第16話 王都とスラム

「ここが王都かぁ、サードゥの街よりでかいってのは聞いてたけど本当にでかいな」


「感動するのはそれくらいにしておいて・・・まずは聞き込みね」


王都へ着いた俺達は事前に決めていた通り情報集めをするが魔物の襲撃が増えている件についてもついでに調べることにした。


流石王都だからというべきか、あるいは前回の聞き込みから数日経ったからか王女がいないことは結構広まっているようだ。だがまだ死んでいるとまではなっていないようだった。


「こんなところかしら、これ以上情報を集めても新しい情報は得られ無さそうね」


「そうだな、宿でゆっくりするかぁ」


俺達は宿に向かうが最初の宿は既に満室らしく断られてしまった。なんでも魔物の被害が多くなってきているため、王都で足止めを食らってしまっている人がいるかららしい。


(こんなところでも魔物被害の影響が出てるのか)


3軒ほど回ってどうにか2人が泊まれる宿を見つける。予想外のことで時間を食ってしまい布団とご対面した時にはもう日が落ちていた。


「いやー、これは想像してなかった。宿が取れただけでラッキーかもな」


「なんだか大変だったみたいね・・・さて、今日の成果について教えて貰おうかしら」


俺とサラは王都で集めた情報を王女に伝えた。


「ちょっと面倒な状態ね。表向きはまだ生きていることになっているみたいだけど流石に王城の兵士とかは知っていてもおかしくないし誰が知っているか分からない。もちろん国の中枢にいる人は知っているんだろうけど」


「王城にどうやって入るかだよねー。マリー様の私物返しに来ました。マリー様がいない時は王様に直接渡すように言われてます。とか言えばいけない?」


「サラの顔は知っている人もいるしお父様とも会ったことはあるからそれで行けなくもない・・・くらいね。そうするとユウタにはお留守番してもらうことになるけどいい?」


「王様と話付けたら俺も入れるんだろ?まぁ1日くらいどっかで時間潰すからいいよ。明日の夜ここに戻ってきて結果を教えてくれ。適当に時間を潰すからよぉ」



翌朝、サラと別れ、1人になった俺は王都でゆっくりするか街の外で魔物を狩るか迷う。戦闘の訓練は欠かさないほうがいいがゆっくりできるときにしておくのも大事だ。とりあえずうろついて何もなければその時はまた考えよう。


(そういえば町を1人でうろつくのは初めてだな)


いつも横には王女かサラがいて色々教えてくれた。それはありがたいことだが同時に彼女たちに行動をある程度決められてしまってもいた。


「2人がいたら行かないようなところとかいいかもな。うーん、そういえばスラムの話をしてひどい目にあったことがあるから実際に見てどんな感じか知っておいてもいいかもしれないな」


以前王国騎士団の副団長にスラム出身と嘘をついてひどい目にあったことは今でも鮮明に覚えている。次会ったときに変なことを言わないためにも行っておいた方がいいはず・・。途中から自信にに言い聞かせるようにスラムへと向かっていった。



王都の外れにあるスラムへと踏み入れた俺は周囲から見られていることに気付く。スラム外から来たような身なり、堂々とした振る舞いの俺は明らかに浮いていた。ここにいる限りこうやって目を付けられるのは仕方がないことだ。


時に物乞いの子供に食べ物をあげたりしながら先へと進んでいく。その中でいろいろな人の話を聞くうちに王都とは違ったスラムの実情を知る。スラムの中でも上下関係というものはあり、トップのほうにいる人たちは下手したら王都内の一般庶民より豊かな生活を送っているそうだ。


(どこでもこういった格差はあるんだよな、こういう奴らを俺は助けることはできないがこういう現実を知ることでどこかで助けになる可能性はあるな)


そろそろ帰ろうかなと思い振り返ると大男が3人行く先を阻んでいる。あぁ、ここを仕切っている誰かに目をつけられたのかな。


「なんだか見ない顔がちょろちょろと嗅ぎまわっているって報告を受けたんだが・・・お前のことで間違いないようだな。俺らのボスが会いたがっている。付いてこい、言っておくが拒否権はないぞ」


その気になればこの場を離れることもできるがまだ敵と決まったわけではない。俺は男達におとなしく付いていった。



たどり着いた先は大きな建物だった。スラムらしく薄汚くはあったがどことなく威圧的な雰囲気を感じる。


奥へと案内され、この辺りのボスのように見える人と対面した。


「どうも初めまして。この辺を仕切っているクロードだ。部下達には手を出さないように言っていたけど大丈夫だったかい?」


ボスということでもっと年老いた人をイメージしたが想像より若く、30代くらいに見えた。しかし、見た目とは裏腹に落ち着いていて惹きこまれるような声だ。


「ぶっきらぼうな人達でしたけど特に何もされませんでした」


「それはよかった。さて、部下からの報告通り君は相当出来る人のようだ。そんな君がなぜこんな場所にいるのか・・・教えて貰えないか?」


これは困ったことになった。普段俺を支えてくれる2人がいない状況でどう答えたものか。とりあえず答えても問題なさそうなことを言う。それしかないと思った。


「最近の魔物襲撃の件を調査していてね、このスラムでも色々聞いてたわけだ」


クロードはふぅむと言い、考え事をする。


「まぁそういうことにしておこうかな。とりあえず私たちに敵意がないことはわかったよ。君を相手にするのは勘弁だからね」


(その割にはあの大男達の第一印象悪すぎなんだけど)


「じゃあもう帰ってもいいかな?やることあるんで」


「まぁそう言わずに、ちょっと君の実力をもう少し知っておきたくなってね。うちの中で一番強い奴と模擬戦をしてほしいんだ。ここでのことは誰にも言わないし言わせない。これでどうだい?」


強者と手合わせができるという誘惑に負けてしまい俺はすぐにOKを出した。すぐに戦闘を始めれるらしく何やら開けた場所へと案内された。


(なんだか思ってたのと大分違う状況になったけどなるようになるよな?)


対戦相手と思える人物が向かい側から現れる。一目で見るだけで強いとわかる。全身鍛え上げられていてそれを十二分に生かせるだろう剣を両手に持っていた。防具などは最低限と言った感じに見えたので守りよりは攻めを重視しているように見える。


「おっと、この場では物騒な剣じゃなくお互いにこれを使ってもらう」


そう言って木刀を俺と対戦相手に渡す。


「それではルールを、どちらかが気絶するか降参するまで。両者が同意すればすぐに始める」


「わかったそれでいい」


「・・こちらも大丈夫だ」


「俺はユウタだ。よろしくな」


「・・ギュンターだ」


「それじゃあ俺の合図で試合開始にするよ・・・始め!」

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