第28話 気まずさ

サラと別れてから早1日、最後の拠点に向かって俺達は進んでいた。


「ここまで魔物を全く見なかったな。正直お前の予想が当たってるんじゃないかって段々と思ってきたよ」


「まだわからないわ。魔物がいなかったとしても魔族が残っている可能性だってある。奴らを徹底的に叩きのめさないとまたいつか戻ってくるわ。必ずね」


「怖え・・・そういえばまだ人間と魔族の争いについて詳しく調べたことはなかったな。戦いの中で役立つこともあるかもしれないから今教えてくれないか?」


「そうねぇ、結構長くなるけどいい?」


「まぁしばらく時間あるしな。問題ないぜ」


「古すぎる時代のことはほとんど伝承だから話半分で聞いて頂戴。まずこの世界ができたとき魔族も人間もお互いを憎むことなく平和に暮らしていた。しかし、ある時一人の人間が誤ってある魔族の女性を殺してしまった。それに怒った魔族はその人間を殺した。そうしてどんどん憎しみの連鎖は続いていき、争いはいつしか人間対魔族という図式に変わっていった」


「その後も争いは続いたんだけど個々の能力は魔族の方が高かったため徐々に人間は追い詰められていき今の魔族がいた大陸からは完全に撤退したわ。その後無人だったこの大陸へ人類は移り住んだの。魔族との関係は良くなることはなく、時々今回のように魔族がこの大陸にも進出してきてるのよね。今までは全部撃退してきたんだけれど今回は本気で人間達を支配下に置こうと動いてきているみたい」


「ふぅん、もう最初の時に何があったとかは関係ないって感じなのか。それにしても人間側もこの大陸に来てから結構頑張ってるんだな」


「まぁこの大陸は地の理があるからね。今まで魔族による侵略があった時は人類が団結して立ち向かったから何とかなったんだけど。ここ100年ほどは目立った侵略がなかったから平和ボケしている国もあってそこを付け込まれたって言う感じだと予想するわね」


「なるほどなぁ、今までの話がつながってきた気がしてきたよ。もうどっちかがというか人間側がどこかで降伏するまで終わらないってわけか。人間側から魔族の支配する大陸へは行くことはないんだろ?」


「もちろん大陸から追い出された直後は何度かあったみたいなんだけど記録に残っている範囲では組織的には一度も行ったことはないわ。まぁ魔族の侵略をやっとのことで防いでるくらいだからそんな余裕はないわ」


「そうだよなぁ、魔物達にあれだけ苦戦しているのを見ると納得しちゃうな。もちろん2人みたいに強い人間もいるんだろうが魔族を複数相手にするのは辛そうだから本当になんとか耐えてきたって感じなのか。昔の人間ってかなりすごかったのか?」


「さぁねぇ、今の魔族が計画的で強いだけなんじゃない?その辺知りたいなら魔族の支配する大陸に乗り込んでみるしかないわ」


「はは、この大陸に潜む脅威を全て排除出来たらしてもいいかもな」



そして目的の場所へとたどり着いた。王女の予想通り魔族はおろか魔物すら一匹もいない。まだ約束の時間まではあるので周囲の村や街も周ってみたがやはり姿は見当たらなかった。


「本当にいなかったな。だけど王都にいるのかどうかはまだわからない。あとは賭けだな。よし、じゃあそろそろ行きますか」


収納魔法が発動され、異空間へと入る。一度入ったことのある空間だが2人で入るのは初めてである。


(あー、そういえばこの出られない空間で2人きりなんだ・・・なんか気まずいなぁ)


「いつもこの頭がおかしくなりそうな空間で1人でいる私の気持ち、ちょっとはわかったかしら?」


「あー、うん。大変だなぁ。それよりもこんな空間に俺と2人きりなんだけどなんとも思わないのか?この作戦を考えた時点ではそこまで頭が回らなかったんだ」


「別に・・・貴方も私といるの嫌じゃないでしょう?私は気にならないから適当に寝ておいて時間でも潰しなさい。それとも私と2人きりってのが気になってしょうがないの?」


「いや、別にそういうのじゃあない・・はず」


「なんだかはっきりしないわねぇ。まぁこんな場所に長時間いないといけないって考えると不安になるのもわかるわ。私も最初の頃は貴方に見せないだけで結構荒れてたわ。暇つぶしもあるっちゃあるけどやっぱりそれだけじゃ辛いもの」


「そうだったのか・・・すまん。気づいてやれなくて」


「出会ってまだ1週間やそこらの人の細かい仕草なんて気づかなくて当然。どうしても嫌なら私から言ってたからあなたが誤るのは間違ってます」


「なんかサラにも同じようなこと言われた気がするなぁ。真面目過ぎるって」


「まぁその通りね。貴方のいた世界ではそれが普通だったのかしら?まぁどちらにせよ今の状況であんまり真面目になって気を張り詰めすぎてては持ちませんよ」


「わかったよ。まぁとりあえず今はお言葉に甘えて寝るわ。何かあったら起こしてくれ」


俺は横になり、すぐに眠ってしまった。




俺が眠ったことを確認した王女は一人呟く。


「まったく、急に何を言い出すのかと思えば・・確かにこの状況嫌でも意識してしまうのかもしれないわね。ユウタが余計なことを言うから私まで気になってきたじゃない」

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