言うと?」
春道が聞くと響は制服のポケットから徐にトランプを取り出した。
「大富豪をしましょう」
「おっ!良いっすね、この部には借金大王がいるし、大富豪なら最下位はないっす!」
「おい蓮、それは俺に対しての悪口か?」
春道が問うと蓮は白々しく口笛を吹く。
そしてそんな二人を尻目に響は手際良くトランプをシャッフルすると人数分に配る。
「それじゃ、始めましょうか」
配り終えた響が言うとその場にいた全員が伏せられたカードを手に持ち、今日の部活が始まったのであった。
そして、暫くした後。
「っしゃあ!!今日の最下位は俺じゃないぞ!!」
春道が高らかに声を上げた。
「ど、どうしてこんなことに。」
「珍しいな〜、葛井が負けるなんて」
「そうね、けど春道君がこういったゲームで最下位じゃないのも同じくらい珍しいわ。」
そう、今日の最下位は琴乃である。
基本的に普段は春道が最下位なので見ているだけの日向先生も少し驚いている。
そんな中、最下位を獲ってしまった琴乃は大富豪で勝負を終えた愛を恨めしそうに睨んでいる。
と、タイミング良く下校時刻のチャイムが鳴り、日向先生が席を立つ。
「それじゃ、今日の部活はここまでな〜、珍しく葛井が最下位を獲ったことだし、職員室に鍵返しといてくれ」
「えっ、何でですか!先生、今から職員室に戻るでしょっ?!」
「私は少し用があるんだよ」
そう言いながら日向先生は、顔の前で指を二本立てて、ジェスチャーした。
どうやらたばこを吸いに行きたいらしい。
琴乃は最下位を獲ったこと、そして喫煙という生徒からすれば不純な理由でいいように使われることになり、その顔にまた不満を表す。
「はぁっ、なんか最近ついてないわ〜」
「確かに、特に恋愛とかね?」
「また殴られたいの?」
「ご、ごめんなさい。」
と、お決まりのやりとりをした蓮と琴乃も席を立つ。
「それじゃ、俺たちも帰ろうぜ春道〜、それと羽衣さんも」
「あぁ、そうだな」
先に視聴覚室から出ようとした蓮に言われた春道もまた席を立ち、その場を去ろうとした。
すると、何を言う訳でもなく、愛にその手を引かれた。
「ん?どうしたの羽衣さん、もう部活は終わりだけど?」
「あの、春道さん....言いにくいんですけどまた妖魔の気配がします。」
何の気なしに返事をした春道は愛の言葉を聞いて目を丸くする。
またあの化け物がと。
「ほ、本当?」
「はい、ここから東、ちょうど体育館の辺りです。それもこの間のより協力な気配がします」
と、聞いたところで、春道は明らかに戸惑った表情を浮かべる。
前は、一瞬にしてあの妖魔を退治したものの、怖さはあったし、また戦うのかと思うと腰が引けるのは当然だ。
しかし、そんな春道へ愛は続けて言葉をかける。
「春道さん、守ってくれますか?」
切ない表情で愛はつぶやいた。
いくら恐怖があってもどんなに相手が凶悪だろうと、女神のような彼女に言われては男子とあれば断れない。
「わ、分かったよ羽衣さん。だけど俺、もうあの時みたいな力は使えないんだ。」
「それなら大丈夫です、また契りを結べば良いだけですから」
言われた瞬間、先程まで春道の中にあった恐怖心や戸惑いは嘘のように消えていく。そして次第に春道は顔を赤くする。
「あ、あの、それってやっぱりキス、のことだよね....?この間と同じ。」
「は、はい、そうです。」
と、聞かれた方の愛も顔を赤らめる。
そして、数秒間無言で見つめあった二人はどちらからともなく、視聴覚室後にしようと席を立ったのであった。
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