第22話

星斗は広間の真ん中で茫然として立ち尽くしていた。



文夫もその場から離れようとしない。



「な……んで?」



星斗が文夫へ視線を向けてそう言った。



「俺は、死にたくない」



文夫が答える。



子鬼の1人が大きな金棒を引きずりながら星斗へ近づいて来た。



星斗の視線が文夫から子鬼へと移る。



自分がどうなる運命なのか、まだ理解できていない様子だ。



星斗は瞬きを繰り返して子鬼を見ている。



「ごめん」



文夫がそう言うと同時に、子鬼が金棒を振り上げ、そして星斗の頭へ向けて振り下ろしたのだった。


☆☆☆


血にまみれた星斗の体はすぐに広間の隅へと移動され、子鬼たちの食事になっていた。



青い顔をした文夫が戻って来るのを見て、俺は少しだけ体をずらした。



できれば文夫に近づきたくない。



そんな気持ちの表れだった。



「仕方のないことかもしれないけど、最低なことだよ」



小恋がそんな風に言ったが、文夫はなにも答えなかった。



文夫が星斗を裏切ったことで、俺たちの関係は確実に変化していた。



仲間さえも疑ってかからないといけない。



文夫のせいで、みんなで協力するということが困難になっていく事も明白だった。



「じゃぁ、次はお前ら全員中央に移動して来い」



まだ気持ちの整理がつかないまま、鬼にそう言われて移動していく。



広間の中央に流れていた星斗の血はすでに綺麗になくなっていた。



子鬼が掃除をしたようだ。



「残りは6人か。じゃぁ、お前ら2人ずつになってジャンケンしろ」



鬼の言葉にピクリと反応をする俺。



ジャンケン。



さっきまでと違って随分と単純になっているけれど、油断はできなかった。



ジャンケンに負けたら死か……。



俺は呼吸を殺すようにしてメンバーを見た。



俺、綾、文夫、小恋、ミヅキ、浩成の6人だ。



できれば綾との対戦は避けたい。



綾を勝たせることはできるけれど、次のゲームになったときに助ける事ができなくなってしまうかもしれない。



そう考えていると、ミヅキが近づいて来た。



「ジャンケンして」



真っ直ぐに俺を見てそう言ってくるミヅキ。



俺は小さく頷いた。



「勝っても負けても、恨みっこなしだからね」



「もちろんだ」



俺はそう答え、大きく深呼吸をした。



空気を吸い込めるのはこれで最後かもしれない。



そんな思いを抱き、ミヅキをみる。



ミヅキは耳の痛みに顔を引きつらせながらも、俺を睨み付けていた。



俺たちはすでに敵同士なのだ。



それなら、こっちも本気でいくしかない。



心臓がドクドクと早くなっていく。



暴れはじめる心臓をなだめるように、俺は何度も深呼吸を繰り返した。



ここで負ければ……死。



そんな恐怖が足元からせり上がって来る。



だけど、その恐怖を感じているのは俺だけじゃない。



残っている6人全員が同じ気持ちのはずだった。



こんな恐怖、勝ち負けには関係ない。



そう思い、ミヅキを見た。



ミヅキも覚悟ができている表情を浮かべている。



「じゃーん! けーん! ぽん!」



俺とミヅキの声が重なり合い、同時に腕を出していた。



一瞬、勝負の行方がわからなかった。



緊張から頭の中が混乱し、じゃんけんの勝ち負けがわからなくなったのだ。



ミヅキの表情が徐々に青ざめ初めて、ようやくわかった。



俺はグーを出していて、ミヅキはチョキを出しているのだ。



「勝……った」



自然と口をついてそう言っていた。



勝った。



勝ったんだ!



その喜びを爆発させる前に、ミヅキがその場に倒れるようにして崩れ落ちたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る