第17話いらない話


都内の有名な街へと来た

前に都内に行った時は来那がナンパされたりしてたから今度は気をつけないと


「来那、絶対離すなよ?」


「なんでー?」


「いいから」


来那は俺の腕をしがみつくように歩く

ん?逆に歩きづらいけどまあいい


「これでいいの?」


「これしかないよ」


「?????」


来那は理解出来てないみたいだ

てかむしろ覚えてないよな

これでナンパされることはないだろう

都内となるとやっぱりチャラい人は必ずいる

今でも銀髪で短髪のツンツン頭の人が前を通る時に来那をガン見している

やめろよなーそういうの

とりあえず銀髪は通り過ぎたから良しとする


と思った時だった


来那の左肩からトントンと誰かが叩くのが見えた

来那と俺は振り返る

するとさっきの銀髪が何やらニヤニヤして来那を見ていた


そして


「あれー??来那じゃーん!!」


確かに銀髪は来那を見て来那と呼んだ

来那はキョトンとする

俺も全力で嫌な顔をする

誰だ?こいつ


「覚えてるか??お前の元カレだぞ」


と言って来那の肩に気安く手を置く

も、元カレ??

その言葉を聞いて俺は少し焦る


「誰?」


来那も覚えてない


「覚えてないってマジで?

俺のティッシュと財布だったのに」


は??


「ごめんなさい、覚えてないです」


「しらばっくれんなよ

男3人とお前1人で4Pしたことあったじゃんか」


………え?


「今隣にいるのが彼氏か?

よくこんなビッチと付き合えるよな

4Pだぜ?多分今も他の男とヤッてるよ」


銀髪は俺を見て好き勝手言って来る

来那も覚えてないだけあって

自分がしていた事実か嘘かわからないものに困惑していた


「俺がお前の処女もらったんだぜ?

覚えてないわけないだろ?」


「ごちゃごちゃうるせーな」


俺は我慢の限界だった


「あ?」


銀髪は俺を睨む

けど俺も全力で睨み返す


「来那とお前に何があったかわかんねーけど

来那に覚えられてないってことはどうしようもないやつなんだな」


「りつ、やめて、もういいよ行こ」


来那は俺の腕を引っ張るが

俺は行かない


「りつ?」


ごめん来那

こうでもしないと俺は怒りが収まらない


「お前に来那の何がわかるんだよ

来那の過去に何があったかは俺にだってわからないけど

お前みたいなやつが関わっていいような子じゃねーんだよ!」


俺は怒鳴るように銀髪に言う


「はん!もう俺は喧嘩する年でもないから言わせてもらうけど

なんでもしらばっくれる女には気をつけた方がいいぞ

お前は騙されてる」


「昔の事はいいんだ

もうお前は来那とは関係ねーだろ

今の来那をお前なんかと一緒にすんじゃねーよ!」


「りつもういいってば」


来那はまた俺の腕を引っ張る

そして来那も銀髪を睨むようにして


「ごめん君との間に何があったかなんて覚えてないよ

今はこの人で記憶がいっぱいだから」


そう言って来那は銀髪に背中を向けて歩き出す

俺も続いて歩くと銀髪は追ってこなかった


しばらくは目的もなしにただ歩いていた

一言も会話をせずにひたすら歩く

そして自然と向かった場所は駅だった


「もう帰るか?」


「……うん」


デートの気分じゃなくなってしまった

でも俺は来那に言いたい事がたくさんあった

だから今帰るわけにはいかない


「ちょっと行きたいところがあるから付いて来てもらえるかな?」


「どこに行くの?」


「来那っぽいところ」


「なにそれ?」


俺は理由になってないところに行く


その場所は


「海に行こう」


冬だけど海に行きたかった

都内で1番近い海に行く

俺もなんだかんだで来那を振り回してる事が多いけど

今日は俺に付いてきてほしかった

海に着くと


「ねえーりつーなんで海なのー?」


ここの海は自由に入れるみたいだ

なので砂浜とか歩いてても何も言われない


「いいからこっちこっち」


「寒いよーー」


来那の手をギュッと握り


「この辺で座るか」


と言ってその場で地べたに

目の前には海


「来那が寒くなると思って貼るカイロ買って来たぞー

しかも4つも買って来たからこれ貼って寒さ凌いでみて」


来那の背中に二つとお腹に二つ貼ってあげた


「ありがと笑」


来那は笑ってくれる

そっと和んだところだった


「りつごめん、

私、覚えてないけど最低な事してた」


来那は声を震わせて俺に言う

でも俺はそんな来那に優しく言った


「来那は悪くない、悪いのはあいつだ

来那が言ってくれた通り今は俺で記憶がいっぱいなんだろ?

忘れていい記憶だよ」


「……うん」


「来那は今、何が不安なの?」


「何って、全部不安だよ」


来那がそう言った時

病院で言われた一言をまた思い出す


『私の気持ちなんてわからないよね』


「私ね、毎日日記とか書いて思い出を残してるけど

でもやっぱり思い出は共有出来ないのがすごく寂しくて

私のこともっと知ってほしいって思っても結局さっきみたいに覚えてなくて後からりつを傷つける事になるし」


俺は何回も言うけど今のままでも幸せだ

けど来那は違うのかもしれない


「来那は俺に対してどう思ってるの?」


「ごめんなさいって思ってるよ」


「それはなんで?」


「りつと私が過ごしてきた1年半はりつのもので私のものじゃないみたいじゃん

私はその中の1ヶ月で、月日が経ったらそれで終わっちゃうのが寂しい

りつに申し訳なくて、辛いよ」


ついに来那は泣き出してしまう

そして来那は続ける


「りつとは離れたくないのに

一緒に居た分だけ辛くなる

今りつは幸せって言ってくれても

私はこの変わらない日々がどんどん嫌になってくる」


来那の涙がどんどん溢れ出る

来那はこんなにも俺のことを思ってくれてるんだ

俺は来那に何が出来るんだろう…

毎日考えて毎日答えを見つけようとしていた

だから俺はいつかこうしてあげたいと思っていたんだ


「じゃあ来那、ケータイ出して」


俺が言うと来那はケータイをポケットから出す


「録音機能使っていい?」


「いいよ、」


来那のケータイの録音機能で俺は


「来那、いつもありがとー

俺は来那との思い出が共有出来なくても

俺が来那の分の思い出も大事にするよ

だから、俺の前ではいっぱい泣いていっぱい笑って、ずっと一緒にいれるように手を繋いでデート行こうね

俺は来那と付き合えてよかったって思うよ

こんなに好きになれる人は生涯いないんじゃないかな?

来那最高ー!来那大好きー!

以上!来那の事が頭から離れた事がない律でした」


これで録音を終了した


「なにしてんの笑」


「ばーかやろー!俺の思いを来那のケータイに保存したの!

辛くなったらそれ聴いて」


「じゃあ、私とりつ2人で話してるところも録音したい!」


「いいよ」


俺と来那はべったりとくっついて


「来那ー?」


「なーにー?」


「どうしてこんなに可愛いんだ?」


「うるさいなーもう」


「うるさいってなーお前

俺彼氏だぞ?」


「彼氏でもうるさいよ」


「じゃあ黙って録音するか!?」


「だーめ、りつなんか喋って」


「さっき俺が言いたいこと言ったんだから来那が言ってよ」


「えー?」


「ほら、早く」


「なんか恥ずかしいなー」


「俺も恥ずかしかったけど言ったぞ!」


「わかったよ」


「じゃあお願いします」


「りっちゃん、私の事大事にしてくれてどうもありがとう

りっちゃんが幸せって言ってくれると私も幸せな気分になれます

私が辛くてもこうやって元気付けてくれて慰めてくれる優しいりっちゃんが大好きです

私はすぐ忘れちゃうけど、りっちゃんがいる限り私の記憶は終わらないと思います

りつ最高ー!りつ大好きー!

以上!私の一生分の思い出がりつで溢れてる来那でした」


恥じらいながらも言ってる来那が可愛すぎた


「律来那最高ー!」


「入ってこないでよ!」


「俺らの記憶は終わらないぞ来那」


「うん、頑張ろう、

りつとなら頑張れる」


ここで録音は終了した


そして来那は動画も撮り始めた


「ねえりっちゃん

なんで海に連れてきてくれたの?」


「あーそうそう、」


俺は木の棒を持って波が来る砂に俺の名前を書く


『律』


名前を書くと

その名前は波によって消される


「消えた」


来那が小さく言う


また俺は


『律』


と書いてまた波に消される


『律』


消される


『律』


消される


「ねえ、何がしたいの?」


来那も見兼ねて俺の謎な行為に不信感を抱いている


「海って来那みたいだよね」


「なんで?」


「思い出も全部波で消しちゃう

俺の名前も消しちゃうんだけど

俺は何回も来那の思い出に名前を書き続けるよ

何回も消されても何回でも書く

さっきの銀髪は」


『銀髪』


消される


「消えていい人間だ

俺の名前は消えてもまた俺が書くから消えない」


「よくわかんないけどありがと」


「わかんねーのかい!」


まあいいんだ、要は来那が記憶を消しても俺が居続ければいいって話だ

そんなこんなで

来那の不安を消せたかはわからないけど

こういう形で来那との思い出を共有していたい

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