第6話

この雰囲気に似つかわしくなく、賑やかな音楽が流れている。



俺たち9人は赤と青に別れた状態でその場に立ち尽くしていた。



子鬼たちが赤い玉と青い球の入った段ボール箱を運んできて、それぞれの陣地にそれらを撒いて行った。



「よーし、準備はできたなー」



見ると、鬼の手にはいつの間にかピストルが握られている。



まさか、本物じゃないよな?



背中に冷や汗が流れ、知らない間に拳を握りしめていた。



「じゃぁ、両者とも輪になって座れ!」



そう言われ、俺たちは互いに目を見交わせながら鬼の言うように輪を作った。



輪の中央には籠。



小学校の頃にやった運動会をそのまま船の上で再現したようだった。



「準備はいいか? よーい、どん!」



どん! と、ピストルが撃たれるのは同時だった。



パンッと、空砲の音が聞こえてくると、反射的に体が動いていた。



近くにあった玉を握りしめて籠に向かって投げ込む。



俺の隣に座っていた綾もすぐに玉入れを始めた。



「さぁ、始まりました大運動会! 一種目目は玉入れです! 赤勝て! 青勝て! 両方負けるな!!」



幼い子鬼の声がマイクに乗って聞こえて来る。



どうやらマイクの取り合いをしているようで、途中から「今度は僕の番だよ!」とか「違うよ、俺の方が先に待ってたんだぞ!」という言い争いが聞こえて来た。



俺は子鬼たちのアナウンスを聞きながら懸命に玉を籠へと入れて行く。



一体なにをさせられているんだと思わなくはない。



だけど、相手はなにせ鬼なのだ。



言う事を聞かなければどうなるかわかったものではない。



だから玉入れを一生懸命やる以外に方法はなかった。



「はい、終了!!」



パンッ! と、空砲の音が聞こえて来て俺たちは手を止めた。



たった5分だったというのに、全身汗だくだ。



普段勉強ばかりであまり体を動かしていないからだ。



「さーて。籠の中身を数えるぞ」



鬼がそう言うと、子鬼たちがこぞって手を上げた。



「僕がやりたい!」



「俺もやりたい!」



「あたしだってやりたい!」



鬼の足元でわいわいキャーキャーとはしゃぐ子鬼たち。



「それならお前ら、2人1組になって数えろ。1人は籠を支えて、1人が球を高くほおり投げるんだ。数はここにいる全員で数える。いいな?」



「はーい!!」



父親の言葉に元気よく頷く子鬼たち。



こうして見ているとなんだかほほえましい風景に見えて来る。



子鬼の2匹がピコピコと足音を立てながら近づいて来て、玉入れの棒をそろりと斜めにした。



「数えるぞ、いいかー?」



「いいよー」



父親の言葉に答える4匹の子鬼たち。



いや、さっき父親が『人』と数えてたな。



匹という数え方ではないのかもしれない。



って、そんな事どうでもいいか。



俺はブンブンと頭を振ってどうでもいい考えを打ち消した。



「いーち! にーい! さーん!」



数える度に赤い玉と青い玉が天井に届くほど高く投げられる。



さすが鬼の子供だ。



姿は小さいけれどその力は人間の大人を軽く追い越しているらしかった。



「じゅーいち! じゅーに! じゅーさん!」



そこまで言った時、青チームの玉がなくなった。



「じゅーご! じゅーろく!」



青チームは13個。



赤チームは16個。



俺たちの勝ちだ。



青チームにいる千春と視線がぶつかった。



千春は悔しそうな顔をしている。



案外本気で玉入れをしていたのかもしれない。



だけど千春は背が小さいから、ろくに入れられなかったのだろう。



「一回戦目は赤チームの勝ち! はい、おめでとう!!」



「おめでと~!!」



あちこちから拍手が聞こえて来て、なんだか少し照れくさい。



圧勝ならともかく、13対16っていうのも喜ぶには微妙な所だった。



「さぁ、籠を直して。2回戦目を始めるぞ!」



鬼に言われるままに籠を直し、投げられてあちこちに飛んだ玉を集めると、再び輪になって座った。



俺は座った状態で肩をぐるぐると回した。



少し使っただけで腕のだるさを感じる。



こんなんじゃダメだな。



そう思い、明日からの筋トレを決意した。

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