第14話

小恋が広間の中央へと歩いて行く。



小恋はジッと鬼を見ていた。



鬼は眉を少し上げて小恋を見る。



「お前の特技はなんだ?」



そう聞かれ、小恋は大きく息を吸い込んだ。



「早着替えです」



その言葉に俺はギョッとした。



小恋の早着替えは学校内でも有名だった。



アイドルがコンサートなどに使う衣装とは違い、全く変哲のない洋服での早着替えだ。



小恋が普通に廊下を歩いていると思っていると、次の瞬間には違う服を着ている。



早着替えの瞬間を見てやろうと企む男は絶えずにいたが、今だそれを見た者はいなかった。



小恋の早着替えがこんな場所で見れるなんて思ってもいなかった。



俺は知らない間に生唾を飲みこんでいて、横にいた綾に睨まれた。



「おもしろそうじゃん。服の用意は?」



「部屋にある私服に着替えます」



小恋がそう言うと、子鬼の1人が小恋に駆け寄って来た。



部屋番号を聞いている。



鬼たちはなにがなんでも俺たちを広間の外に出す気はないようだ。



しばらくすると先ほどの子鬼が小恋のバッグを持って戻って来た。



何が入っているのか、バッグはパンパンだ。



小恋が床にバッグを置き、中を探る。



ドライヤーやボディーソープが次々と出て来る。



この客船は着のみ着のままでも宿泊できるようになっているのに、小恋は自分専用の物をすべて持ってきていたようだ。



「あ、あのシャンプーすごくいいやつだよ」



小恋のバッグから出て来たシャンプーを見て綾が呟く。



女子って感じだ。



やがて小恋はバッグの中から白いワンピースを取り出した。



大きな花柄が入っていて、いかにも女の子っぽい服だ。



「ワンピなら、ズボンとかよりも早く着替えられそう」



綾が言う。



確かにそうなのだろう。



ズボンだと足を2本、別々の場所に突っ込まないといけないからな。



ワンピースやスカートなら、同じ大きな筒に両足を突っ込めばいいだけだ。



だけど、それだけの差でどれくらい時間が変わるのかはわからなかった。



小恋は自分のワンピースをしげしげと見つめた後、鬼を見た。



「行きます!」



小恋がそう宣言すると、どこから持って来たのか鬼が笛を口にくわえた。



運動会などで使われるような笛だ。



次の瞬間、ピーッ! と甲高い笛の音が響いていた。



それを合図に小恋が動く。



それは目にもとまらぬ早業だった。



こんなに近くにいるのに、なにがどうなっているのかわからない。



気が付けば小恋はワンピースを着ていたのだ。



広間の中は静まり返り、鬼たちはポカンと口を開けて小恋を見ている。

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