第31話 決着

「ん?なんだ?前見なかった顔がいるな。まぁいい。お前らまとめて今度こそ殺してやる」


魔族の男はこちらへと突進してくるが俺はそれを受け止める。そして俺に足止めされている魔族めがけてギュンターさんの一撃が当たる。


「ぐっ、いてぇ・・・この俺に傷を負わせるとは。その男、お前達に引けを取らないくらいの強さを持ってるな」


「ふん、まだ減らず口を叩く余裕はあるようだな。まだまだいくぞ」


流石に俺達3人から有効打がないとはいえ、4対1の状況では魔族は押されっぱなしだ。しかし、致命傷は中々与えられない。


「はぁ、はぁ、このまま戦ってたらまずいな。アレを使うしかないか」


俺の脳裏に狂暴化した魔族が浮かび上がる。


「ギュンターさん、下がって」


俺の言葉に反応し、すぐさま距離を取る。直後、魔族の様子が変わったことを感じ取る。やはりそうだったか。


「あれはなんだ?少しは知っているようじゃないか」


「俺達は狂暴化って呼んでる。理性と引き換えに戦闘能力を大きく上げているようだ。正直これくらいしかわからないんだけどな」


「そうか、わかった。で、何か対策はあるのか?」


「魔力を消費するタイプの強化ならいつか魔力切れを起こすはずだからまずはそれを狙って俺が時間稼ぎをする。そのサポートを頼む」


計画通りに俺達は狂暴化した魔族に突破されないようひたすらに時間を稼いだ。しかし、前回戦った魔族の時とは違い一撃の重さ、速さどちらも数段上だ。俺が中心となって攻撃を受けていたがどうしても受けきれないときができてしまう。そんなときにギュンターさんがいい感じに隙を埋めてくれたためなんとか持ちこたえられているといった状況だ。


気の抜けない状況が続く。俺自身はダメージは受けないが守らなくてはいけないのは自分だけではない。俺のサポートに回っているギュンターさんは魔族の攻撃を躱せてはいるものの一撃でも当たれば少なくとも戦闘不能のため彼の負担が大きすぎる。


ギュンターさんに徐々に疲れの色が見え始める。だが彼がここで離脱してしまえば後衛の2人を守ることができない。


王女の予想が外れていた場合、俺達は無駄に疲弊しただけになってしまう。そんな不安の中俺はただただ魔族の攻撃を受け続けた。


「どうした?受け続けているだけじゃ俺には勝てないぞ」


「じゃあもう少し攻撃を緩めて欲しいんだがね」


「はっ、お前らが全員倒れたら攻撃をやめてやるよ」



攻撃を受け続けている俺だがあることに気付く。最初の頃に比べて少しずつだが攻撃が鈍くなってきているのだ。


(もしかしてマリーの予想があってるのか?)


魔族の方も俺が段々と対応できてきだしていることに気が付く。それに焦ったのか絞り出すように攻撃を繰り出してくる。必死の攻撃についに後衛側に近づくことを許してしまう。


「ふははは、今までちくちくと鬱陶しかったがこれで終わりだ」


この状況は流石にまずい。サラと合流してから魔石に魔術式を入れる時間はなかった。そのため、彼女が俺達を呼び出す前に3回分を使い切ってしまった場合打つ手がない。


しかし、そんな俺の予想を裏切ってくれた。サラの手から魔石が取り出され、魔法が発動する」


本来なら魔法なんて恐れなくてもいいのだが突然の魔法の発動に身構えてしまう。魔族の男はしまったと思ったようだがもう遅い、俺とギュンターさんは魔族に追いつき、攻撃を仕掛ける。


俺達の攻撃を受けた魔族の男がよろめく、今まではこんなことはなかったから俺含めた全員が驚く。


これを好機と見た、俺達は魔族の男に一斉に攻撃をする。そしてその攻撃も今までより確実に効いているようだ。


「どうしてだ?ただ強化魔法が切れただけのはず・・・なのに魔法を使う前より体に力が入らない。いや、違う、何かこう・・・」


魔族の男がぶつぶつと呟いている。どうやら魔族の男にとってもこの状況は予想外だったようだ。しかし、この状況に付け込まないわけにはいかない。ここは戦場なのだ。


攻撃を受け続ける魔族、だが頑丈さが売りだったはずの身体はどこへ行ったのやら。次々に傷ついていき、やがて耐えきれずに倒れてしまう。


「く、くそうこんなはずでは・・・俺は騙されていたのか?いや、わからない」


「さっきからぶつぶつ言っているがどうしたんだ?さっきまでのあの何物も寄せ付けない感じはどうした?」


「この場ですぐにとどめをささないとは甘いな・・・まぁいい、今の状況は俺にも予想外だ。この魔法を使えば一時的に身体能力が著しく上がるって聞いていたんだが、魔力が尽きても自動で解除されずに生命力を奪ってしまうのか徐々に力が入らなくなってきた。あの魔法を使った時点で俺の負けは決まっていたのかもな・・・」


段々と声が弱くなっていく。正直ここまで強い男がこのような惨めな姿になっているのは敵ながら哀しい。


「こんな状況で聞くことじゃないかもしれないがよぉ、お前が使った魔法、なんなのか教えてくれないか?」


「それは私も気になってたわ。貴方が良ければだけど聞かせて頂戴」


後ろで支援をしていた2人も魔族が無力化したと判断したようでこちらへ近づいてきて質問を投げかける。


魔族はもう観念したのだろう。俺達の問いかけに対し、正直に答え始めた。

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