6話・部活。

愛と別れた後、帰宅した春道は何の気無しに今でテレビを見ながら考え事をしていた。


考え事というのはもちろん愛とのこと、そして先程起きた事象のことだ。

あんな鬼のような化け物と自分が戦っていただなんて少し時間が経ってから考えてみるとなんだか恐ろしい。それに愛のような美しい少女と十年前に出会っていただなんて。


そんなことを春道が考えていると袴衣装の祖父が今の扉を開けて声を掛けてきた。


「お〜、春道帰ってたんかー」


「あっ、じいちゃん。さっき帰ったとこだよ」


間の抜けた声で呼ばれた春道は振り返りながら応じる。

白髪が少し混じった頭にビシッと袴を着こなした祖父の姿はなんとも味がある。


そんな祖父に春道はふと、とある事を聞く。


「なぁ、じいちゃん、俺が5歳かそこらへんの歳の時になんか変わったことなかった?」


聞いた瞬間、祖父の顔が少し引きつる。

そして少し間を開けて口を開いた。


「お、お前、もしかして思い出したんか?」


「思い出したって?」


「違うか、じゃあなんでそんな事急に.....いや、思い出してないなら良い。」


「なんだよそれ、気になるじゃんか〜」


と、怪訝な表情で居間から出ようとする祖父を春道は残念そうな声で引き止めた。


「....あの夜は冷たい雪が降る夜だったなぁ、お前は助かって良かった。春彦のことは残念だったがなぁ。」


「冷たい雪が降る夜....それに父さん?」


「この話はまた今度だ春道、じゃあな。」


春道がまだ話を聞こうとしていたのだが、祖父は一言残すと足早に居間を出てしまった。


春道は一人になった居間で祖父が言っていた事を思い出す。冷たい雪降る夜、そして祖父が言った春彦という名は春道の数年前に亡くなった実父のことだ。


少し考えていると、とある事に気付く。

冷たい雪が降る夜、それは今日愛が言っていたことと重なるという事だ。


春道が五歳の頃と愛が言っていた十年前ではちょうど同時期である。


気がつくと愛や自分のことについてもっと知りたいという気持ちが高まりもやもやしてくる。

しかし、そんな春道のことを今度は居間の入り口から母が呼ぶ。


「春道〜、ご飯の支度するから手伝って」


この謎をどうにか探りたいとこだが、今は間が悪いみたいだ。

春道は渋々、テレビの電源を消すと居間を出た。




数日後、春道はいつもと同じく登校すると隣に座る愛のことばかり考えてしまう。

時より視線が合うのだが、前のように話す訳でもなく、あれから二人の距離は少し曖昧だった。


しかし、春道はどうにかしてもう少し彼女に近づいてみたいと思い、とある事を提案してみようと、授業が終わった放課後、愛に声を掛けた。


「あ、あの羽衣さん」


「は、はい?春道さん。」


この日一日、愛も春道のことを気にしていたのか少し戸惑いながら返事をする。


「その、部活とか興味ないかな?」


「部活、ですか?」


「そう、もし良かったらなんだけど俺が入ってる部活、見学しに来たりしないか」


そう、春道の提案とはこのことだったのだ。

春道達が通う十禅師高校では原則で何らかの部活に所属することが義務付けられている。なんとも厄介な校則なのだが、他の高校とは違い、レクリエーション部などさまざまな部活が存在しているので生徒達から反感を買うことはない。


誘われた愛は目を丸くしてとても喜んだように口を開く。


「も、勿論です春道さん!」


「良かった、それじゃあ部室のまで案内するよ」


こうして春道は嬉しそうに笑う愛を伴い、いつも通りに視聴覚室へ向かっていったのであった。


しかし、そんな二人を物凄く不満気に眺める一人の生徒の姿があった。


「.....何よ、アレ。」


「おいおい琴乃ちゃん、そんなぼそぼそ言ってないで素直になって直接言ったらどうだい?」


「う、うるっさいわね、死ね!!」


「グハッ・・・・!!」


そう、2人を細目で睨んでいたのは琴乃だった。

そんな琴乃に蓮が茶化すようなことを言うとお決まりの鉄拳がみぞおちにクリーンヒットする。


そして琴乃は深いため息混じりにまた口を開く。


「もう!!何なのよ!!この間会ったばかりじゃない!いくら超絶美少女で胸が大きいからってベタベタし過ぎよ!!」


「ゲホッゲホッ....それで?琴乃ちゃ....琴乃さんは部活に行かないんですか?このままだと本当にその超絶美少女に春道盗られちゃうぞ」


「と、盗られるって!別に私は....」


「ほら図星だ」


「うるっさいわね!もう一回死ね!!」


と、琴乃が叫んだところで再びその硬い拳は蓮のみぞおちへと放たれた。


「もう、私が部活を休む訳ないでしょ、ほら行くわよ」


「うっ、うぅ....俺は休もうかな。」


腹を押さえた蓮が消えそうな声で言うのだが琴乃はそんな彼の腕を引きずるように春道達と同様、視聴覚室へと向かった。



「それで、レクリエーション部は何をする部活なんですか??」


少しして、先程春道と部室へ移動した愛が呟いた。

部室にはまだ誰も来ていない、二人だけの空間だ。


「えっと、簡単に言えば遊ぶ部活、かな?」


「遊ぶんですか?」


「うん、色んなゲームをしたり、皆んなでただ喋るだけの日もあるし、別にコレって言う活動内容はないんだけど楽しいよ」


と、部活の内容を春道が愛へ説明していると出入り口の扉が開く。


「うぃ〜、早いな椎名、って、羽衣も?」


「あら、春道くんが私より早いなんて珍しい、それより隣に居るのは噂の美少女転校生かしら?」


やってきたのは日向先生と響だった。

二人とも部員愛の顔を見て不思議そうな顔をしている。


「あっ、先生、それに響先輩!実は今日、羽衣さんが部活の見学をしたいってことで連れてきたんですけど良かったですか?」


「あぁ、別に?ていうか見学とかじゃなくもう入部したらどうだ?そんな大層な部でもないし。」


日向先生はそう返事をすると愛の前に入部届の用紙をヒラリと出した。


「そうね、部員が増えると言うのは嬉しいことだわ、羽衣さん、良かったら入部して下さる?」


「えっと、あの、本当に良いんですか?」


「羽衣さんが良ければ是非、そうして欲しいよ!」


響と春道に言われた愛は少し驚きながらも嬉しそうな表情を浮かべている。


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