第35話 旅の記録2

俺達は残された20日弱でさらに3つの国を巡る。どの国でも新しい発見の連続でとても有意義だった。そしてこれは最後に訪れた国のお話。



「やっと着いたー。ここがバンワー共和国最大の街メルンね。話に聞いてた通りなんだか歴史を感じる街ね」


「おぉ、王都も歴史ある方だなと思ってたけどそれ以上だな。なんだか昔の時代にタイムスリップしたような体験だ」


そう、この街はこの大陸の中でも最も古い街の一つとして有名なのである。人間がこの大陸にたどり着いてからすぐに発達した街の一つだがここ程当時の面影が残っている場所はない。歴史的に見てもとても価値のある街なのだ。


「さて、マリー様との約束の日まであと3日、なんだかあっという間だったわね。半分以上が移動で大変だったけど・・・とてもいい経験になったわ。正直もうちょっと色々な国をまわりたかったけどこればっかりは仕方ないわね」


「よーし、早速いつものように街を探索だな。面白そうなものはすぐに報告」


「いえー」


俺もサラもノリノリで街を歩き回る。そしてサラが何か面白い物を見つけたらしい。こちらへおいでとのサインを出している。


「なんだ?何かうまいもんでも見つけたのか?なになに?世界一決定戦明後日開催。希望者は今日までにコロシアムまで?」


「それだけじゃないよ。優勝賞品はなんと最高級の魔力強化石だって!」


魔力強化石とは名前の通りその人の持っている魔力量の最大値をあげるとても貴重なものである。魔物がごくごく稀に持っていてとても高値で取引されている。高値で取引されているのもあるがとにかく流通量が少なく、需要も高いため一般人の入手は非常に困難である。しかも上昇量は石によって様々なので運が悪いと大金をはたいても雀の涙ほどの魔力上昇しかないこともある。


「それってあの本に書かれていた貴重品?ならぜひとも欲しいな。参加費は・・・まぁ良心的なくらいか。俺なら優勝できると思うか?」


「ユウタなら大丈夫だって。パパっと優勝してきて商品もらってきなよ」


サラの後押しもあり、参加を決意する。



「世界一決定戦に参加したいです。受付はここで良かったですか?」


「はい、ここで間違いありません。参加は貴方だけでよろしいですか?」


「私はいいわ。ユウタが戦っているのを見るほうがいいもん」


「わかりました。ではユウタさんの参加希望を受け付けました。明後日朝9時までにこのコロシアムへお願いします。その後のことはスタッフに従ってください」


「ありがとう。大会までに他に何かしなければいけないことってあるか?」


「いえ、特にはありませんが大会ですのでルールはいくつかあります。この紙に書いてありますので大会までに一読していただけると当日スムーズに進めるかと思います」


受付の女性から小さな紙を渡される。大会での簡単なルールや大会期間中の制約などが幾つか箇条書きで書かれてあった。まぁざっくり言うと故意に殺してはいけませんよ。とか他人から補助魔法をかけて貰ったら失格などだった。


「では当日の参加をお待ちしております」


「おう、こっちこそありがとな」


思ってたよりも簡単に登録できてしまった。まぁ人が集めれたらお金が入るから誰が参加しようがあまり関係ないのかもしれない。


「待たせたな。後は明後日を待つだけだ。それまでは自由にできるから街の探索再開だな」


「お腹空いてきたから何か探しましょ」


そういえばこの街に来てからまだ何も口にしていない。サラの言葉を聞いた俺も急にお腹が空いてきた。食事できるうまい店を探すことは急務だ。


行列のできている店は所々ある。しかし、そんなに待っていられるほど今の俺達は気が長くない。意識すればするほどペコペコになっていく、このままでは干物になってしまう。


途中からもうなんでもいいとやけになり、路地裏の屋台に入る。中は薄暗く、人もまばらだ。


「おばさん、おすすめ2つ」


「あいよ、こんなところにわざわざ来るなんてもの好きねぇ」


俺は周りを見る。確かにちょっと変わった人が多いような気はする。もしかして外れを引いてしまったか?


「不安になってきたんだけど・・・」


「ここまで来たなら腹をくくりなさい。どちらにしろ今空いてそうな店はこの辺に無さそうだったんだから」


そうこうしているうちに注文の品が運ばれてくる。どうやらおすすめの品ってのは丼ものらしい。


俺達の座るテーブルに置かれ、ふたが取られる。その瞬間溜めこまれた香りが噴き出すかのように広がっていく。匂いだけで美味しいとわかり期待で胸が膨らむ。


炊き立ての米に魔物の肉と野菜と卵を煮たものを乗せたもののようだ。早速一口、口へと運ぶ。魔物の肉にある特有の臭みはなかった。そういえばふたを開けたときも臭みを感じなかったな。きっと香辛料もこだわっているのだろう。


俺達はぺろりと平らげてしまった。正直満足以外の感想はない。サラも同じ様だった。


そんな俺達の様子を見たのか屈強そうな男が近づいて来る。


「おめぇら、ここは初めてか」


「そうだ。というかこの街で初めて入った店がここだ」


「中々運のいいやつだな。ここはこの街でもあまり知られてない隠れた名店ってやつだ。変に有名になると俺達がゆっくりできなくなるからな。それに店主のもめんどくさがり屋で今くらいの量の客じゃないとやる気をなくして店を閉めちまうんだ」


「めんどくさい店主だな。まぁそんな見せたまたまとはいえ見つけれたのか」


「まぁそれはいいんだ。ここからは本題だ。そこのお嬢さん含めてお前達は相当できるな?もしかして明後日の大会目当てで来たのか?」


「んー、私達は観光で来たの。大会はたまたま知っただけ。でも参加はするわ。このユウタがね。貴方には悪いけど優勝はユウタが取るわ」


「面白いことを言うじゃねぇか。おっと、まだ名乗ってなかったな、俺はユージ、俺も大会に出るから明後日を楽しみにしてるぜ」


宣戦布告ともとれる発言をするとユージは元の席へと戻っていった。俺の直感だが彼は勝ちあがってきてどこかでぶつかるだろう。だが楽しみだ。早く明後日にならねぇかなぁ。


もっと観光を楽しみたいという気持ちと早く強者と戦いたい相反する気持ちを抱えつつ大会開始までの時間が流れていく。


そして大会当日、俺はいつもより早く目が覚める。体調はバッチリだ。さて、戦いの場へと行こう。

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