直感(貧弱)が告げる警告の先は謎のイケメン転校生!?

椎楽晶

直感(貧弱)が告げる警告の先は謎のイケメン転校生!?

第六感と言われる感覚がある。

視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚とは別の、それらに類しない感覚のことを言う。


実は、少女…ひなつには第六感がある。それは『直感』


時に予知予見かのように、先が見えているかのように行動し

時に透視能力のように全てを見抜くこともできる力

…の、はずだがひなつのそれは貧弱だった。


例えば、角を曲がって現れるのが男か女か?を判別しようとした事がある。

『男だ!!』と予想し、待つこと数分。角を曲がって来たのはネコだった。


人ですら無かった事実にガックリと肩を落とし、ため息まじりに横目でチラリとみたネコの後ろ姿。機嫌よくユラユラと揺れる尻尾の下には玉が2つ…。


「確かに『男』だけど!!つーか『雄』だけどー!!」


ちなみに、1つの事象に重ねて直感は働かない。

生き物か無機物(車やバイクなど)か、男か女か、年齢はいくつぐらいか。

どれか一つ。そこから重ねて細かく判別していくことはできない。


人によってはただの偶然でで済んでしまう程度の直感力は

食玩や欲しいトレーディングカードを購入するときくらいしか役に立った試しがない。それも、シークレットといった希少性の高いものではなく、2番手3番手くらいに珍しいもの当てられない。


じゃんけんですら、負けはしない、と言う貧弱さに、もしかしたらこの力がいつか覚醒して!!と言った憧れや夢想は小学生で卒業した。

厨二病も邪気眼も発病しなかったのは幸いだったかもしれない。




その日も、ひなつは貧弱な直感による『今日は当てられる(ただし何の教科かは不明)』の直感により、1時限目からずっと休み時間を予習に当てていた。

事情を知る小学校からの友人による、前回授業のノートをを使った予習が都度行われるなか…突然、呼吸すら苦しくなるような強い動悸がひなつを襲った。


小学校3年生の時、公園で遊んでいた帰り道。夕方の住宅街は人通りもない。

そんな人気ひとけのない道を弟と手を繋いで歩いていたとき、同じように心臓が痛いほどドキドキした事がある。

痛む胸を押さえながら、何となくで道を変えた結果…その日その道で発生したひき逃げ事件を回避していた。


おそらく、ひなつたちの後に、その道を通った被害者はがっしりした体格の運動部所属の高校生。

咄嗟に避けれたが、それでも当たった抱えていた通学バッグは無残な姿になってしまったらしい。接触があったにも関わらず、停止もせずに走り去った車は、ナンバーを覚えていた高校生の通報によりすぐに捕まった。


しかし、もしその被害にあったのが幼い自分達だったら?

ナンバーなんて覚えていられない、咄嗟に避けるなんてできない、人通りの少ない道で跳ね飛ばされて放置されていたら…。


翌日の晩ごはん中に聞いた、祖母がその日仕入れたご近所ニュースの内容に、恐ろしくなって泣き出してしまい食事どころではなくなってしまった。


普段、大して役にも立たない直感による九死に一生スペシャル…かもしれないこの出来事は、今も彼女の心に深く残っている。


その時以来、再び心臓が痛むほどの警告はされたことは無かった。


今日、今、この瞬間までは。


当てられ対策として教科書とノートを必死に睨んでいたひなつが、急に冷や汗にあえぐ姿を不審に思った友人が、何事か問いかけようとした瞬間に、無常にも授業開始のチャイムが鳴り響く。


チャイムと同時に教室に入って来たのは、授業の担当教師にしてひなつたちクラスの担任である初老の男性教師。


…それと、恐ろしいほどに白い肌をした金髪の生徒だった。


命にまつわる警告である心臓の痛みと鼓動は、飛び出さんばかりにひなつの体の中で暴れ狂っていた。


明星宵あけぼしよい、と名乗った季節外れな転校生。


家庭の事情による転校。


白磁の器のような真っ白な肌に、明るい金髪。吸い込まれそうな深い黒曜石の瞳は、光を反射して銀色の粒が散っているような虹彩をしている。


昼休みはこの謎のイケメン転校生を囲んで質問の嵐だった。

ひなつの友人も興味津々だったが、ひなつは痛む心臓を抑えるように胸に手を当て、騒がしい教室を飛び出した。


教室から遠く離れた運動場の隅に座り、ようやく動悸のおさまった胸をさするひなつに、彼女の第六感のことを知る友人が尋ねた。


ひなつは、心配させたくなくて曖昧に頷き、転校生に関わるとヤなことに巻き込まれるかもね、と軽く言うに止める。


できればこのまま帰りたいけれど、そうもいかず…昼休み終了のチャイムと同時に教室に戻らなければならない。


教室に1歩近づくだけで、心臓の鼓動は早くなり、自席につく頃には再び痛み出す。


『警告』により、直感は発動されてしまっている状況で、彼は何者なのかをさらに直感に問うことはできない。


その日は、チラチラと盗み見るように謎の転校生・明星宵を観察するしか無かった。



翌日も、その翌日も彼は登校してきた。

転校してきて、この学校に所属しているのだから当然なのだが…相変わらずに直感が『警告』を告げてくるので、ひなつは良い加減疲れて来てしまった。


当然だが、学校にいる時間中、痛みと苦しさを感じるほどに心臓が乱れるのは生活に支障しかなかった。

この状態では体育なんてまともに受けられないし、ただ座って話を聞いているだけでも体力は消耗され精神的にも肉体的にも疲労が溜まっていく。


だから、意を決してひなつは明星宵の後をつけることにした。


『警告』を発させる相手に、真正面からアナタ何者ですか?と問うほど、ひなつはバカではなかった。

しかし、ただの女子高生が探偵の真似事で尾行にチャレンジするくらいには、アホで考えなしではあった。


それに反して、謎の転校生・明星宵は、賢かった。


まんまと誘い出された町外れの工場跡地で、意図せず2人きりとなってしまい

その人間離れした美しさをのせたかんばせで詰問されれば

もとより、恐怖と不信感があったひなつはへたり込みながら大泣きして命乞いをするしかない。『警告』による動悸は、逆にいつ止まってもおかしくないほど痛みと暴走を続けている。


顔面を涙と鼻水とよだれでぐちゃぐちゃの…およそ人には見せられない顔で泣き叫ぶ少女を相手に、明星宵は眉ひとつ動かさずに冷静に冷徹に重ねて問う。


「何を持って『殺さないで』という発言になっているのですか」


しかし、ひなつは胸を押さえながら命乞いしかしない。


諦めた明星宵は、瞑目しながらため息を1つ吐き、そしてその目を開いた時、白目がなく…瞼のしたからでた眼球全てが真っ黒になっていた。


それを目にして、命乞いの言葉も呼吸も全てのみこみ、一目散に逃げようと後ずさるひなつの腕を掴み、明星宵は目線を合わせるように顔を覗き込んでくる。


間近でみる白磁の肌に、うっすらと鱗状の線が見て取れる。

掴まれだ腕の素肌が感じるはずの相手の体温はない。恐ろしいほどに冷たく、無機質だ。

白目もなく真っ黒な眼球の中に散る銀色の粒は、丸く軌道を描き回転しているように見える。


「宇宙みたい」


ポツリと呟かれたその言葉を最後に、工場あとに響いていた声も音も何もしなくなる。


意識を失い支えを失ったひなつの体は、掴まれた腕1本で地べたに倒れるのを免れていたが、彼がその腕を離したことでベッタリと倒れ伏すことになった。


外から聞こえるはずの風の音も葉ずれの音も、呼吸音すらしない。

誰もいないような静寂に包まれている。


明星宵がキツく目を閉じ、そして開いた時には平素の吸い込まれそうなほど深い黒曜石の…ちゃんと白目もある通常の『瞳』に戻っていた。


静寂の中、力なく寝転ぶひなつの体を抱え、

明星宵は工場跡を出て、さらに街から遠ざかり歩いていく。


砂利を踏む足音すらも一つしないまま…。




その後、ひなつは行方不明となり…発見されたのは1週間後の隣県の病院だった。


自身に関する記憶の全てがなく、どこの誰とも不明だった彼女は

医師に案内された両親を見てやっと、少しずつ自身を取り戻していった。


退院後は、何かきっかけがあれば思い出すかもしれないから、とそれまでの生活に戻り、友人などの協力もあり学校にも戻れるぐらいの回復を果たした。





ひなつの『直感』は相変わらずに貧弱で、晩ごはんの内容も角を曲がってくるモノの性別もわからない。


しかし、行方不明となり、記憶を失う事件に巻き込まれる直前に転校して来た

白磁の肌に金色の髪をした美貌の転校生に向けては…しっかりと、早くなる鼓動で持って『警告』を発している。


ひなつはそれに気がつけない。

『警告』を発し、早くなる鼓動に違和感を覚えられない。


明星宵に関して感じる違和…それが普通の状態であるように、とあの日彼によって塗り替えられてしまったから。


ひなつがその直感による『警告』に気がつくことは、2度とない。


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