第11話

☆☆☆


子鬼たちが2人の体を骨まで食べつくした後、鬼が動いた。



「はい、じゃぁ次は個人戦だからな」



マイクを通して聞こえて来る声に背筋がゾクリと寒くなった。



まだなにかさせられるようだ。



俺は知らず知らずの間に彩の手を握りしめていた。



綾も、強く握り返して来る。



個人戦だろうと、この手は離しちゃいけない。



そう思うと、緊張で汗が出た。



「じゃぁ次のゲームのルールを説明する」



鬼がそう言った瞬間だった。



ジッと立っていたミヅキが突然走りだしたのだ。



周囲は子鬼に囲まれていて逃げ道なんてないのに、その子鬼たちを蹴散らしながら進もうとしている。



が、そんなことができるハズがなかった。



ミヅキは子鬼の1人に掴まり、悲鳴を上げる。



長い爪がミヅキの腕に食い込んでいるのがわかった。



「こいつ、逃げようとしやがった!」



「悪い奴だ!」



「こらしめてやれ!」



周囲の子鬼たちが一斉にざわめく。



鬼は何も言わず、その光景を見つめていた。



そして、ミヅキの腕を掴んでいた子鬼が背伸びをしてミヅキの頭を掴んだ。



ミヅキが目を見開き、声にならない悲鳴を上げる。



グイッと抱き寄せられるように子鬼に近づいたミヅキの耳に、子鬼が噛みついたのだ。



そのまま一気にミヅキの耳を引きちぎってしまった。



周囲は血にまみれ、ミヅキの絶叫が響き渡る。



うそだろ。



冗談だろ。



そんな、いとも簡単に人間の耳を食いちぎるなんて、できるわけがない。



だけど、これは現実だった。



俺の目の前でミヅキは耳を引きちぎられ、子鬼はそれをうまそうに食っているのだ。



なにも残っていない胃がせり上がって来るのを感じる。



「痛い! 痛い痛い痛い!!」



ミヅキが叫び、床をゴロゴロと転がってもだえる。



床はあっという間に血だらけになり、周囲の子鬼はやっぱり楽しそうに笑う。



「はやく、止血しないと!」



ハッと我に返ったように綾がそう言った。



「あ、あぁ。そうだな」



俺は頷き、ジャージの上を脱いだ。



のたうちまわっているミヅキに駆け寄り、それを耳に押し当てた。



出血だけでも止めてやらないと、死んでしまう。



ジャージがミヅキの血で染まって行く。



赤黒いシミが広がって行くにつれて、ミヅキの顔色は悪くなっていく。



「いやだ。いやだ、死にたくない。死にたくない」



ガクガクと震え、その目から涙があふれ出す。



「大丈夫だよミヅキ。止血すればきっと助かるから」



綾が懸命に声をかけているけれど、ミヅキの体の震えは止まらない。



「くそ! なかなか止まらないな」



ジャージはすでに真っ赤に染まり、それでも血は出続けている。



このままじゃ本当に危ないかもしれない。



「ねぇ、よかったら手当てしようか?」



そんな声が聞こえて来て視線をやると、そこには救急箱を持った子鬼が立っていた。



その姿にキョトンとする俺。



「え……?」



「ゲーム以外のでの死人を出さないために、一応は色々用意してあるんだよ」



そう言い、自慢げに救急箱を開けて見せる子鬼。



その中には強力な止血剤もあった。



子鬼は馴れた手つきで薬を塗る。



それは相当しみるもののようで、ミヅキが「ぎゃっ!」と短く悲鳴を上げてきつく目を閉じた。



だけど、見ている間に血は止まったのだ。



ホッとして胸をなで下ろす。



「さーて、次は個人戦だ」



血が止まったところを見計らい、鬼がそう言ったのだった。

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