第4話
「今は9人いるけどな、これから順番に絞り込んでいくからな」
なにを言ってるんだ、この鬼は?
俺は綾を見た。
綾は不安そうな表情を浮かべて俺の手を握りしめている。
「あのー……これってサプライズ的なあれですか? 演出っていうの?」
瞬きを繰り返しながら言ったのは6組の松井千春(マツイ チハル)だった。
千春は小柄でショートカットの髪型のせいで、今でも中学生に間違われることがある。
鬼が千春を見おろしている。
「お前、何歳だ?」
「え、あたし? あたしは17だけど……。ってゆーか、残ってるみんな17だよね?」
千春が俺たちの方へ視線を向けてそう聞いて来た。
俺は頷き返す。
「17か……」
鬼はそう呟き、なぜだか少し寂しげな表情を浮かべた。
「あ、あの、年齢がなにか……?」
浩成がおずおずと質問する。
「うん、いや、娘と同じ年だ」
「へ!?」
俺は思わず声が裏返っていた。
鬼に同年代の娘がいるなんて思わなかった。
「丁度反抗期でな、なかなか大変なんだ」
そう言い、鬼は人間の父親のようにため息を吐き出した。
「お父ちゃん、お姉ちゃんの話しなんてどうでもいいよぉ!」
小さな鬼の1匹がそう言い、鬼の足にしがみ付く。
どうやらこの状況に飽きて来たようだ。
「ん? あぁ、そうだな。じゃあとりあえず移動するか」
鬼はそう言うと同時に船からジャンプした。
そこそのこ高さがあるはずなのに、ドシンッという大きな音と共にしっかりと着地した。
間近で見る鬼は身長2メートルほどあり、筋肉の分厚さに圧倒されて、俺は後ずさりをしてしまっていた。
後に続くように小さな鬼たちも次々と飛び降りて来る。
その数は両手では数えきれないくらいだ。
「おい、これが演出か?」
俺は千春にそっと訊ねた。
千春はブンブンと左右に首を振り、その顔を青ざめさせている。
鬼の面も、体も、作り物にしてはリアルすぎた。
走り回る子鬼たちも、被り物だとは思えない。
「よし、広間へ案内しろ」
鬼が金棒を振り上げてそう言うので、俺たちは混乱しながらも広間へと戻ることになったのだった。
2年1組
成瀬早人
内藤綾
2年3組
大塚ミヅキ
松本小恋
2年4組
守田文夫
2年5組
片岡浩成
三宅イブキ
長大星斗
2年6組
松井千春
船内に残っていたのはこの9人だけだった。
先生は愚か、乗組員たちの姿もない。
広間には俺たち9人と、鬼たちがぞろぞろと集まってきていた。
鬼は先ほど落ちて来たシャンデリアを片手で軽々と持ち上げると、邪魔にならない場所まで移動させた。
俺たちを広間の中央に立たせ、その周囲を子鬼たちが取り囲む。
生まれたてでおしゃぶりをくわえている鬼もいれば、赤ちゃん鬼をあやしている中学生くらいの鬼もいる。
こっちでは追いかけっこをする兄弟鬼がいて。
あっちはおままごとを始める姉妹鬼がいる。
これ、全部が家族なのか?
見ていると途方に暮れそうになってしまう。
途中まで数を数えてみたけれど、30人を超えたあたりで断念してしまった。
「これから何が始まるんだろう」
綾が俺の手を握りしめたまま、そう呟いた。
俺は首を左右に振る。
千春の言った通りただのサプライズならいいけれど……。
その可能性は、もうとっくの前に消え去っている。
鬼がシャンデリアを軽々と持ち上げてしまった時点で、こいつらが人間ではないことは確定してしまった。
呆然と立ち尽くしていると、子鬼の一匹がピコピコと跳ねるような足取りで近づいて来た。
その手には赤色と青色の布が持たれている。
間近で見ると、それがハチマキだということがわかった。
「ハチマキなんて懐かしいね。小学校の頃以来に見た」
綾がそう言い、差し出された赤いハチマキを手に取った。
「はぁ? マジでお前ら、高校だって体育祭あんじゃん」
そんな声が聞こえて来て顔を向けると、そこにはセーラー服姿の鬼が立っていた。
さっき大きな鬼が言っていた、17歳の娘鬼だろうか。
娘鬼は大きくて尖っている耳にピアスを開け、モジャモジャのはずの髪の毛はストレートにしている。
見ようによっては可愛いのかもしれない。
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