第21話

文夫は星斗の親指を生き抜いたのだ。



いや、正確には親指の形をした指サックだ。



左手の中にハンカチを押し込むふりをしながら、本当は親指の形をした指サックを隠し持っていて、その中に押し込んでいっていたのだ。



最後に右手の親指でハンカチを押し込めば、指サックは親指にピタリとはまるようになっていたのだ。



こんな簡単トリック、少し練習すれば誰にでもできることだった。



文夫が引き抜いた指サックの中から赤いハンカチが出て来る。



ハンカチが通常よりも小さいサイズなのは、指サックの中に収納しなければならないからだ。



ハンカチが床に落ちた瞬間星斗が青ざめる。



「なにすんだよ!!」



星斗は文夫につかみかかる。



文夫はグッと唇をかみしめて星斗を見ていた。



「仕方ないんだ。こうするしか、方法がなかったんだ」



文夫が苦しげにそう言う中、鬼たちからはブーイングが起こっていた。



「なにそれ、超つまんないんだけど」



「ネタバレうける~」



星斗の立場はどんどん悪くなっていく。



その様子を見て、ようやく気が付いた。



「まさか、文夫のやつ……」



「たぶんそうだよ。今のところ文夫君が一番評価が悪いもん。だから星斗君の邪魔をしたんだよ」



自分が犠牲になる前に、仲間を差し出したのだ。



「汚いぞ文夫!!」



ミヅキが怒鳴り声を上げる。



文夫は今にも泣きそうな顔をしているが、それでもその場を離れなかった。



死ぬか生きるかの勝負に汚いもなにもないかもしれない。



だけど文夫はここで俺たちからの信頼を失ったのだ。



これから先団体戦があったとしても、文夫を助けてやる事ができるかどうか自信がなかった。



そんな中、評価が決まった。



星斗に上げられた○の数は……ゼロだった。

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