第37話 旅の記録4

本戦2回戦以降も俺は順調に勝ち進んでいった。段々と俺の防御力が異常なことがばれてきている。というのも攻撃を受けきれずに生身で受ける場面があるからだ。受ける分には問題ないのだが俺の異常性が広まるのは勘弁だ。


そして無事に決勝まで駒を進めることができた。対戦相手はユージだった。なんだかこうなりそうな気はしてたから正直驚かなかった。


「ただものではないってのはわかっていたのだけどまさかここまで残るとはな。手を抜いたりしたら許さねぇぞ」


「おう、当たり前だ。お前の方こそ負けたときに言い訳すんじゃねぇぞ」


最早お馴染みの試合前のやり取りをする。毎回ぶっきらぼうなやり取りだがこれも最後だと思うと感慨深い。


「両者、構え。はじめ」


この大会は自分が試合をしていない時に他の試合を見ることはできない。そのため、事前に情報を入れてでもない限りお互いに手の内が分からないため、地力が試される展開となることが多い。


さて、試合の方へと移ろう。この大会のルールもあって試合開始後すぐに動く者はあまりいない。まずはお互いの手の内を探るようにじりじりと間合いを詰めていくことが多い。今回もそのように展開していった。


決勝に来るまで、この間合いの詰め合いをした時、先に動くのは毎回相手の方だった。だが、ユージはもう俺が目の前というところまで近づいてきても一向に動く気配がない。俺を誘っているのだろうか。


不気味に感じながらも俺はユージめがけて剣を突き出す。この距離では躱すのも難しいはずだ。ユージに刃が届いたと思ったがその瞬間俺の剣は手から離れ、宙へと舞っていった。


何が起こったかすぐに理解する。剣が巻き上げられたのだ。そして俺の剣はコート外へと落ちていった。


会場がどよめく、あっという間に勝負が決してしまったからだ。そしてユージコールが鳴り響く。おいおい、まだ決まったわけじゃないんだけどな。


「さて、続けるかい?見た感じもう武器は持ってなさそうだけど」


「・・・いや、これくらいのハンデがあった方がいい。俺はまだ諦めないぜ」


戦闘の意思があることを示した俺に会場全体が驚いていた。


「そうか、じゃあ怪我しても知らないよ」


そう言うと先程とは打って変わって俺めがけて次々に攻撃を仕掛ける。俺はその攻撃を時に受け流し、時に受け止める。ユージの使っている刀はとてもキレ味がよさそうなものだったが俺にその刃が届くことはない。


生身の俺が剣で切られ続けているのに平気に立っていることはとても異様な光景に見えたのだろう。会場が不思議な雰囲気に包まれる。審判も今目の前で起きていることが信じられないといった感じだ。


そして、ユージの振り下ろす剣に対して俺は渾身の一撃でもって対応する。衝突の衝撃はすさまじく、火花が散った。そして両者が弾かれる。


「痛えええ。腕で受けるのとは全然違う。威力はあるがこんなことするべきじゃなかったな」


剣にぶつけた拳が痛い。体重がのった一撃を一点で受けているのだ。普通の物なら切れて終わりだが俺の身体は違う。そのため、ものすごい圧力が一点にかかり続け、激しい痛みに襲われた。


こんなの何発もは耐えれない。そう弱気な感情が出てきたがユージの方を見ると降参を宣言していた。なぜかと思ったがよく見ると彼の持っている剣の先が途中から無くなっている。どうやら先の一撃で折れてしまったらしい。


ユージは困ったような表情をしていたがこちらへ向かって来る。


「いやー、参った。剣の腕では負けてなかったんだけど総合力では完敗だね。優勝おめでとう。次やるときは負けないから覚えておけよ」


「おう、俺も拳じゃなく剣でもお前に勝てるようになってるからな」


お互いを称え合い、表彰される。優勝者への洗礼か、色々な人から質問されて疲れた。正直、あの防御力はなんですか?どうやって手に入れたのですか?っていう質問が多かったけどどう答えていいかわからないから困った。この世界で手に入れようと思っても多分無理なんじゃないか?


やっと解放された俺はサラと合流し、宿へと向かっていったが途中魔力強化石を売ってくれと言われたり、隙あらば盗もうとする輩が多くて本当に困った。そういう連中には全てNOを突きつけ、宿へと入っていった。


「私達が魔力強化石を持っているって情報が広まった以上、しばらくの間変な輩に付きまとわれる可能性があるからね。今すぐにでも使ってしまいましょう」


「それにしてもユウタ・・・剣を飛ばされた時の間抜けそうな顔、一瞬だったけど見逃さなかったわよ。あれは傑作だったってマリー様への土産話ができたわね」


「うぅ、仕方ないだろ」


「それからのユウタも面白かったわ。素手で剣を持った相手に立ち向かっていってるんだもの。それも大勢の前でね。観客達は拳や腕に何か仕込んでるんじゃないかって思ってた人もいたようだけど近くにいる人達にはどう映ってたんでしょうね」


「さぁな、少なくともユージは気づいてたようだけど・・・まぁそのうち忘れられるでしょう」


「そんなに上手くいくといいけど・・・とにかく、今回の大会であんたは有名になっちゃったからこの国でゆっくり観光ってわけにはいかなくなったわね。約束の日は明日だけどそれまで宿から出ずにゴロゴロしましょうか。そして魔力強化石もさっさと使ってしまいましょう」


使い方はこの石を飲み込めばいいらしい。確かに飴くらいの大きさだが石を飲み込むってのは抵抗がある。


「なんだか抵抗があるようね。まぁ私もそんなの食べるのはごめんだわ」


しかし、口に入れないことには始まらない。俺は覚悟して飲み込む。身体の中に入った石からじわじわと魔力が供給されていることが分かる。


「魔石に入れた魔力と違ってこの石に入っている魔力は身体に定着するものらしいわ。慣れない感覚かもしれないけど今日中には終わるでしょうね」


そうして最後の1日をだらだらと過ごしていたがやっぱり暇すぎる。ふと、1冊の本の存在を思い出す。サラが俺のために買ってくれた魔の森に関する文献だ。せっかく時間があるんだ。これを読むとしよう。

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