第33話 後悔

「くそ、どうしてこうなったんだ」


ファロー王国内で魔族との繋がりの合った者達は徐々に捕らえられていっている。王都で捕らえられた騎士からファロー王国内にいる内通者たちが明かされていき、追われる毎日だ。


魔族を頼ろうにもあれだけいた魔族と魔物はとある冒険者一行に壊滅されてしまったらしく、ほとんどが残っていない。仮に残っている魔族と接触できたとしても今の状況で一番目をつけられている内通者をかくまうほどの余裕はなく、追い出されるかその場で殺されるかとなっている。


どうしてこうなってしまったのか・・・発端は魔族達の提案だ。


「この大陸に魔物を大量に送り込みたいからその手引きをしてほしい。そしてファロー王国を落とせたら人間達を支配する立場にしてやる」


提案と言っても周りは多数の魔物で囲まれており、半ば強制に近い形で受けざるを得なかった。それだけではない、俺は魔物との戦闘経験もあるのでこの国にこの魔族と魔物達をどうにかできる戦力がないことも薄々わかっていた。だからこのことを国に報告することもなく魔族に従った。正直魔族が勝ってしまえば俺は何も悪くない。だって勝ち馬に乗れたってことだからな。


それからの日々は魔族がいつ侵攻を開始するのだろう、それだけが気がかりだった。正直魔族側が負けるなどと微塵も思っていなかった。


そうして魔物の手引きの日程も決まり、実際に手引きも行った。手引きの現場には俺以外にも100人くらいいたと思う。全員冒険者上がりなのかそこそこできる感じに見えた。多分、下手な素人を脅すより魔物の強さが分かっていて打算的な判断のできる冒険者を中心に勧誘したのだろう。


魔物の手引きが終わった俺はもう勝った気でいた。正直俺の想像していた魔物の数の倍以上の数があの場にいたからだ。俺だけじゃない、他にいた人間達も同じことを思っていたようだ。


そして、各地で魔物の被害が出始めていることを聞き始める。ここまでは順調だったんだ・・・。


それからも魔物の被害の報告は出ていたので最初はあまり気にしなかったのだが魔物の被害が報告されなくなる地域は日に日に増えていってた。どうやら何者かが魔物を討伐しているらしいといううわさも流れた。いや、何かの間違いだ。あの魔物達に勝てる人間なんていない・・・きっと何かの作戦だ。その時の俺はそう思うことにした。そう思っていなければやってられなかった。


しかし、現実は残酷だった。どこを調べても魔物の数が減ったという報告しかない。魔族との定期通信の時に魔物を倒して回っている者の顔を教えられた。だが、こいつらを見つけたとしてお前ら魔族は倒せるのか?と疑問にすら思い始めてしまった。


そうこうしているうちに王都に大規模な魔族と魔物の侵攻があるという話が回ってきた。おそらく残った魔物全てを使った攻撃だ。成功すればこの国に致命的な打撃を与えれるが失敗すれば今まで積み上げてきたものがすべて失われる作戦だ。俺は作戦が成功することただそれだけを天に願い続けた。


俺の願いが届いたのか最初の2日くらいはかなり優勢に戦いを進めれていたらしい。だが、ある冒険者一行が現れた途端魔族含めて魔物どもは殲滅されてしまった。正直この報告は信じられなかった。周りのみんなが喜んでいる中、俺は震えが止まらなかった。


そこから街の賑わいが冷める前に街を出ることを決意した。俺と魔族の関係がばれたら俺は確実にお尋ね者だ。だから早く行動をした。


その甲斐あったのか俺と同じ立場だった人が次々に捕まっていく知らせを受ける中、俺は順調に逃げれていた。だが、残りがもう少ないのだろう。俺が次の標的とされてしまったらしい。


ここまでが今までの出来事である。そして、もう手持ちのお金もなく、逃げ続けることはできない。


「もう逃げるのには疲れてしまった。魔族にも人間にも追われててこのまま続けても未来はない。この辺が潮時かもな・・・」


「見つけたぞ、もう逃げられないぞ」


どうやら囲まれてしまったらしい。普段の俺ならこうなる前に気付くんだがな。そういえば最近ゆっくり寝れなかったな・・・。


そうして俺は複数の兵士に捕らえられ、連行される。兵士達の話が聞こえてくる。どうやら俺が最後の一人だったようだ。そういえば逃げると決意してからもう2か月か・・・道理で疲れるわけだ。


俺はどこで間違えたのだろう。いや、生き残れる確率が高そうな判断をし続けたはずだ。まぁ今となってはどちらでもいいか。もうすべてが遅いのだ。

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