第10話 渦雷

 その後は月に1度、有美のいる居酒屋へ行くようになった宙は、いつの間にか常連扱いになり、店主と店員に顔を覚えられ、名前まで覚えられるようになった。


そうして、店の人や常連客からは有美の彼氏扱いをされるようになっていった。


そんな有美と会う事になる6月の雨の日の事。

これまでは宙は友人感覚で有美とは会って来たのだが、有美の事を知る度に段々と、その想いは募り始めてきた。


それと同時に妻や子供に対する罪悪感も少しづつ膨らんでいっていた。


雷雲が、少しづつ塊りを作り、大きな積乱雲を作っていくように。ゆっくりと大きくなり動いていた。


そんな時、有美は宙を家の中へと招待してきた。


いつもさ、飲んで食べてじゃん?


うん。俺、あの店、好きだし。


で、たまにはアタシの家で、どうかなー?って。


えっ?でも、嫌いなお母さんが居るんじゃないの?


うん。いたほうが良いのかも?


何で?


復讐?みたいな?笑


復讐?


有美の話しでは、昔から有美の母親の元には3人のガラの悪い男が日を変えて会いに来ていた。とゆう。


その度に有美は外へと遊びにやられていた。

当時の有美には、仕事の話しがあるから。と話していた為、有美もそう思っていた。ようだ。


有美の父親が事故死をしてから、母はお店を継ぎ、大変な努力をして、ここまで来たのだと聞いた。


仁科君はさ、アタシの事、嫌い?


い、いや嫌いではないけど。


じゃ、何でいつも、よそよそしいのよ?


それは、だって別に男女の付き合いは、していないわけだし?


そっかー!じゃー、今からしよ!


何を?


男女の付き合いだよー!


いや、それは、ちょっと。


有美は宙の腕に腕を絡ませてきた!


う、うわー!

宙は、思わず手を振り払ってしまった。


ご、ごめん。実は俺、女性に触れないつーか。その。本当にごめん。

日高さんを嫌い。とかじゃないんだ。


それよ!その辺をさ、そろそろ教えてよ!

それから、アタシの事は有美ちゃんで良いの!

分かった?


は、い?


うーん。まぁ、今はその辺でよろしい!

とにかく、来なさい!


いや、それはマズいよ。


じゃ、今後は会うのを辞める?


まぁ、友人としてなら今は大丈夫だから。辞めるとか辞めない。とかは無いかな?


そっか!

でも、ウチの母親、気になるんでしょ?事情は良く知らないけど。


うん。じゃ、今日じゃなくて来月までに答えを出す。でどう?


分かった。じゃ、手、繋ごう。


宙は震えながら、そーっと有美の指に触れた。


アハハハッ!本当、仁科君みたいな男ってレアだよー笑

普通さ、女が誘ったら、すぐ食いつくもん!


だ、だよね?アハハハッ!


つーか、本当に話してよ。友人でもさ、そうゆうのって知りたいじゃん。しらふだと、手も繋げないとかヤバいよ!


うん。話しはしても良いんだけど、自分が辛くなるんだよ。だから、


でしょ?だから家で。って言ったのよ。


そっか!と、とりあえず、考えさせて。


分かった。じゃ、また次回ね。


宙は、帰宅中、ずっと考えていた。考えていると、低気圧に押されるような感覚になる。


これ以上、先に行って良いのか?

トラウマを中心に家で待つ家族の事、有美の事、自分の過去の事。色々な想いと感情が渦を巻いていった。


低気圧の塊が少しづつ大きくなり、積乱雲の中で、雷が争うように。









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