第12話 感電
有美と会うようになって1年が経つ12月
その間、会った回数は、たったの9回。
そして、10回目の今夜は12月21日(金)
二人は、いつもの居酒屋で飲みながら会話をし、酔い覚ましに川辺へ来ていた。
もう12月だね?1年って早いね
そうだね。てか、ここ寒いよ。アタシの家、来る?もう、大丈夫でしょ?
うん。分かった。じゃ、ちゃんと話すよ。
うん。じゃ、行こう。
辺りには静寂が漂い、川の流れる音だけが二人を包んでいた。
話す度に白い息がタバコの煙りのように口から出る。
宙はその煙りが、全てを空に運んでいってくれるような感じがして決心をした。
そして、その日、初めて妻の明美には朝に帰ると連絡をした。はじめて嘘をついたのだ。
有美の家は薬局の奥にあり、木造2階建ての一軒家だった。
右側にガレージがあり、左の玄関扉が正面。
有美の部屋は正面の玄関からは入らず、ガレージ側にある裏口扉から入り、2階に上がった。
静かにね。
有美が人差し指を鼻に当て片目を瞑った。
宙は静かに首を縦にふり、有美の後ろを黙って付いていった。
色々な感情が目まぐるしく廻り、変な心音が自分にだけ聞こえていた。
有美の部屋は、シンプルで片付いた、まるで自殺をする人が片付けたようなガランとした部屋だった。
クローゼット、化粧台、テレビ、ベッドと必要な物だけがあり、その中心は何も無かった。
良い部屋だね。落ち着くよ。
何も無いだけよ。
そう話しながら上着を脱ぎ、パジャマに着替えようとしていた。
わっ!向こうを向いておくよ。
見て良いよ♡
宙は有美のいる方と反対を向き携帯電話の画面に集中をした。
そして、有美がベッドに座ると手で布団を叩いた。
もう、良いよ。横、座って。
う、うん。
それで、仁科君がアタシに触れたり出来ない理由は何なの?
教えてくれる。って約束したじゃん?
仁科は昔の記憶をため息混じりで少しづつゆっくり、話していった。
そっか。やっぱり、アタシ達、似てるよ♡
アタシにも似た経験があるよ。
有美も虐待をされた記憶や大人の情事を見てしまった経験を話した。
まっ、アタシのは物心がついて理解していた時の話しだから、良いんだけどね。
ね、やっぱり復讐、する?
いや、俺はそうゆうのは求めていないかな。ただ、自分に負けたくない。ってゆうのかな?ただ、そうゆうのなんだよ。
いつも、雷りに怯えてる自分がダサく思うんだ。
同僚や友人はさ、女を物みたいに捉えてる人もいる。
でもさ、男の普通って、そんなもんなのかな?っても思ったりして。
ふーん。じゃ、どうやって子供は作ったのよ?
目隠しをして?手足を縛ったかな?
アハハハッ笑
ごめん!ちょっと想像しちゃった笑
良いよ。自分でも笑えるから笑
アタシは、こう考えたの。世の中が豊かで、法律も少なくて、あの頃は、そうゆう時代だったんだ。って。ただの時代だって。
参考になる?
うん。少しは気が楽かも。
はい、じゃ手を握ってみて。ゆっくりで良いから。アタシは奥さんのようにはしないから大丈夫だよ。
有美のプルンとした細い唇から白い息が漏れて有美は絵の中の女神のように見えた。
それからはリハビリみたいに宙はゆっくり有美の手に触れていった。
何度も震えながら、ゆっくり、ゆっくりと。
どこか寂しさの残る有美の横顔と優しい白い息に宙はドキドキした。
それと同時に触れる怖さがあり、宙の頭の中は真っ白な雲に包まれた。
雲の中は雷鳴のあとの残響のような心になり、二人は少しづつ感電していく。
プラスとマイナスが擦れ合うように。
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