第15話記念の話

15



その後はただただ普通に大学の話をして終わった

2人が言うには来那は大学ではかなり優秀らしい

レポートの提出期限は必ず守るし

絵もかなり細かく描かれている

来那の絵はキャラクターものだったら見たことあって

かなり上手いと思ったけど

デッサンとか美術館にあるような絵を来那が書いてるのは見たことない

だからまもりに来那の絵の写真を見せられた時にはびっくりした

普段見ることのなかった来那の一面がまた魅力的に写る


そして月日が経ち

付き合ってもうすぐで1年が経とうとしていた頃

俺の両親に来那を紹介することになった

その3日前の話

俺は朝いつも通り支度をしていると


「律ー??誰か家で待ってるんだけど何?」


俺の母さんがなんの興味も無さそうな聞いてくる

俺は今、アパートで妹と母さんと父さんと一緒に暮らしてる

父さんは工場で働いていて

母さんはスーパーのパートで働いてる

妹は高校2年生

ごく普通の家庭で育ったごく普通の大学生です


「誰って?どういう感じの人?」


母さんに聞くと


「なんか帽子かぶっててよく見えなかったけど女の人」


女の人?

来那にはまだ家は教えていない

というのも俺は1年経った彼女じゃないと親に紹介するなと父さんから頑なに言われてきたから

別に男だしどんな彼女連れてきてもいいんじゃねーの?って俺は思うんだが父さんはかなり真面目な人で

俺がわりといい大学に行けるのも昔から勉強に厳しくしてきた父さんのおかげだと思っている


それにしても朝から誰だ?

インターホンも押さないで家の前に立つ1人の人物

俺は静かにゆっくりとドアを開ける

すると家の前に立ってた人物が体をビクッとさせ背中を向けた

でも俺は後ろ姿だけでわかった

この華奢な背中は……


「来那?」


俺が言うと彼女もゆっくりと振り返る


「りつ」


来那だった

わかってはいたけどなんでここにいるんだ??

一つの疑問が生まれる


「来那?なんでここにいんの?」


帽子かぶってるけど来那の顔ははっきりと見える

付き合って1年になるので来那はもう20歳になっていた


「りつの友達?に会ったよ

私は覚えてないけど相手の人は私を覚えてた」


少し慌てた様子の来那だが

朝、大学に行く前にいるのがとても不思議な感覚だった

でも、俺の友達って誰だろ?

来那をわざわざここまで連れて来て帰ったんだろ?

そんな友達いたっけな?


まあそんなことはいいや


「ちょっと待ってて

今支度するから!」


俺は朝から一緒に来那と居れることに幸せを覚えた

急いで支度をすると


「なに?彼女?」


と、母さんが興味津々に聞いてくる


「まあね、もう1年になるから今度紹介するよ」


爽やかな笑顔を母さんに見せる

俺は洗面所へ直行

髪をワックスでワシャワシャとセットし整える

……ん?

前髪がうねってる

このうねりで来那に顔を合わせるわけにはいかない

俺は母さんと妹のひかりがよく使うメイク台に向かう

すると妹のひかりがちょうどアイロンをかけていた


「ひかり、一瞬アイロン貸して」


「いいよ」


と、ひかりからアイロンを受け取る

前髪のうねりを直すと


「来那ちゃん来たの?」


ひかりがニヤニヤしながら俺に聞く


「来たんだよ、びっくり」


家族全員俺に彼女が居るの知ってる

電話とかもしてるし、ひかりとは来那の話をする時もある

来那には覚えてるかわからないけど一年経ってから家族に会わせるって言ってあるしあともう少しだ

準備万端


「じゃあ行ってきまーす」


「はーい」


俺は家を出る


ドアを開けると来那が座って待ってた


「ごめん!おまたせー!」


すると来那が立ち上がる


「ううん、じゃあ一緒に行こう」


来那は笑顔を見せて歩き出す

朝から贅沢だなー俺

まあそんなことは置いといて


「今日どうしたんだ?

学校間に合うの?」


「今日午後からだってこと忘れててさ

家に帰ろうと思ったらりつの友達にあって

りつの家通るって言ってたから

りつの家まで車で送っていってくれたの」


「男?女?」


「女の人だった」


女の人か、よかった

でもなーちょっと不安だよなー


「女の人で、しかも普通に送っていってくれたからいいけど

怪しそうな車には乗っちゃだめだぞ?」


「もう!子供じゃないんだから大丈夫だよ」


そうだけどなー

もしこれで俺の友達じゃない人が来那をさらっていったりしたら怖いからな

でも俺の友達ってマジで誰?

後で聞いてみよう


そんなこんなで俺は来那と一緒に大学に行けたわけだけど

後に友達に聞いたみても朝来那を見た人は誰もいなかった

ちょっと不思議に思ったけど来那が無事ならそれでいいと流していた


そして三日後

日曜日から来那を家に呼んだ


「おぉーあなたが来那ちゃん?」


母さんも喜んでいた

来那は深く頭を下げて


「いつもりつにお世話になってます」


来那は言う

父さんは


「おい、律、いつの間にこんな可愛い彼女作ったんだ?」


とびっくりする父さん


1年溜めてた甲斐があるリアクションだ

父さんが1年続いたらなんて言わなかったら早くから紹介してるわ!


両親とひかりには来那の記憶のことを話した

1ヶ月しか記憶が残らないことと

悪化することはないということ

だからこそ俺がそばにいてあげたいということ

全部話すと

ひかりは「マジで?」と軽く流してたが

両親は重く捉えていた


「子供が出来たらどうするの?」


とか


「律の人生であと50年あるとして

そのうちたったの1年だから

生半可な気持ちじゃだめだってことわかるよな?」


とか

俺は何があっても離れないって決めていたけど

両親の不安は多かったみたいだ

でも俺はやるしかないと思って居る

なんでかわからないけど

自分でもおかしいと思うくらい来那のことが好きで

どんな来那でも受け入れられる自信しかなかった


そして、数日後

両親の不安を後方に俺と来那は1年記念日を迎える


6月4日


特別おしゃれするわけでもなく

良いところで食事するわけでもない

それは俺と来那で決めたこと

普通が1番

来那にとっての1日は貴重な1日だから

緊張した雰囲気とかは嫌みたいだ

俺もそう思うけどやっぱり1年記念日にはプレゼントをあげたかった

1年記念なのにショッピングモールで買い物デートだけする

服をいっぱい買った来那は荷物を両手で持つ

それを見かねた俺は


「すげー荷物多いな

半分持とうか?」


「大丈夫だよ

でも、ちょっと座りたい」


来那はベンチがあるところまで行って腰をかける

荷物を置く来那

よし、ここがチャンスだ

あまり人目につかないように


「ほぉら来那ー!よしよしよしー!」


俺は来那の頭をくしゃくしゃに撫でる

多分セットしてる頭だけどくしゃくしゃにする


「やめてよ!なに??」


俺の手を思い切り払いのける来那だったが

それでも俺はやめない


「やーめーてー」


嫌がりながらも笑ってる来那


「何がしたいのほんとに笑」


「そんな気分だったからだよ

はいこれプレゼント」


俺は不意にプレゼントを渡す

これがやりたかっただけだ


「え!?なにこれ!?」


「ん?来那との思い出が形になるようなやつだよ」


「私何も買ってないよ?いいの?」


「いいんだよ」


来那は今にも泣きそうだった

この顔が見たかったんだ


「開けてみて?」


「うん」


来那は綺麗に紙を剥がす

紙を剥がすと箱になってる

その箱を開けると


「すごーい!ネックレス?」


「そうだよ、裏見てみて?」


来那はネックレスの裏を見ると


「ゆーあーいんまいめもりえす?」


来那が答える


「違う!

You are in my memories」


俺は発音良く来那にドヤ顔を見せて言う


「どういう意味?」


「私の思い出の中にあなたがいるって意味だよ

俺からのメッセージね」


「………」


あ、あれ?すべった??

来那は下を向いて黙ってしまう


「ま、まあ!これが俺だと思って毎日付けてよ」


「…き」


「え?」


来那の小さな声が聞こえる

全然聞き取れなかった…


「なんて言った?」


「りつが大好きぃ」


来那は俺にぎゅっと抱きついてくる

来那の安心出来る体温が一気に俺を癒してくれた


「いつもありがとうって感謝の気持ちだよ

“You are in my memories”

覚えとけよ??」


「うん!絶対に忘れない!」


また来那は抱きしめる力を強くする

こんな幸せな日々がいつまでも続くなら

俺はもう他に何もいらないかもしれないな

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る