第27話 選択

「王様に今回の件の報酬なんでもくれるって約束はしたけど今回の件俺が適正な報酬要求したら出せるものないんじゃね?」


次の拠点に向かう俺はふと呟く。当然2人にも聞こえている。


「いやぁ、そうなんだよねぇ。どうする?今回の件私達以外問題解決に対してほとんどアクションを取れてない・・・悔しいけどこれが現実なのよね。魔族に対して色々とやってたんだけど結局のところこうやって個の力に頼るしかない状況になっているのはなんとかしないとねぇ」


「うーん、私はマリー様100年分で妥協するわ」


「そんな要求ですらユウタが欲しいって言わなければ断れないわね・・・」


「ん?俺が?いやいや・・・いや・・」


「ちょっとユウタ、マリー様は譲らないんだからね」


「私の未来がこの2人に委ねられてしまった。けど今もある意味そうだからあまり変わらない?」


「と、とにかく。一段落ついてからにしよう。ところで魔物の被害ってなんでこの国だけなんだ?他の国も狙われてもおかしくないと思うんだけど」


「魔族のことだから確実なことは言えないけど・・・対魔族で中心的な役割を持っていたのがうちの国なんだけど、同時に人間が治めている大陸の中で有数の国力を持つ国でもあるの。我が国さえ落としてしまえば魔族に対して反抗的な国ってのもいなくなる。言うならば見せしめとして狙われたと思う」


「俺達人類の希望ってやつじゃねーか。他の国は魔族に支配されてもいいって思ってるのか?」


「魔族怖いからねー。下手に反抗的な態度取って襲われるのは勘弁って気持ちはわかるよー。でもだからと言ってこうやって実際に危機が訪れているのにまだ同じ考えを持ってるってのはちょっと甘いよねー。今までは平和だったからそういった考えを持つのはわからなくはないけど」


「私個人としては・・・助けたくはないんだけど実際問題自分たちが狙われた時は助けろと言ってくるでしょう。そうなったら国としては助けなくてはいけなくなるかもしれないわね。だけど貴方達が手を貸さないならそもそもそんな余裕はないから無理そうだけど」


正直、ファロー王国内ですら内通者と思われる人がいる状況だ。魔族に対して甘い態度を取っている国ならかなり奥深くまで浸透されていると考えるのが普通だ。人類は魔族に支配される一歩手前の状況だった・・・そんな最悪の可能性すらある状況と考えるとこの世界に来た時点でこの争いに巻き込まれるのは必然だったのかもしれない。


「拠点をもう5つも潰したわけだけどよぉ、魔族側に撤退って選択肢は出てこないんかね」


「普通に考えればもう送り込んだ魔物達の半数以上が全滅ってことになるから冷静に判断すれば撤退を選択すると思うわ。でもこの計画はおそらく私が想像しているよりもっと前から練られていたものだと思うの。その計画があと一歩のところまで来ていたんだもの。今更引くに引けない。少なくとも私が魔族の立場ならそうしてもおかしくはないわ」


「あー、そういう経験私にもあるー。自分で魔術式作るとき明らかに上手くいきそうにないって途中で気づいてもそこでやめると負けた気になるんだよねー」


「ま、そんなわけで今すぐに撤退されることを望むより、撤退される前に1匹残らず倒して二度と来たいと思わせないように思わせるほうが後々まで考えたらいいわ」


こうやって意見をぶつけ合うのは悪いことではない。いざ戦いの場で選択を迫られた時、その人がどんな選択を取るか、ある程度予想することができるからだ。


「さーて、今日はこの辺で休むとしましょうか。街に入れないのは不便だけどあの空間にずっといるのも大概だから今の状況も私にとっては悪くないわね。貴方たち2人にとってはそうでもないんでしょうけど」


「ユウタの作る飯がまずいわけじゃないけどやっぱり店で美味しい物を食べたいー。ユウタ、あのワッフルの店長になって」


「無茶言うなよ。それより、今日は何作ろうかな。結構買ったつもりだったけどそろそろ半分くらいになってしまったか。街には買いに行けないけどこのままじゃそのうち魔物の肉しか食べれなくなるな」


「そろそろ食べれる野草とかも考えてもいいでしょう。その本、ちょっと見させてもらったけどそういう知識についても書いてあるじゃない。似ている毒草とかには注意しないといけないけど判別方法まで書いてあるから多分いけるわ。心配せずにやってみましょう」


今までは市場で買った野菜だけを使っていたがこの日からその日取れた野草も材料として組み込まれた。バリエーションが増えるのはいいことだが毎回本当に安全かどうか食べるまで分からないからヒヤヒヤする。



そんなこんなで数日何も起こらないまま次の拠点の近くまで来てしまった。今回も偵察から入るがここであることに気付く。どこにも魔族含め魔物がいないのだ。


異変は2人も気づいたようですぐに3人集まる。


「魔物がいた形跡もあるからここで間違いはないはず・・・今は近くの村でも襲っているのかしら。近くにある村々を回ってみましょう」


そうして見回ってみたが魔物の気配は全くない。もちろん今回の件と関係ない魔物は普通にいるのだが。


「なんだか嫌な予感がするわね。もう一つの拠点も見てから判断したいんだけどもしかしたら・・・残った魔物全部が王都に行っている可能性がある」


「その可能性はあるが・・・今から行って間に合うのか?ここからは早くても5日はかかる。いや、サラが空を飛んで全力で飛ばせばもう少し早くできる?」


「流石に休みながらじゃないと厳しいから3日と言ったところね。でもこれで王都が狙われてなかったらどうするの?今ここに魔物がいない。今わかっていることはそれだけだわ。マリー様の行っていることもあり得る可能性の一つってだけ。ここでその博打をする必要があるかどうか。私からは何とも言えないけど少し冷静になりなさいよね」


収納魔法を使えばサラだけ王都に向かえば俺達も自動的に王都に着くことはできる。だがこの間、特に彼女が空を飛んでいる間は無防備なうえ、俺達を呼び出せない。まして急いでいる状況なら狙われたらひとたまりもないだろう。王都近くまでのどこかに魔物の大群が展開されていたらおしまいなのである。


「そうね・・・今の発言でユウタを不安にさせてしまったわね。ごめんなさい。うかつだったわ。私ならこの状況まで追い詰められたら敵の大将を取りに行く選択をすると思ったから先走ってしまったわ。拠点を1つずつ潰しにかかっていることは魔族も気づいているでしょうからね」


「その推理は筋が通ってますが・・・やはり推測の域は出てないわ。それでも行くというなら私は止めないけど」


「流石にもう一つの拠点と王都に分かれて向かうってのは戦力的な意味でもやめたほうがいいよなぁ。俺は王都に向かうってのもアリだと思うぜ。それにもしあの魔族ともう一回戦うことになった時のためにあいつの力が必要だと思うんだ」


「それってギュンターさんのこと?確かに、ユウタの話だと彼の攻撃力は相当のような。もしかしたら彼の攻撃ならあの魔族に攻撃が通るかもしれない。それは試す価値大いにあるわね」


「2人ともちょっと待ってくれ、どちらも対応する方法を思いついてしまったかもしれない。まずサラには王都に向かってもらう。そしてここからもう一つの拠点までは大体2日といったところだ。私達はそこの拠点へ向かい、魔族や魔物がいた場合はその日のうちに片づける。そして収納魔法で異空間へと移動する。最後にサラが持ってる魔石に私の収納魔法

を入れておいて呼び出せば一瞬のうちに王都までいける」


「2人でも1日あれば拠点を殲滅はできそうね。確かにこれなら上手くやればどちらに魔物がいたとしても対処はできるでしょう。後は私が王都まで魔族に狙われなければといったところかしら」


「じゃあ、サラお願いしていいか?危険な旅路になるかもしれないが」


「一つ条件があるわ。今持ってる魔石、5つあるけれど全部私が持つ。何かあった時の自衛のためにこれは必要よ。マリー様の収納魔法には予備含めて2つ使うから3つくらいないと王都まで確実にたどり着けるっては言えないわ」


よし、じゃあ俺達はこっち、サラは王都だ。俺達がいるかどうかは・・・この間買った防犯グッズ使えないか?異空間に居ても繋がるのかはわからないけどやってみよう」


異空間越しでも中の様子がはっきりと分かることを確認する。言い出しっぺの俺が一番驚いていた。魔道具、すげー。


これで準備は整った。俺達は二手に分かれて行動を開始する。魔族め、お前達の思うようにはさせない。

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