4ズズズ ズズー
「なぁ、細野氏に中村氏。俺、腹減った。学食行こうよ」
絆が深まったところで、太田氏がそう提案してきた。
ちょうど今は昼時。小生も空腹である。細野氏も「いいよー」と言ったので、三人の戦士たちは腹ごしらえに向かうことにした。
魑魅魍魎の間を縫うように進みながら、学食のある建物に向かう。
途中で太田氏が太い腹で誰かを弾き飛ばし、細野氏は逆に誰かに弾かれてよろけたりした。
どこを歩いても破廉恥な格好の連中ばかり。しかも、あちこちでやかましい声が飛び交っている。
「夏はテニス、冬はスキーのサークルどうですかー」
「映画サークルでーす。観る方専門でもいいよー」
ふん。下らない。小生は喧騒から逃れるように足を早める。
すると、後ろから細野氏が追いついてきた。
「ねぇ、中村氏ー。今日の中村氏の服装、何だかちょっと違うね」
その一言で、足が止まってしまった。
そうだ。今日の小生は……『戦士の服』を着ていない。
今朝起きてみると、箪笥にしまってあったはずの緑ベースのチェックシャツが一枚もなかった。
チェックのシャツは戦士の証。毎日切らさぬよう、同じものを五枚は所持していた。にもかかわらず、母上がすべて洗濯してしまったらしい。
昨日まで雨が降り続き、まとめて洗ったせいだ。小生は母上に抗議したが、脱水を終えたばかりの五枚の戦士服は、乾く気配がなかった。
仕方なく、高校生のときに着ていた白のカッターシャツを羽織って登校したのである。
鎧を纏えないとは……迂闊だった。戦士失格だ。
細野氏に指摘されて、小生は改めて己の失敗を悔いた。自然と、顔が俯きがちになってくる。
「二人とも何で立ち止まってるの? 学食行こうよ。俺、腹減ってタヒにそうなんだけど」
……太田氏に代わって謝っておく。縦書きで読んでる諸兄、重ね重ね申し訳ない。
小生は仕方なく、再び歩き始めた。
ああ、鎧ひとつで、戦士はこんなにも心細くなるのか。初めて知った。
チェックシャツは小生のアイデンティティーなのであります……。今日はもう、何もやる気が出ない。
「ねぇ、そこのあなた!」
そのとき、小生の耳に、小鳥が囀るような美声が届いた。
俯きがちだった視線をそのまま横にスライドさせると、目に飛び込んできたのは、白くて儚くて、すらりと細い足……。
このか細さ。そして、うっすらと漂ってくるいい匂い。こ、これは……!
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