第11話来那の話

11



しばらくすると

家の玄関が開く音がする

すると来那は


「あ、お兄ちゃん帰ってきたかも」


と立ち上がって部屋のドアを開けた

ついに来たかお兄さん……

俺は恐る恐る来那の後ろに立つ


「お兄ちゃんおかえり」


「うん、ただいま」


ドアの向こうには来那のお兄さんがいた

俺は慌てて頭を下げて


「どどど、どうも!

あ、あの!来那さんとお付き合いさせていただいてます

吉見律と申します!」


俺が言うと来那のお兄さんは


「おぉー!君が律君ね!

話は来那から聞いてるよ

てか俺今邪魔じゃない?

飯作るから待っててよ」


お兄さんは俺の肩をポンと叩き


「来那、悪いけど上着掛けといて?」


「うん」


お兄さんは来那とは違ってかなり明るい性格をしてそうだ

来那が暗いとかじゃないけど

本当に兄妹なのかわからないくらい性格は似てないな


「りつ、待ってて」


「うん」


来那は部屋を出る

奥から来那とお兄さんが話してる声が聞こえる

なんか悪いこと話したりしてないかな?

なんてネガティブなことを考える

笑い声も聞こえるけどなんだろう…気になるな

しばらくすると


「おまたせー」


来那が部屋に入ってくる


「おう」


「お兄ちゃんご飯作るから

こっちきてー」


「へ?」


来那に手を引かれてリビングに連れてかれる

すると


「やっほー律君!

今から料理を作るからね」


明るく俺に声をかけるお兄さん

いまからなんだ


「律君はお米炊ける?」


とお兄さんに言われ


「あ、はい、一応」


俺は答える


「よーし、じゃあ炊こう!

こいつ、すぐ忘れるからお米炊けないんだよー」


お兄さんは容赦なく来那をディスる

けど来那も嫌な顔をしていない

普段からこうなのか??


「じゃあいつも通り盛り付けるから

後はお兄ちゃんよろしくね」


「あいよー!

任せとけー!!」


お兄さんは手際良く食材を出して調理し始めた

色々と激しいなこの人


食材を並べてると


「あ!!チャーハン作るのに卵とネギ買ってねーじゃん!」


お兄さんが大きな声で来那に訴える


「買ってくる?」


と、来那が気を使う


「えー、でも来那風呂上がりだし風邪引かないか?」


と優しい言葉をかけるお兄さん

イケメンかよ!


「大丈夫だよ

何もすることないし行ってくる」


「悪いな

じゃあコンビニで買ってきて」


すごくいい兄妹だな


「りつは残っててね?」


「え、あ、おう」


俺は動揺しながらも答えた

なぜ動揺したかというと

お兄さんと2人きりになるからだ

初めて会ったお兄さんと初っ端から2人きりって気まず!!


「じゃあ行ってくるね」


来那はお兄さんの上着を着て出て行った


来那が居なくなった途端

お兄さんは間髪入れずに俺の背中を強く押して


「おら、座れ」


と、テーブルの前に座らされた

俺はその瞬間に恐怖に陥ってしまう

や、やばい……もしかしたら別れろとか言われるかも…

そしたらどうしよ!!絶対無理なんだけど!


「とりあえず来那が帰ってくるまで俺暇だから俺がご飯炊くわ」


お兄さんはそう言ってお米を取り出す

あ、あぁ、そういうこと?

だから俺は座って待ってればいいって事かな?


「お兄さん、僕は座ってればいいですか?」


「誰がお兄さんだ!やめろ

俺、海『かい』って名前だから

そうやって呼んでくれ

んで、座って待ってて」


と、また陽気に答える

海さんか、怒ってる様子はないな

お米を研ぎはじめる海さんは俺にこんなことを言ってくれた


「来那がさ、ずっと律君の話をしてるんだよ

まあずっと2人で暮らしてたし

来那もそういう時期かーって寂しくなっちゃうけど

俺以外にも来那のこと支えたいって言う人が居てくれて嬉しいよ」


と、海さんは言う

そして続けて


「律君には感謝してるよ」


海さんに言われて俺は少し泣きそうになった


「ありがとうございます」


俺がそう言うと


「まあ、来那を裏切ったら一生恨むけどな」


海さんは冗談交じりに言った


お米を研ぐ海さんは釜に水を入れて炊飯器にセットする

海さんはこんなに明るいけど来那は大人しいのは何でだろうか?

疑問に思ってふと聞いてみた


「来那は昔どんな子だったんですか?」


「ん?昔も今もそんなに変わんねーな」


そうだったのか

海さんはテーブルの前に座る

正面に海さんがいる状態だ


「まあ昔は色々あったしな

自暴自棄になってた事もあるし

人を信用できないって言ってたしな」


来那の過去の話はかなりシビアな事だらけだった


「高校は普通の高校に入れなかったし

高校時代に出来た彼氏がひどいやつでさ

あいつだけは許せねー」


高校時代に出来た彼氏

その言葉を聞いて少し胸がチクっと痛くなる


普通の高校に入れなかったのは多分障害を持ってるからだろうな

でもちゃんと高校卒業してるし大学にも入ってる

しかし高校時代の彼氏か……


「どんなひどいやつだったんですか?」


あまり聞きたくなかったけど気になったから聞いてみる


「ああ、来那よりも4つくらい年上で

めっちゃチャラついた男と付き合ってたんだよ」


………


言葉に出来ない何とも言えない感情


「まああれだぜ?

来那がビッチとか男好きなわけじゃないんだけど

何でかちょっと優しくされたら好きになっちゃったみたいでさ」


優しくされたら……か

来那と付き合う前に言われたな

『優しくしないでよ』って

前の彼氏のことは忘れてるだろうけど

優しくされるのが辛いことだって思ってたからそう言ってたのかな?


「まああんま聞きたくないだろ?

この話は置いとこう」


と、海さん話を遮った

でも俺も聞きたいことがある


「来那が虐待を受けてたって本当ですか?」


俺は海さんに真顔でも気持ちを送るような表情で聞く


「まあ、そこが気になるよな」


海さんも受け止めてくれてるようだ

来那が記憶障害になったきっかけだ

来那に聞いてもわからないことだらけだから海さんに聞くしかない


「まず、俺らの家庭事情からだな

色々ややこしいからしっかり聞けよ?」


と、海さんはやたら深刻な雰囲気を出さずに言った

俺も集中して聞く


「俺と来那は血が繋がってる兄妹なんだけど

あともう2人血の繋がってない兄妹がいるんだ」


「はい」


「何でかと言うと

俺らの両親は本当の両親じゃない

来那が2歳の頃に本当の両親は離婚して

父親の方に預けられたんだ

母親は今どこにいるのかわからない

そして、父親は今の母親になる人と再婚したんだけど

再婚してすぐに本当の父親は事故で亡くなった

この時既に本当の両親がいなくなってて

血の繋がってない母親は今の父親になる人と再婚した

その間に出来た子供が血の繋がってない弟と妹なんだよね」


「……そうでしたか」


かなり複雑な家庭だったんだな

聞いててわからなくなりそうだったけどかろうじてついてこれた


「まあ母親も父親も自分の子供が可愛いんだろうな

俺と来那には一切愛情をくれなかった

飯もろくに食わせてもらえないし

特に母親は来那に小さい頃から暴力を振るいまくっててさ

すぐビンタして顔を引っ掻いたり髪の毛引っ張ったりして

俺も思い出したくないけど当時はやばかった」


まだまだ海さんは続ける


「中学2年になってからかな?

来那が初めて化粧品買ってきただけで

狂った母親が包丁を突きつけたらしいんだ

その場に俺は居なかったけど

頭を強く打ったのと思い切りグーで頭を殴られたらしい」


「……そんなことが」


「うん、そこからだな

来那は気を失って病院に運ばれて

目が覚めた時にはもう記憶が曖昧になってたんだ

そこまでされてまで一緒に居たくはない

だから俺も来那ももう親とは縁を切ったってわけで今ここにいるってわけよ」


「……なるほど」


本当に過酷な事があったから

来那もあまり人と関わるのが好きじゃないのかな?


「まあ今は律君で記憶がいっぱいだって言ってたし??

俺が支えなくても大丈夫かな、

なんてな!」


本当に明るいな海さん

こんな辛い過去があっても笑っていられるなんてすげーよな


「海さんは虐待されなかったんですか?」


「俺は飯食わせてもらえなかったくらいだったな

ご飯とかはもらえたけど

俺らの好物とかは作ってもらえないのは当たり前だったな

おかげで来那は血繋がってない弟と妹の好物が嫌いな食べ物になってるよ」


「へぇーー

本当に色々あったんですね」


「そうだぞー

俺がいなきゃ来那は死んでたかもだぞ」


「ありがとうございます」


確かにそうだな

色々支えてくれてたから今来那が元気でいられるんだろうな

本当に海さんには頭が上がらないな

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