第38話 旅の記録5
俺はボロボロな本をゆっくりと開く。中はそれほど傷んでいるわけではないが雑に扱おうもんなら破れても不思議ではないくらい古いからだ。
魔の森の記述の前に書いた人がどういう人でどういう経緯で魔の森に入ったのかといったことが書いてあった。要約すればできないことは何もない人生だったから自分の限界を知るために森へ入ったというなんとも脳筋だった。だが、その本に書いてある内容の正しさ、分析力は目を見張るものがある、この本を書いたものがいかに非凡であったかを示していた。
そして魔の森に実際に入ってみて戦った魔物、生えている植物、森の中の地形がどうなっているかについて細かく記載されていた。
「この本書いたやつバケモノだな。一人で魔の森の調査をやるなんて発想がいかれてるし実際に生きて帰ってこの本に遺しているんだからな。だけどこの人にもできなかったことはあるみたいだな」
魔の森の地形を見ていた俺だが、奥の方の記述がないことに気付く。そのページには何も書いていなかったが、本の最後のぺージに小さく書かれていることに気付く。
『これ以上はいけなかった。私にもできないことがあるってことが分かったのでそれはそれで嬉しい。だが、できないことがあるって言うのは何とももどかしいものだな。これを見ている人には私の見れなかった光景を書いて欲しい。そしてその本を完成させてほしい』
そもそも魔の森に入る時点で正気じゃないのに加えてその上で探索して一番奥まで目指すなんて冗談でも厳しい。でもなんとなく俺達ならいけるかもしれない。そう思わずにはいられないのだった。
(うーん、あくまで"俺達"なんだよな。俺一人じゃ多分無理だ。サラとの旅も今日までで明日以降はどうなるかわからない。マリーは王女としての役目もありそうだし誰か一緒に行ってくれそうな人探すしかないのかなぁ・・・)
このことを言うべきなのだろうか?サラはこの本を俺のために買ってくれたから理解はしてくれそうだけど実際に来てくれるかは別である。魔の森へと入って魔物達を倒したこともあるが、積極的に入って奥まで行きたいかと言われればそれは別だろう。明らかに危険すぎる場所だ。この前の魔族も危険な存在だったが魔の森ではそんな存在を複数相手にしなければいけないことだってありうる。
この件についてはひとまず置いておき、続きを読んでいく。魔石についても書かれてはいたが魔術式を込めれることには気づかなかったのか、書かない方がいいと思ったのか一切記述がなかった。まぁ、マリーも無茶な状況を何とかしようとしなければあんな使い方思いつかなかっただろうからな。
そして、あるページに目が留まる。その男が拠点にしてたという場所だ。その場所は結構奥深い場所で俺達が足を踏み入れた場所よりもう少し奥だった。その場に何か残したものがあるらしいことが書いてあった。もしかしたらお宝かもしれないし、そこにたどり着いたものだけに与えられるとっておきの情報みたいなものかもしれない。
(そこまでいけるかどうか試されてるのかもな、益々行きたくなってしまったんだが・・・困ったな)
この本は俺を惑わせる。普通の人にはなんでもない本だが、この世界で唯一俺だけに効く特攻だ。そして俺は中途半端にこの欲を解消させるだけの力を持っているのだから質が悪い。
今回の件が終わった俺にはまだ見ぬこの世界を見たいっていう思いはあるが、一人では味気ない。どの道、明日の俺にかかかっている。
「この旅が終わった後のことなんて考えてなかったなぁ。時間に追われるばっかりだったから余計に・・・」
独り言のつもりではあったが、聞こえてしまったらしい。サラがゆっくりと近づいて来る。
「ふーん、そんなこと思ってたんだ。まぁ仕方ない・・・のかな?あんた急に1人になって大丈夫なの?ってのは正直あるけど貴方自身の問題でもあるからね。明日までゆっくり考えてなさい」
そうだ、結局は自分がどうしたいのか、それが一番大事なことだ。ただ今まではなし崩し的に物事が進んでいたというか進まざるを得なかった。けれどもその状況は終わってしまった。それだけだ。
「そうだな、明日までに答えが出るかはわからないが俺なりに考えてみるよ」
そう言ったは良いものの、やっぱり考えはまとまらない。俺がこうしたいってのはなんとなくあるが、俺だけの問題ではないからだ。今できることと言えば断られた時どうするか、代替案を考えることくらいだ。
だが、この代替案がめんどくさい。この世界に来て2か月くらいは経ったがまだ自信をもってやっていけるという自信はない。まぁ王様に頼めば誰かしら手配はしてくれそうだけど・・・。
色々考えてはいたが結局考えはまとまることはなく、気づけばもう朝だった。
「まぁなるようになるか」
サラを起こして準備を終えた俺は魔石を叩いて王女の収納魔法を発動させる。長いようで短かった1か月の旅は一先ず終わり。とにかくこの1か月は楽しかった。名残惜しさもあるが王女との再会も楽しみだ。そして異空間へと2人で入っていった。
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