カサンドラ②

「キャズは高校卒業したら何したいの?」


 カサンドラの姉ジェシーは、微かに残るスペイン語訛りの英語でそう聞いた。カサンドラと五つ離れた彼女はカサンドラをいつもキャズと呼ぶ。

 カサンドラの家族が、カリブ海に浮かぶアメリカ領のプエルトリコを離れ、寒々としたニューイングランドに来たのはカサンドラがまだ五つの時だ。カサンドラの家族がこの町を選んだのは、プエルトリコ系移民が多く、言葉にも不自由しないと聞いたからだ。

 確かにラテン系の意味の多い街ではあったが、ここ十年はメキシコ、グアテマラ、エルサルバドルなどの中米からの移民が主で、プエルトリコ系は肩身の狭い思いをしていた。

 一言にスペイン語と言っても、単語一つの呼び方でどの国出身か分かるほどに変化している。グアテマラやホンジュラスなど、中米から不法にアメリカに入国する際に一番気をつけなければいけないのは、メキシコを通る際にグアテマラ人だとバレないように発音や言い回しにに気をつけなければならない。

 二十年前まではこの町にも多くのプエルトリコ系が住んでいたが、今は中米系、特にエルサルバドル形に取って代わられていある。


 ジェシーはキャズにとって、母親のような存在だった。朝五時から清掃の仕事をして、そのあとすぐにボストンのレストランで夜の11時まで母親に代わって、身の回りの面倒を見てくれたのはジェシーだった。


「まだわからない。ジェシーは何したいの?」

「あたし?あたしは頭も悪いし高校も辞めちゃったから。いつかネイルの仕事したいなと思ってるよ」

「えー、そんなのチナのやる仕事じゃん」


 チナはチノの女性形だ。確かに多くのネイルサロンはベトナム系を中心としたアジア人であることが多い。


「別に人種は関係ないよ。ネイル綺麗にするのあんたも好きじゃん」


ジェシーはそう言ってキャズの手を取った。


「またはげてきちゃってるね。明日帰ってきたらまたやってあげるね」


二週間前ジェシーはキャズの薬指の爪をパッションオレンジ、他の爪は水色に染めてくれた。キャズは、これを見る度に一昨年家族で行ったプエルトリコの海と熱い太陽を思い出した。


 次の日にキャズがに会ったのは病院に横たわる冷たくなったジェシーだった。

 

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ミルタウンの生徒たち 樋渡香織 @estee53

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