Episode 月の舟
静謐な空気に白い月が浮かんでいる。『天の海に雲の波立ち月舟星の林に漕ぎ隠る見ゆ』なんて歌もあったと現実逃避しながら、目の前の茶番劇を眺めています。
この世界では、2人のヒロインが男を侍らせてイチャイチャしていました。
一方は『断罪イベントが』、もう一方は『攻略ルートが』などと供述しています。
…転生者とかいうやつですね。
2人共魅了持ちのようですし、ちょっと好感度があればすぐ取巻き要員に加入といった流れの模様。幸いにも、2人の取巻きが棲み分けされており、さらに双方ともに記憶があるせいで接点がありません。恋愛脳ばっかりでこの国大丈夫か?とも思っていますが、概ね平和です。
私ですか?
先の『断罪イベントが』とか言っているほうの護衛です。『攻略対象』ではないので無視されている模様。ちなみに今回の性別は女です。
あの女神からのオーダー、すなわち私の相手はこいつらではありません。
いつものように『がんばったはずなのにトラブルが☆』という展開で、隣国に行く羽目になっております。お忍びで留学して来ていた隣国第2王子の采配らしいです。
私はそこからこちらの話の面々と別れて、別の依頼調査に向かいます。
◆◆◆
森の奥の幾重にも重なった妖精の道の先に、少女が一人佇んで、誰かを待っていた。
足元には、ヒューヒューと細い息を繰り返している、人の輪郭をしたものが横たわっていたが、段々と呼吸も減っている。
少女は悲しそうに、それを見つめていた。
◆◆◆
あの女神の指示により、森のずっと奥の方、木々が急に道を開けてくれる先に、やっと今回の相手が居ました。はらはらと涙を落とす精霊と、かつて生き物であったらしい思念体です。何方も厄介な気がします。
取り敢えず近寄ると、思念体がズルり。足元に寄って来ました。左脚に絡むように巻き付くと、見る間に枯れ木の様に痩せこけていきます。どうやら生気を奪う性質ですね。
ここから帰れなくなるのは困るので、霧のようなその思念体に手を添えて、こちらからきちんと生気を送り込みました。
◆◆◆
魔石を挟んで相対するのは、私と先程まで消え掛かっていた思念体です。形を保てなくて霧散してしまったら、生気の無駄遣いなので、魔石を媒介にしました。あの女神から渡されているものなので、それなりに良い物なのでしょうが、それでも目の前に居るのは10歳位の少年の姿をした何かです。
「〇'"#¥%&+)*、〜!:*∆$$>π」
「え、お母様でしたか。いえいえ。この方をお預かりすれば良いのですね」
「&%##.,/%.」
「多分、幸せに出来ると思いますよ」
精霊が私の頭に直接乗せてきた思いに回答しながら、少年を肩車すると、キャッキャと喜んで手を振った。
途端に、ジェットコースターの逆走時に掛かる圧を受け、私と少年は森の入口に押し出されました。
◆◆◆
転生者御一行と合流すると、とても歓迎されました。周りのお目付け役とか、護衛仲間に。聞くと、ヒロイン2人はいきなり民営化の話しを進めようとしたらしいです。急激な制度の改革の行き着く先は革命ですよ。先ずは能力主義を、自分達の手と目が届く範囲からやってみてはいかがでしょうか。
◆◆◆
「ねぇ、あなたの名前はなんて言ったっけ?」
「クオンと言います。お嬢様」
ビクり、と反射的に上げた顔は涙と鼻水でグシャグシャだった。
「クオン、久遠…?アナタも転生者なの?」
「転生というか、派遣者ですかね?まぁ、そんな事はどうでも良いです。もう、時間がありませんので、現実見ましょう?」
ビダヤは黒い涙を流しながら待っている。
一言、彼女が「愛してる」か「ゴメンネ」と言えばこの世界は変わるのに。
はーれむえんどとか言うどっちつかずの恋愛を楽しんで、私の可愛い
私も右肋から腰に掛けてザックリ持ってかれてしまったので、もう余命幾ばくかなんですよね。
ミッションは完了しているようなので、結末を見届けたいと言うのは私の只の興味本位なんですけど。だって、あの子を幸せにするって、お預かりしたんですよ。
あぁ、あの雲間に見える月が綺麗ですね。
―――今回はとても残念でした。
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