5ぷるんズズー


「こんにちは! わたし、花森はなもりまゆゆです」


 三次元の女だった。三次元の女が、小生のすぐ横に立っている。

 まゆゆと名乗った女は、膝丈の真っ白なワンピースを身に纏っていた。長い黒髪が背中になびき、ぱっちりした目と艶々の唇が、小さな輪郭の中に奇跡のバランスで収まっている。

 髪も顔もさほど弄っている様子はないのに、完璧に整っていた。隈取り妖怪女や我が妹とは雲泥の差である。


 この女は……いや、彼女は、魑魅魍魎の跋扈する荒野に燦然と舞い降りた天使だろうか。

 それとも、女ネ申だろうか(縦書きで読んでいる諸兄ry)。

 とにかく美しい。そして、いい匂いがする。その立ち姿は純粋で穢れなく、ピュアそのものだ。いい匂いがする。ああ……いい匂いがする。


「あなた、お名前は?」

「中村と申すが……」

 初対面だが、小生はあっさりと真名まなを教えてしまった。

 するとまゆゆはとびきり嬉しそうに微笑み、小生のシャツの袖を引っ張る。

「素敵な白いシャツを着てるのね。とても似合うわ。だからわたし、思わず中村君に声を掛けちゃった!」

「は……この白シャツが……?」

「ええ。白いシャツっていいわよね。わたし、白い服を着てる人を見ると、心が騒いじゃうの」


 思わぬところを褒められ、小生は何と返したら分からなかった。ぐふぅ……自分のコミュ症加減が恨めしい。

 とそこへ、細野氏と太田氏が合流してきた。

「ねぇ中村氏ー。この人は誰? 知り合い?」

 細野氏に聞かれて、小生は首を横に振る。

 その傍らで、太田氏が「んほぉ~、三次元の女だぁ」と言いながら、まゆゆのことを上から下まで舐めるように眺めた。

 おい、やめろデブ。ピュアな天使を、そんな腐った目で見るな!


「ねぇ……中村君」

 まゆゆは細野氏と太田氏には目もくれず、小生だけを見つめていた。どこか熱っぽい、潤んだ瞳で。

「中村君、わたしね、実はとあるサークルに入ってるの。中村君も入会しない?」

「サークル? いや、小生は……」

 忌まわしい『サークル』という単語が出て、小生は咄嗟に一歩身を引いた。しかし、天使の傍から離れがたく、そこで足が止まる。


 まゆゆはすかさず、畳み掛けてきた。

「中村君をひと目見て、入会してほしいって思ったの。中村君ほどうちのサークルに相応ふさわしい人はいないわ!」

「でも……小生は新入生ではなく、二年生で……」

「学年なんて関係ない。中村君なら大歓迎よ。入会して、楽しいことしましょう。……わたしと一緒に!」

「――入会します!」

 コンマ一秒で、小生は即答した。

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