第7話部屋の話


来那は付き合って2ヶ月くらいにこんなことを言ってた


「言葉を形にしてほしい」


どういうことかわからなかった

でも俺はその通りにできるように工夫をしていた

言葉を形にするということで俺は手紙を書いて渡していた

毎回来那と1ヶ月置きに記念日を迎える度に書いてる

来那はその手紙を読むのが好きみたいだ

そんなものでいいならいくらでもあげれるよ


でも来那は俺の告白の言葉をいまだに覚えている


“俺の人生、来那に全部あげる”


たまに「そう言ってくれたよね」っていう会話もしてるから覚えているに違いない

でも忘れてるものは忘れてる

そこの矛盾があるから俺は納得がいかない


朝を迎えて

今日、来那の家に行く


駅に着くと早速来那が居た


「おはよー」


来那は少し微笑んで俺に言う

昨日のことをどう思ってるのかはわからない

ただ俺を見て笑うくらいだからな

また忘れてんじゃねーか?

どうせ忘れるって言ってたし

なんて吹っ切れていた


「おはよー」


俺も挨拶を返す


「りつ、昨日ごめんね」


と、来那が謝る


「なんで?来那が謝ることではないよ

俺も色々無防備だったし

ただ、勘違いしてほしくないのは

酔ってても何かするわけじゃないからね」


まあ一応彼女持ちだし

そういうところはちゃんとしていたいから

てか逆に来那にされたら嫌なことは俺はしない

来那は可愛いしぼけーっとしてるから心配だけど


「そっか、めっちゃ不安だった」



来那の“不安”という言葉にどうしても弱い

歩き方とか喋り方も弱々しく

それでいて不安とか言われると

やっぱ来那を守りたいって何度も思えてしまう

俺が居ないとこの子は生きていけないと思える

そんな風に思えることは生涯ないだろうな


来那は俺の手を握る

心なしか来那は少し手汗かいてるような気がした

けど気にせずに家に向かう

しばらくは会話もないまま歩いていた

まあ来那は喋る方じゃないしそれが心地よかったりする


「着いたよ」


来那の家に着く


来那は団地に住んでるらしい

初めて行くな

そういえばお父さんとお母さんと暮らしてるかどうかも内緒にされてた

まあ誰と住んでても生きてられるならいいと思ってたしな

団地の階段を登る

二階に上がったところが来那の家だ


「入って」


「あ、来那、ちょっと待ってくれるか?」


「ん?」


俺は来那の家に入る前に知っておかないといけない


「お母さんとお父さんは?」


挨拶もしたいからそれだけは知りたかった

しかしそんな俺の気持ちを後方に来那は言う


「両親とは暮らしてないよ」



「……そっか」


内緒にされてたことが一つ解かれた


「今両親はどこにいるの?」


と普通に聞くと


「わかんない」


と来那は答える


「なんだよそれ…」


意味がわからなかった

亡くなったとか?

色々聞いてはいけないことがあるっぽいな


「私の部屋行けばわかるよ」


と言って来那は鍵を開けた

ちょっと緊張するなー

謎が多かった来那の家に行く

絶対何かある予感しかしなかった

中に入ると早速部屋が一つあった


ドアにはローマ字で『LANA』と書かれている

この来那の部屋に一体何があるんだろう?

マイナスなことかそれともプラスか

色んな不安が巡っていく中


「じゃあ、入って」


来那は自分で部屋のドアを開けた


な、なんだこれ……

来那の部屋は4畳くらいの小さな部屋だった

その部屋の壁には

紙がいっぱい貼られている


「……なに?これ?」


その紙を指差し来那に聞く


「メモだよ」


……メモ?

よく見てみると


『お風呂の沸かし方』


『食器の場所』


『大学の友達と特徴』


『本のカバーの付け方』


そして


『私の大好きな人はよしみりつ』


と書かれている

俺は思わず言葉を失う

これは……どういうことだ…?


「びっくりした?」


と、真剣な表情の来那


「なんでこんなこと書いてるの?」


頭が真っ白になりながらも俺は聞く


「忘れないようにメモしてるの」


「……そんなに忘れっぽいの?」


「ちがう」


来那は首を横に振る


そして

次の来那の言葉が内緒の話の全てだった




「私、記憶障害なの」



………


声にならないほど衝撃だった

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