第36話 旅の記録3

「おう、ちゃんと来れたようだな。朝早いからたまーに寝過ごす奴とかもいるんだがお前は違うようだな。安心したぜ」


「まぁな、今日はお互いベストを尽くそうぜ」


お互いの健闘を祈り、会場へと入っていく。


・・・しかし、お眠さんはいる。宿で起こしてもどうせ予選は見どころ無いと言って出てこなかった。まぁ昼までには来るだろう。


受付で自分の番号が書かれたゼッケンのようなものを貰う。試合中はつけなくてもいいがそれ以外の時は進行をスムーズにするため着なくてはいけないと説明を受ける。


外で大きな歓声が上がる。おそらく開会式が始まったのだろう。そして番号ごとに呼ばれ始める。どうやら最初は20人ごとに呼ばれているようだ。


(俺の番号は387だから結構先だな。暇だしちょっと横になるか)


横になって体を休める。周りを見ると自分の番が遠いのに既に緊張でガチガチになっている人もいる。そんなんじゃ自分の番になるまでに疲れちまうぞ。


何度か招集がかかるうちに大体10分毎がかかっていることに気付く。この調子だとあと2時間といった感じだ。


そして、段々と俺の番が近づいて来る。流石に次呼ばれるってときは少し緊張した。そして俺の番号が呼ばれ、俺と一緒に呼ばれた男たちが進んでいく。男20人が一団となって進んでいくのはなんだかむさ苦しいな。


コロシアムの中へと入っていった俺はあまりの熱気に驚いた。歓声自体は控室からも聞こえていたが、ここまでとは予想していなかった。


俺以外にも歓声に圧倒されている奴もいたが、そんな俺達をよそに試合のルールが説明される。今回はバトルロイヤル形式で最後に残っていた人が勝ち残りだ。実にシンプルである。


それではコート内に入ってください。時間無制限、敗北条件は降参又はコートアウト、その他審判が戦闘不能と判断したときのみ・・・始め。


試合開始の合図と同時に数人が動く。まずは弱そうな奴を狙って不確定要素を減らそうという狙いのようだ。


(俺の所には来ないか、まぁ狙われている奴明らかに弱そうだし)


狙われていた男はあっという間に退場する。これで残りは15人だ。


ここからはある程度実力がある(と思われる)者達だ。そして各々、近くの者同士で争い合っている。もちろん一時的にペアとなっている者達もいて混戦模様だ。俺は近づいて来る男たちを1人1人あしらっていく。防御力には自信のある俺だが攻撃力は低い方ではないものの、ずば抜けて高いわけではない。そのため、全員からマークされるようなことはなく、地味に残り続けている人くらいの印象だったのだろう。


だが、残り5人になった辺りで流石に何かがおかしいと参加している者達は気づき始める。この混戦の中一人だけ無傷の者がいるからだ。


「おい、あの男、俺達はもうへとへとってのにピンピンしてやがる。このまま戦ってたらあいつが勝ち残ってしまう。そうなる前に残っている全員であいつを退場させよう」


1人の男の提案に残り3人も乗ったようだ。そして1対4の戦いとなった。俺に向かって一斉に攻撃が来るが通ってきた修羅場の数が違う。さっきまでの戦闘で疲れている男たちを次々に倒していき、ついに最後の一人を倒す。残っていたんだから少しは期待したんだけどなんだか物足りないな。


「勝者、番号387、ユウタ選手」


予選を無事突破した俺は控室へと戻った。大勢いて賑やかだった控室は一気に静かになる。まぁ当然か。


そして間もなく本戦が始まった。どうやら俺の組は最後の方だったようだ。気づけなかったのは緊張してたからってことなのかな?

本戦からは1対1の戦いだ。大会はここからさらに盛り上がっていくことになる。この予選を通過できたってだけで実力が保証されているようなものだからだ。


そして今度は抽選で決めたのだろうか、番号順ではなく呼ばれていく。いつ呼ばれるかわからないってのはそれはそれで緊張するな。


5組目の組み合わせ発表時に俺の番号が呼ばれた。そして俺ともう一人が試合会場に案内される。


予選の時ですら驚かされたが、今回はその比じゃない歓声でまた驚かされる。みんな元気過ぎるよ・・・。


観客席を見渡していると、サラらしき人と目が合う、試しに手を振ってみると返してくれた。寝過ごさず来てくれたんだな。


「おう、彼女か?余裕だな。お前がどれくらいできるやつか知らないけど俺に当たったのが運の尽きだったな。今年の優勝は俺が頂く。お前には踏み台になってもらうから覚悟しな」


「お互いにベストを尽くしましょう。でも負ける気は無いからな」


対戦相手との軽い挨拶を交わす。この会話でおそらく彼は昨年は優勝を逃したのだろうってことが予想できる。えらく強がってたけど何か秘策でもあるのかな?


「試合のルールは予選の時と同じです。それでは両者構え、始め!」


審判も予選の時より気合が入っているのだろうか、力強い声が響き渡る。


すぐには大きな動きはないと俺は予想していたが、試合開始の合図と同時に距離を詰めに来る。俺は身構えようとしたが予想より攻撃が遅い。比較対象がギュンターさんだからまぁ仕方ないか。


攻撃を受け止めた俺はすぐさま反撃しようとするが、次の一撃が飛んでくる。最初の一撃からの間がやけに短いな。


「ち、受けられちまったか。だがまだまだいくぜ」


次々と攻撃が四方八方から来る。相手の速さはそうでもないように見えるのに何かがおかしい。


(もしかして・・・幻覚魔法のようなものか?)


そう思った俺は全ての攻撃を受けに行くことをやめ、急所を狙っていない攻撃をあえて攻撃を受けにいってみた。普通の人ならこれでも戦闘不能レベルのダメージを受けるが俺なら問題ない。


「ばかめ、諦めたのか?」


相手が俺の腕めがけて振り下ろした一撃は弾かれる。これは予想できなかったことなので相手の幻術が歪む。そしてそこには困惑する相手がいた。


「腕に何か仕込んでやがるな。やってくれる。だが次はこうはいかねぇ」


再び接近してくるが今ので対処法はわかった。相手はこちらの動きを誘導して自分に都合のいい光景を見せ続けることで

試合を優位に運ぶのだ。だが相手が誘導通りに動かなければこの作戦は失敗する。攻撃の効かない俺に対しては相性最悪なのだ。


俺は相手の攻撃に向かっていくような動きを繰り返す。リスクしかない動きに見えるが実はこれが一番安全なのだ。相手は作戦が上手くいかないことにいら立っている。そして普通に剣の技量での勝負に切り替えてきた。


しかし、幻術と組み合わせることを前提にいままで修行をしてきたのだろう。普通に戦う時には無駄のある攻撃が多すぎる。急に戦い方を切り替えれるほどの男ではなかったのだろう。俺の攻撃の前にあっさりと降参してしまった。


「勝者、番号387、ユウタ選手」


同時に大歓声が上がる。俺のためにここまで大歓声が上がったことになんだか嬉しくなる。そして相手と握手した後、控室へと戻っていった。

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